二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

長き戦いの果てに…(改訂版)【5】

INDEX|3ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

「それを何だ、あんな蛇の生殺しみたいに、かわいそうじゃねぇか。だから俺が代わりにかわいがってやろうと思ったんだよ、何が悪いって言うんだ?俺に声を掛けられて嫌な顔したヤツは今までいないぜ」
「…何の事だ?」
「とぼけるんじゃねぇ、ヨハンがお前に惚れてるって分かってて、やったことなんだろう」
「やったとは何のことだ、何を言ってる?それにヨハンが俺に…惚れてる?」
ギルベルトの表情が不審げになった。
「あいつがああなった直接の原因は俺だとさっき言ったな、それに俺たちは当分ヨハンのとこへは出禁だって言ったのも覚えてるな?」
「もちろんだとも」
「つまり引金を引いたのは俺だが、そうなる原因はもっと以前からあったってことだ。そしてお前もそれに関係がある」
ルートヴィッヒは更に眉間に縦ジワを寄せて考え込む表情になった。
「……どういうことだ?俺はてっきりあの事が原因なのだと──」
「あの事って何だ」
「兄さんはもちろん知らないと思うが……基地内で過去に何度か暴行事件が起こっているんだ」
「暴力沙汰なんざ今更珍しくもねぇ」
「その……ただの暴力事件ではない、何と言えばいいのか──」
ルートヴィッヒが言い淀んでいるのを見かねて、ローデリヒが助け船を出した。
「性的暴行──ですか」
ルートヴィッヒは黙ってうなずいた。
「およそ好ましいとは言えないですが、ああいった場所では時々起ることがあります」
「それで、あいつもやられたってのか?そりゃ確かに気の毒だが──」
「冬の話だ。性的暴行を受けただけでなく、ひどく殴られたり蹴られたりしたらしい。意識を失ったのをそのまま放置されて、危うく凍死するところだった」
「……」
「俺が見つけたんだ……酷い有様で最初は死んでるのかと思ったよ。まだ辛うじて息をしていたので急いで軍医の所へ運んだ」
その後証言があり、数人でヨハンを人気のない倉庫に連れ込んでいたことが判明した。おそらくそこで暴行したのだろう。だが被害者が男性だった為、レイプの事は伏せて、ただの暴力事件として処理された。主犯格は殺人未遂で刑務所に送られ、獄中生活を送ることになったが、後の数名は主犯格の指示に逆らえず犯行に加担しただけとのことで、ごく軽い処罰を受けたのみだった。
だが被害者に取って、ことはそう簡単に済むものではない。殴られ蹴られ、辱められた上に放置され、発見された時には命も危うい状態だった。何とか命は助かったものの、心にも深い傷を負い、心身共に回復するにはかなりの時間を必要とした。
「以前からそういう事件が軍の内部で起こっていると噂には聞いていたが、目の前で被害者を見るのとでは全然違う。ただの暴力沙汰ならともかく……正直ショックだったよ、俺の部下にそんな下劣な奴らがいるなんてな」
ルートヴィッヒはその後ようやく復隊したヨハンに、同じ部隊で先輩のテオドル・バーゼルトを付けてやることにした。幼い弟妹の世話をしていたこともあって親切で面倒見がよく、しっかりしていて目配り気配りできるところを見込んでのことだった。
テオドルはルートヴィッヒの期待に応え、さりげなくヨハンに近づいて親しくなることに成功した。先輩として何くれとなく面倒を見てやり、それとなく身辺に気を付けてやることも忘れなかった。
やがてヨハンも軍の生活に慣れ、自分で自分の身を守れるようになっていったが、テオドルはその頃すでに上官の思惑を越え、ヨハンと本当に親しくなっていた。
「そんなこともあって、あいつのことは気になって……何かと面倒を見ていたから、俺に何か、ただの上官として以上の意識──親しみとか何かを持っていたとしてもおかしくはないと思う。ただ惚れていたかどうかと言われても、俺にはよく分からないが……」
「お前にゃ降参だ、ヴェスト」
黙って聞いていたギルベルトはそう言うと肩をすくめ、大げさに両手を広げてみせた。
「お前の天然っぷりには勝てねぇよ。あいつが異常な程、お前に懐いてる理由がこれでようやく分かった」
「天然って何だ」
また険悪な雰囲気になりそうなのを察して、ローデリヒが慌てて割って入る。
「まあまあルート、それよりまだ聞くことがあるんでしょう?」
「む……」
言いたいことはまだあったが、そこはぐっと堪えてルートヴィッヒは本題に入った。
「とりあえず病院に任せておけば心配ない事は分かったから、それはもういい。俺が聞きたいのは、そもそも何のために兄さんがヨハンをここへ連れて来たのかだ。あいつは目立たないから前から目を付けてたってわけじゃないだろう。ただの偶然か、それとも何か他に目的あってのことか?それにさっき、あいつがああなったのは俺にも関係があると言ったな、兄さんは先生とどんな話をしたんだ」
ギルベルトは真剣な表情に戻ると、弟の目をじっと覗き込んだ。
「俺がしたかったのもその話だ、ヴェスト」
「何?」
「あいつがレイプされたって話は俺も確かに知らなかった。あいつにとっては相当キツイ経験だったと思うぜ、その点は気の毒に思うさ。だがさっきも言ったろう、原因はそれだけじゃないんだ」
「それだけじゃないとは、どういう意味だ」
「何から話せばいいのか──ともかく、あの発作には今回のお前の一件とも関係があるってことだ。この部屋へ来た時に坊ちゃんが言ったようにな」
「何だって?」
ルートヴィッヒは戸惑っていた。
兄が自分の事を調べようとして軍関係者に──恐らくは自分の部下たちに何か探りを入れたのだろうと予想はしていた。ヨハンは中でも子飼いの部下の一人だから接触を試みるのは当然だ。その時に何となく気に入ったという理由で、いつものように屋敷に連れ込んだのも容易に想像がつく。
ところがヨハンには暴行事件のトラウマがあった。それが原因で兄の行為は思いも寄らぬ事件を引き起こした。知らぬこととは言え、ひと一人の命に係わる事件に発展したことを考えれば結果は重大だ。だが兄がその事を認めて素直に謝れば、今回の件には釘を刺すくらいで、そんなにしつこくするつもりはなかった。
兄は元々手が早い男だとは言え、こんな事になったのはそもそも自分の起こした騒ぎが原因なのは間違いない。その件については、この後正直に話して始末をつけるつもりでいた。ローデリヒもそのことを指して「自分も当事者だ」と言ったのだ。だが、それだけではないと言うのか?
戸惑うルートヴィッヒに構わずギルベルトは話を続けた。
「先生にも話したんだが、あいつも最初はそんなに悪い感触じゃなかった。だからそれだけが原因であんなになったとは、どうしても思えないって事をな」
ギルベルトはその時の事を思い出しているのか、口元が少し緩んでいる。
「何せあいつときたらキスしただけでトロトロになっちまうし、どこに触っても反応が良いし、かわいい声を出すしで、久しぶりに実にやりがいがあったね──何てぇか、惜しいコトしちまったよなぁ。口では嫌だとか言ってたが、あいつも多少は楽しんでたはずだ。普通ならあのままうまく行くんだが──」
「そんなことを聞いてるんじゃない」
ルートヴィッヒは頬に赤みが差したのをごまかすように眉をひそめ、わざとぶっきらぼうに言い放った
「いや、関係があるのさ。あいつにいつ、何が起こったのかを解き明かすためにはな」