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長き戦いの果てに…(改訂版)【4】

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逃げようにも椅子に座って肩を押さえつけられているので逃れることもできない。
「あの時ヴェスト──ルートヴィッヒは他の部下たちを誰も近づけようとしなかった。その間ずっと側にいて一部始終を見ていたのはお前だけだ」
「そ、それは医療スタッフだってあの部屋に……自分だけでは──」
「室内から時々おかしな声が聞こえたり、そうでなければ二人いるとは思えない程、静まり返っていることが多かったと聞いている」
「それは……機能回復訓練で、お身体の痛みから出た隊長の声でしょう。かなりの無理もされていましたから……それがおかしな噂の原因になったのは知っています。回復までの期間は普段よりかなり長時間の休息を取られることも多かったですし、その時、自分は休憩に邪魔が入らないように部屋の見張りをしていただけです」
「泣き声や怒鳴り声がしたとか、ドアを開けたらお前とあいつが抱き合ってたって証言もあるぞ」
「だ、だから……それも誤解です。訓練で軽く組手をやっていた時に、たまたま入って来た医療スタッフの勘違いですよ。泣いたのは…俺です。せっかく助かったのにあんまり無茶はしないでくださいって何度も申上げたのに聞いて頂けなかったので、恥ずかしながら……それもあって何度か隊長を怒らせてしまって怒鳴られたりもしました」
「ふん……中々もっともらしい事を言うな」
ギルベルトはようやくヨハンを放してやった。
「ならお前とあいつと二人っきりの間、あいつがどうしてるのかずっと何も答えなかったのはなぜだ?部隊の人間はほとんど全員あいつがどうしているか常時知りたがっていた。だが何度聞いてもお前の答えは、ハンを押したように同じだったという証言が得られている。曰く、『回復は順調だ。リハビリに専念したいのでそっとしておいて欲しい』それだけだったとな」
「そ、それは……自分はしゃべりが上手じゃないですから、うまく説明できなかっただけです。嘘は言っていません」
「なあヨハン。嘘はダメだぜ。さっき言ったろう、お前は嘘が吐けないって。もう分かってるんだ。そら、目が泳いでるぞ?」
「嘘だなんてそんな……自分は……」
「なあヨハン、言っちまえよ。お前は何を隠してる?何もお前を罰しようってんじゃない。俺はただあいつに何があったのか知りたいだけだ。あいつが戦場で負傷した後、本当は何があったのかをな」
「何があったとは、どういう意──」
「お前も本当は、もう気づいてるんじゃないのか?」
ヨハンの瞳が不安に揺らいだ。
「俺は、あいつが心配なんだ」
突然投げ掛けられた言葉がヨハンの胸を鋭く突き刺した。いつの間にか、そこに淀んで溜まっていたどす黒いものが、胸を破って溢れ出そうとしている。

「この事は誰にも言うな、俺は大丈夫だ。お前は余計な事は心配しなくていい」
あの日の隊長の言葉が脳裏を過ぎる。
自分は隊長の言葉を信じた。隊長は強い人だから。隊長はしっかりした人だから。隊長は立派な人だから。隊長は人ではなく『国』だから。隊長は俺たち、ただの人間とは違うんだ。大丈夫、だから大丈夫。
俺みたいな、ただの人間で下っ端の部下なんかが余計な事を考えたり、口出しをしてはいけない。隊長の言い付けは何があっても守らなきゃいけない。だから──

面会謝絶が解けてフェリシアーノが訪ねてきた時、隊長の容態が急変した。幸い軍医の処置ですぐに落ち着いて、大事には至らなかったけれど……隊長はそれから少し様子が変になった。
眠っている時にうなされているのは、その前からだったが、その後は起きている間でも時々様子が変になった。ものすごく頑張ってるかと思えば、まるで魂が抜けたみたいにぼんやりしたり……
しばらくは仕方ないのだと軍医は言っていた。身体だけでなく、精神にも大きなショックを受けたのだから自然に良くなるのを待つしかないのだと。身体が良くなれば、心も共に回復するだろうと言っていた。
だけど……
大佐の言う通り俺の言ってるのは嘘だ。あの泣き声、本当は俺じゃない。変な声も怒鳴り声も全部そうだ。
一日も早く原隊復帰する必要があると言って、隊長は軍医の止めるのも聞かずに無茶なトレーニングを始めた。当たり前のことだけど、いくら隊長でも重傷でずっと寝込んでいたのにそんなに急に体が動くはずもない。
うまく行かないと言っては癇癪を起したり、何時間も黙り込んだりした。暴力をふるうようなことはなかったけど、獣みたいな唸り声を上げたり、いきなり俺を怒鳴りつけたり、泣き出したり……
「置いて行かないでくれヨハン、お願いだ、お前だけはずっと俺の側にいてくれるな?」
そんなことを言って長時間俺を抱きしめて離さないこともあった。けど決してそれ以上の事があったわけじゃない。
そんな時はいつも一生懸命に思いつく限りのいろんな言葉を掛けて慰めたり、そのまま長時間黙って抱きしめられたままでいたり、黙り込むあの人の側で何時間も何も言わずに見守ったりした。
心配で何度か軍医にも相談したけどできることは何もなかった。何かできることはないかと軍医が声を掛けても、隊長はいつも平気な振りを押し通して何も話そうとしなかったからだ。軍医はこう言った。
「後は時間が解決するだろう。今の隊長はお前の事だけを信頼して心を許しているように見える。だからお前はできる限り側にいて見守ってやれ。それ以外に今我々にできることはない」
隊長は入隊以来ずっと俺を守ってくれた。隊長は兄であり、父であり、俺にとってただ一人の家族とも呼ぶべき人だ、誰よりも大切な。
だからそんなことは苦労でも何でもない。アルノーやテオが生きていれば、きっと同じ事を言い、同じことをしただろう。
隊長は身体が元に戻るにつれて、癇癪を起したり不機嫌になったりすることが少なくなった。たまにぼんやり考え込んでいる事はあったけど、それは誰にだって時々あるような物思いと変わらない。
「今までお前には迷惑を掛けたなヨハン、俺はもう大丈夫だ。だからお前はもう任務に戻れ」
ある日突然そう言い渡されて、隊長付きを外されて元の通常任務に戻ることになった。隊長の体はすっかり回復して通常の訓練も人並みにこなせるようになり、そろそろ原隊に復帰する予定が決まっていた。
隊長が自分でそう言ってるんだし、前みたいに急に泣き出したり癇癪の発作を起こすことも無くなったし、きっと良くなったんだとその時は思った。
軍医も大丈夫だと言っていたし、もう俺がこれ以上余計な心配をする必要はないんだ。俺はそう思おもうとした。だけど何かが心の隅に引っ掛かっていた。それは何だと問われてもはっきり意識することすらできなかったけれど……
きっとこれまでは付き添いを理由にいつも隊長の側にいられたのに、突然任務を解かれて引き離されてしまったのが寂しいだけなんだ。俺の子供っぽいわがままだ。だからそんな変な考えを持ってしまうのだと思い、意識する事すら避けてきた。でも本当は最初から全て分かっていたんだ──

「な、にも……大佐がご心配になるようなことは、ひとつも…ありませんでした。自分は──何も、知りません」