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長き戦いの果てに…(改訂版)【5】

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ローデリヒが必死の説得を試みようとした時、玄関の方から激しいブレーキ音が聞え静かだった屋敷内がにわかに慌ただしさに包まれた。
館の主、ギルベルトの帰還だ。
ルートヴィッヒは反射的に立ち上がると、部屋に入ってきた兄に自分から声を掛けた。
「兄さん、ヨハンは──」
ギルベルトはふたりにちらりと目をくれた。
「まだ眠ったままだ。当分入院加療が必要らしい。運び込んだ後は会わせちゃくれなかった。しばらく顔は見せるな、だとよ」
「何だって?どういうことだ」
「俺たちの顔を見ると、ヤツがまた興奮して発作が起きるそうだ」
「俺たち、とはどういうことだ?兄さんだけだろう」
ギルベルトは意味ありげにルートヴィッヒの目を覗き込んだ。
「お前もだよ、ヴェスト。後で詳しく話してやる、飯の後で俺の部屋に来い」
ギルベルトはそれ以上何も言わず自室へ向かった。ずっと軍服のままだったので着替えるのだろう。ルートヴィッヒはそう言われて初めて、少しも空腹は感じないがディナーの時間はとうに過ぎていることに気が付いた。家令の指示で主の帰宅を待っていた召使いたちが、慌ただしく遅いディナーの支度を始めた。

バイルシュミット家の豪華なダイニングルームで、見た目は普段と変わりないディナーが始まった。
いつもならおしゃべり好きな当主が率先して様々な話題を提供し、ルートヴィッヒがそれに適度に相槌を入れながら付き合うところだが、今夜に限ってはしゃべるどころか、にこりともしない。それどころか必要最低限以外は誰も口を利かず、終始ピリピリした雰囲気に召使たちは戦々恐々としていた。
特に主の弟は今、普通の状態ではない。
ルートヴィッヒが元々無口なことは誰でも知っているが、朝のあの騒動から食事もせず、ずっと部屋に引きこもりっきりだったため、屋敷の者たちは不安を覚えていた。
それがギルベルトの連れてきた若い来客の騒ぎでようやく姿を見せた。扉を壊したのはともかく、力強い活躍で騒動を収束に導いた頼もしい姿にこれでいつもの弟様に戻ったかとほっとしたのも束の間。
リビングに陣取ったルートヴィッヒは、そばに寄り添って何くれとなく話しかけるローデリヒにもほとんど関心を払わない。眉間に深い縦ジワを寄せて一言も口を利かず、険しい表情でうつむいて考え込んだままだ。
お茶でも、などと気を利かせたつもりでうかつに声を掛けようものなら、何が飛び出すか分からない。それで呼ばれでもしない限り、誰も側に近づこうとはしなかった。
夜もとっぷりと暮れ、ギルベルトの帰宅を待ってようやく全員が食卓に就いたものの、普段は召使たちにもねぎらいの言葉を掛けるルートヴィッヒが今夜は誰とも目を合わせず、うつむいたまま。食事も機械的に口に運んでいる。
唯一ローデリヒだけがこのディナーの席上で平静に振る舞っていたが、実際はこの後何が起こるかと思うと内心穏やかではなく、シェフが腕を振るった料理も何を口にしたのか覚えていないような有様だった。
ギクシャクした雰囲気の中、拷問のようなディナータイムがようやく終わった。
主人たちが席を立つと、召使たちは心底ほっとした様子でそそくさと後片づけに取り掛かった。

書斎の扉を控え目にノックする音。続いて小声で呼びかけてきた。
「兄さん、俺だ」
「入れ」
短く答える。だがドアが開いたのを見て、ギルベルトは顔をしかめた。
弟と一緒にローデリヒが立っている。
「何だ?お前は呼んでないぜ、坊ちゃん。こいつは俺たち兄弟の話だ」
「お忘れですか、この件については私も当事者ですよ」
ローデリヒは襟元を緩めてみせた。スカーフの陰から現れたのは、喉元にくっきりと刻みつけられた紫色の指の跡。ルートヴィッヒがわずかに顔を歪めた。
「……入れ」
ギルベルトは小さく舌打ちすると、ローデリヒに向かってあごをしゃくった。
「失礼致します」
ローデリヒは襟元を整えると顔色一つ変えず、優雅に一礼して扉をくぐった。ルートヴィッヒも部屋に入ると静かに扉を閉めた。
ギルベルトは無言で設えられた応接セットを指し示すと、自分は奥の一人掛けにさっさと陣取った。
向かい側にルートヴィッヒとローデリヒが並んで腰を下ろすと、ギルベルトは何かを推し量るようにひとしきり二人を見渡した後で口火を切った。
「……それで?」
ギルベルトは弟の顔をじっと見た。何か思いつめた様な顔をしているが、さて……
「何から話す、何が聞きたい?」
ギルベルトは落ち着いた表情で、口元には余裕の笑みすら浮かべている。
ルートヴィッヒは一瞬ためらうように目を逸らしたが、再び兄に向き合うと、何かを決意したように口を開いた。。
「まずヨハンの様子を詳しく聞きたい、あいつは大丈夫なのか?それにあの時、何があったのかも話してもらいたい。俺は直接の上官だ、聞く権利があるだろう?」
ギルベルトの表情が険しくなる。
「言っとくが俺はお前の兄で、上官でもあるんだぞ?分かって言ってんのか」
紅い瞳には剣呑な光が宿っている。獲物を狙う鷹のような目。普通の人間ならそれを見ただけでひるんでしまうだろう。だがルートヴィッヒにもう迷いはなかった。
「もちろんだ、俺はあいつの保護者でもある。それにあの騒ぎを起こしたのは兄さんだろう」
「ちっ、態度のでけぇ弟だぜ、全く。親の顔が見たいや」
そう言ってギルベルトはニヤリと笑った。
「ハッ!おまえの保護者は俺だったな」
緊張の極に達していた二人は思わぬ肩透かしに面食らったが、おかげで一気に肩の力が抜けた。
「ま、いいさ。約束だ、話してやるよ」
ギルベルトはヨハンの命に別状はない事、精神的にかなり不安定な状態になっているので、落ち着くまでしばらく入院が必要と言われた事などを伝えた。
「ああなった直接の原因を作ったのは確かに俺だ。だから当分あいつの前には顔を出すなって言われても文句はないさ。だがな、子供でもあるまいし、ちょっとキスした位であんなになるなんておかしいじゃないか」
「それじゃ兄さん、あの時はキスしただけだっていうのか?つまりだ、まだ、その──」
「触っただけだ、まだ突っ込んじゃいねぇ」
ルートヴィッヒはめんくらったように口ごもり、頬を赤らめた。
「いきなり何てことを言うんですか、この人は!お下品ですよ」
黙って聞いていたローデリヒがギルベルトを睨みつける。
「何だよ、お前らの聞きたいのはそこだろ?上品に言おうと言うまいと、やるこたぁ一緒だ」
「いや、その……いやもういい、兄さんの言いたいことは分かった。だがあの時ヨハンは裸だったから俺はてっきり──」
「もうヤッちまったかと思ったのかよ。それであんなに目ぇ吊り上げてたのか?お前、あいつに気があるなら何で先にやっ──」
「待ってくれ、兄さん」
ルートヴィッヒは兄の言葉を慌ててさえぎり、ローデリヒの方へもちらりと目をやる。
「違うんだそれは、兄さんは知らないだろうが訳があるんだ」
「訳って何だ?あいつがお前に気があるのは分かってたんだろう?」
「……何だって?」
戸惑う弟に構わず、ギルベルトの言葉は続く。