二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

活動内容=幸せを守ります

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

 お目当ての相手を見つけた一人が思わず大きい声を上げると、他の親衛隊が慌てて人差し指を立てて静かにするように合図する。『平和島静雄親衛隊』はあくまでひっそりと静雄を見守る事を目的としているからだ。
 僅かな隙間から覗き見える屋上の光景。そこには門田が言った通り静雄が新羅――静雄の友人である――に手当てを受けていた。
 明らかに機嫌を損ねている静雄相手に、しかし新羅は何故か笑顔でその腕に包帯を巻いている。
 ――「しっかし、本当に静雄の身体は凄いね! 一回でいいから解剖させてよ! 一回だけでいいから」「……一回でも解剖されたら終わりだろ」「いや、静雄の身体だったら大丈夫、な気がする。多分」「要は保障がねえんじゃねえか!」――
 微かに聞こえる会話に耳を立てながら親衛隊は静雄が元気であることにホッと安堵の息を漏らす。最も静雄の身体は多少、いや多大な事が起ころうと簡単に壊れるものでないことは皆知っていた。が、やはり好きな相手には元気でいてほしいというのが心情だ。
 静雄の無事を確認したところで親衛隊の視線は次なる目的に動く。しかし、一向にその姿は見つからない。短ランを身に付けたウザヤ、ではなく臨也が何処にも居ない。
「……よく考えてみたらさ、平和島君が折原臨也の居る所で大人しくしてるわけないんじゃない?」
「それもそっか」
「じゃあ、あいつはもうどっかにいったのね」
「今日こそあいつに一泡噴かせてやろうと思ったのに……!」
 実際のところ、折原臨也を相手に勝てる勝算は無いに等しい。が、彼女達は数で物を言わせばどうにかなると信じている。きっと臨也としてはそれを「俺も甘くみられたもんだね」と楽しげに笑って一蹴したい気持ちだろうが。
 手当てが終わったらしく、静雄と新羅は買ってきたであろう購買のパンと牛乳を手に昼食を取り始めた。――「あ、今日の平和島君は焼きそばパンだ!」「本当だ! 私と同じだ、ラッキー」「えー、ずるーい。私も焼きそばパンにすれば良かったー。あ、でもメロンパンも買ってる! 私もお揃いだ」――先程までの剣幕も何処へやら。女子特有の価値観で会話を始めた彼女達は背後の気配に一切気が付いていなかった。

「へえー。今日のシズちゃんのお昼ご飯焼きそばパンなんだー。俺もちょっと分けてもらおっかなー」

 親衛隊はその声に一斉に振り向いた。
 彼女達の背後に立っていたのは短ラン姿でズボンに手を入れて、妙に愛想の良い笑みを浮かべている、折原臨也だった。
「入らないの?」
 屋上を指して小首を傾げてみせる。親衛隊が静雄に極端に近づかないのを知っての台詞なだけに明らかに嫌味だった。
 突然として現れた最大の敵に親衛隊は皆一様に硬直してしまった。が、その嫌味に一人が目を吊り上げる。
「別にあんたに関係ないでしょ」
「いや、入らないならどいて欲しいなーって。凄い邪魔だよ? っていうか、女の子がそんな格好で恥ずかしくないの?」
 クスッと笑った臨也に言われて親衛隊は今の自分達の姿を自覚した。
 扉に食いつくようにへばりついて、スカートから覗くパンツもこの状態では色気もくそもない、と臨也は更に笑った。親衛隊の顔が一斉に赤く染まる。羞恥と、そして怒りが彼女達の心中に湧き上がってくる。
 スカートを慌てて抑えた一人が例に漏れず顔を真っ赤にして叫ぶ。
「べ、別にあんたに色気とかうんぬんを口出されたってどうでもいいのよっ」
「あ、そう? でも、その姿をシズちゃんが見たらきっと引いただろうなー」
「!!」
「因みにそんな君達の姿を収めた携帯が此処にありまーす」
 楽しげに掲げた彼の手には携帯電話が握られていた。そして、その画面には親衛隊のつい先刻までの姿が写っていた。
 一斉に親衛隊の顔色が変わる。
「ちょ、ちょっと! あんた、それをどうする気よ!?」
「えー? どうしよっかなー? どうしてほしい?」
 携帯電話を胸に抱えた臨也は楽しげにその場でフラフラとステップを踏む。腹立たしさを煽るその仕草に親衛隊は皆拳をきつく握り締めた。――いや、マジで殴ってもいいよね? 明らかにセクハラっていうか、犯罪でしょ? 盗撮じゃん!――と、思うが最後の一歩を踏み出せないのは戸惑いではない。臨也から醸し出されるプレッシャーの所為だ。有無を言わせぬような、人を人とも思っていないような、遥か上から見下ろしている。臨也の視線はそんな意味合いを含んでいた。
 人に対する興味を人一倍持っているくせに、彼は時折こんな表情を見せる。掴みきれない男、それが折原臨也。だからこそ怖い。今、ここで一歩を踏み出して、その後自分はどうなるのか。彼の目は未来を見せてはくれない。
「あれ? どうしたの? そんな怖い顔してるのに、何もしないの?」
 楽しげだった臨也は親衛隊の態度の変化に明らかに不服そうにする。唇を尖らせ、踏んでいたステップも止める。
「……」
 口を閉ざした親衛隊を見て、大きく溜息を吐いた臨也は先程までのからかった口調を一転させる。
「邪魔。退いてくれるかな」
 熱の冷めたそれに親衛隊は身を竦ませる。そして、咄嗟に身を引いてしまう。親衛隊が扉の前から退き、その目の前に立つ臨也、その光景はさながらモーゼが海を割いた絵を彷彿とさせた。
 臨也は礼も嫌味も言わず足を踏み出す。親衛隊が僅かしか開かなかった扉を当たり前のように開き、屋上に入っていく。僅かに隙間を残して閉じると、臨也は最後に首だけ振り向いてそこから顔を覗かせて、言った。
「ばいばい」
 口角を上げて、見下ろしてくる臨也に親衛隊は只見つめることしか出来なかった。皆、唇を噛み締めながら。


「シーズちゃん」
 軽い口調で話しかけた臨也に静雄は顔を歪めて、顔を上げた。「何しにきやがった」とまるで獣の呻き声のような低い声で言う。
「何しにって、シズちゃんの怪我が大丈夫だったかなーって心配になったから来たんだよ」
「っ! てめぇ! 誰の仕業でこうなったと思っていやがる!?」
 歯を剥き出しにして怒る静雄に対して、臨也は一歩も引かない。笑みを浮かべたまま「えっと、俺?」なんてのたまう。
「で? 大丈夫なの?」
「……」
「勿論大丈夫だよ。それを一番よく知ってるのは臨也でしょ?」
 口を閉ざし、顔を背けた静雄の代わりに新羅が答えた。その言葉の意味を臨也は汲み取ると一層笑みを深くし、その場に腰を下ろした。
「ああ、そうだよ。シズちゃんの事を一番知っているのは俺だよ」
 胡坐を組、後ろ手に体重を乗せながら臨也は得意げに言う。
 新羅は思わず噴出す。眉を顰めた臨也に謝ると、しかし、笑みを抑えきれず、手で口元を押さえながら言葉を続けた。
「いや、だってさ。君も意外と歳相応な所があるんだなーって思ったらおかしくってさ」
 笑い声を含んだ言葉に臨也は益々眉を顰める。
「……フンッ。そいつが歳相応? 蟲相応の間違いだろ」
 顔を背けてイチゴ牛乳を飲んでいた静雄がそう吐き捨てた。顰めた顔から臨也への嫌悪感が露になっている。が、そんな静雄を見て臨也の表情が和らぐ。
「もう、シズちゃんは酷いなー。この俺を捕まえて蟲、蟲ってさー。俺が本当に蟲になっちゃったらシズちゃんが一番悲しむくせに」