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長き戦いの果てに…(改訂版)【8】

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19.ギルベルト




突然、部屋のドアを激しくノックする音がした。
ノックというよりドアを叩き壊そうとしているのではないかと思う程激しい叩き方だ。
「何ごとですか!」
「……兄さんだ」
ローデリヒが驚いて叫んだが、ルートヴィッヒは顔色一つ変えず、バスローブのままで出入り口に向かった。
「待ってくださいルート、私が」
「いや──」
そこで待っていてくれと諭されるとそれ以上何も言えず、ローデリヒは待つしかなかった。
「待たせてすまない、兄さん」
ドアを開けると果たしてそこに立っているのはギルベルトだった。
再度ノックしようと降り上げた拳を、あわてて引っ込める。
「お前、何て格好だ!今まで何してた?」
「すまない、シャワーを浴びていた。とりあえず入ってくれ兄さん」
着替えてくる、と言い残すとルートヴィッヒは奥へ姿を消した。
部屋にはローデリヒとギルベルトの二人が残された。

「お前がついてて、何やってるんだ!盛るには早すぎるぜ!まさかこれでもう何もかもけりがついたとでも思ってるんじゃないだろうな」
「何をお馬鹿なことを言ってるんですか!あなたこそ、年から年中、盛りのついた犬みたいなくせに、よくそんなことが言えたものですね」
口に出した後でしまったと思ったが、もう後の祭り。
ルートヴィッヒのために何とか事を穏便に済ませたいと、そればかり考えていたのに、売り言葉に買い言葉はよく言ったもので思わず口が滑ってしまった。
ギルベルトを説得するどころか、浅はかで下品な言葉を口走ってしまった自分に、ローデリヒは嫌悪感を抱いた。何とか冷静さを取り戻さなくてはと焦ったが、焦れば焦るほどうまく行かないのも人の性というものだ。
「ふざけんな!何だ、その言いぐさは!」
「あなたこそ何を言ってるんですか!」
これはまずいと思いつつもお互いに引くに引けず、下らない言い争いがヒートアップしていたその時、
「何をやってるんだ!」
思わずそろって声のした方へ振り向くと、身なりを整えたルートヴィッヒが部屋から出て来た。お互い危うく手が出そうだったのを、あわてて引っ込める。
「ふたりともやめてくれ……頼む、悪いのは全て俺だ」
ルートヴィッヒにしてみれば子供のけんかのようなやりとりを目にして、思わず叱り付けたのだろうが、すぐに罰の悪そうな表情になった。
ローデリヒはそれを見た瞬間、我に返って赤面した。そんな事を言わせるなんて、みっともないのはこちらの方だ。
二人ともルートヴィッヒの顔を見ると黙って次の言葉を待った。
「元はと言えばすべて俺から始まったことだ、俺の短慮で皆に迷惑を掛けた。本当にすまないと思っている、この通りだ」
ルートヴィッヒはいきなり床に身を投げ出すと、二人の前に土下座した。
「言い訳はしない、全て兄さんの思う通りにしてくれ、どんな罰でも甘んじて受けるつもりだ」
「ルート、そんな……!あなたは何を言って──」
ローデリヒは驚いて、あなた一人が悪いわけではない、事情だって色々あったのだから──と途中まで言いかけたが、ギルベルトの顔をみて口を閉じた。
ギルベルトは無表情になり、すうっと紅い目を細めた。
「そうか……なるほど、いい覚悟だ」
背筋に薄ら寒いものが走る。
「どう……する、おつもりですか」
「黙ってろ、これは俺たち兄弟の問題だ」
ローデリヒは耐えられずに思わずヒステリックに叫んだ。
「兄弟だというなら、私だってその一人です!」
「お前には関係ない、これはドイツ帝国の問題だ」
「しかし──」
なおも言い募ろうとしたが、それを止めたのはルートヴィッヒだった。
「ローデリヒ、兄さんの言う通りだ。これは……俺たち兄弟の問題だ」
床に額をすり付けていたルートヴィッヒが顔を上げて、そう告げた。
「俺がいつ、しゃべっていいと言った、ルートヴィッヒ」
「そんな言い方は──!」
「黙ってろ!何度も言わせるな」
ギルベルトはローデリヒの方を見もせずそう言って遮った。
「これはけじめの問題だ。俺たち兄弟だけで話をつける」
だが──と、ギルベルトはおもむろにローデリヒの方を見た。
「この件に関してはお前も被害者だ。そしてこいつのやったことに関しては、俺にも責任がある。だからその件も含めて、こいつにはけじめを付けさせる」
「……」
言葉を失ったローデリヒに構わず、ギルベルトは弟に指示した。
「立て、ルートヴィッヒ、俺の部屋に来るんだ」
「待ってください、ギル──」
ローデリヒの懇願にも、ギルベルトは取り合おうとしなかった
「ここからは二人だけで話す」
「でもさっき、私も被害者だと──」
「言ったはずだ、その件も俺がけじめをつけると。これ以上の口出しはいっさい無用だ」
ルートヴィッヒがゆっくりと立ち上がると、それを合図にギルベルトは無言で背を向けた。ローデリヒは唇を噛みしめたが何も言えず、黙ってギルベルトをにらみつけた。
 兄の後についてドアをくぐる時ルートヴィッヒが振り向き、一瞬ふたりの視線が絡み合ったが、それもほんの束の間、そのまま彼は何も言わずに部屋を出て行った。


* * *


ギルベルトの後について部屋に入ると、ルートヴィッヒは後ろ手で静かにドアを閉じ、鍵を掛けた。
ここからは兄と二人きり──この国そのものである兄弟ふたりだけの話し合いの場だ。誰にも邪魔をさせるわけには行かない。たとえそれが愛するローデリヒであっても。
  対決の幕はギルベルトの手で切って落とされた。しばらく背を向けたまま黙っていたかと思うと突然振り向き、ルートヴィッヒの襟首をつかんだのだ。
きつく締め上げられて息が詰まりそうになる。
燃え盛る深紅の瞳が、押さえきれない怒りに震えているのが分かる。
誰よりも尊敬する兄にそんな目で見られるのは死ぬより辛い。物のたとえなどではない。いっそのこと本当にその炎で自分を焼き尽くして、この世界から消し去ってくれれば良いのにとすら思う。
だが、ほんの一瞬でもそんなことを思った自分をルートヴィッヒは恥じた。犯した罪の重さを考えれば、そんな風に逃げることは許されない。自分は罪にふさわしい罰を受けなくてはならない。兄の声が遠くから聞こえる──
「ルートヴィッヒ──この大バカ野郎が!自分が一体、何をしたのか分かってるのか?」
「わ…かっている、兄さん」
掠れた声で辛うじてそう答える。
兄は抑えきれない怒りに震え、一語一語区切って言い聞かせるように話してた。
だが当のルートヴィッヒは今の状況をまるで他人事のように感じていた。
首を絞められ、咎められてるのは自分なのに、まるで実感がないのはなぜだろうと、ぼんやり考える。
分かるのは自分の罪の重さ。それだけが現実の痛みとして実感できる。自分のような罪深い者が、どうして兄の前におめおめと立っていられるのか、そう考えるだけで気が遠くなるような気がする。
どんな恐ろしい罰も厭わない。拷問でも、生涯幽閉でもなんでも。自分の身がどうなろうと構わない。ただ一刻も早く兄の手で罰して欲しいと、それだけをルートヴィッヒは願っていた。
「おまえは……どうして──」
ギルベルトの声がまた途切れる。
だが永遠とも思われた数秒の後に、兄の口から出たのは思ってもみない言葉だった。