倫理的で道徳的とは限らない。
ゾウアザラシの数にも影響 その後、1997年の出来事が決して偶然でないことが判明する。2017年、南アフリカ西ケープ州で、5頭のホホジロザメが海岸に打ち上げられたのだ。シャチがホホジロザメを殺す姿が目撃されたわけではないが、過去の事例と類似点があり、シャチが有力な容疑者として浮上した。(参考記事:「【動画】巨大ホホジロザメ、映像では過去最大級」)アンダーソン氏によれば、これらの出来事は、シャチ、ホホジロザメという2つの捕食者の相互作用が食物連鎖に大きな影響を及ぼし得ることを示唆しているという。例えば、アンダーソン氏は最新の研究で、シャチの存在によって、ファラロン諸島の周辺からホホジロザメが追い払われ、その結果、ホホジロザメの主食であるゾウアザラシのコロニーが恩恵を受けていると指摘している。1997年の一件が起きた後、ホホジロザメの個体群は通常より早くファラロン諸島を離れ、毎年恒例となっていたゾウアザラシの襲撃をあきらめたと、アンダーソン氏は述べている。 2006年から2013年にかけて、アンダーソン氏のチームは165頭のホホジロザメに音響タグを装着し、仮説の裏付けを取った。ホホジロザメがシャチと遭遇した年は、ホホジロザメがゾウアザラシを食べる数が減少していた。次ページ:ホホジロザメの肝臓はなぜおいしい?
シャチの集団が隊列をなしてシロナガスクジラに体当たりを仕掛ける珍しい動画が、ドローンで撮影された。2017.05.30 「このときシロナガスクジラは体をよじり、水の壁のようなしぶきを上げて、シャチをはるかに上回るスピードで逃げていきました」と話す。「おそらく、単に面白かったからでしょう」とブラック氏。「ネコが獲物と遊ぶのと同様、シャチはクジラなどの獲物をからかうのです。とても遊び好きで社会性が高いですから」「シロナガスクジラは怖がりですから」とブラック氏は言う。(参考記事:「【動画】授乳中と思われるシロナガスクジラの親子」)シャチは通常、おとなのシロナガスクジラやコククジラを苦労して倒したりはしないが、クジラの母と子を追い回すことはある。母子を引き離し、子クジラが疲れて逃げられなくなったところで楽々と襲うためだ。 4月から5月にかけて、コククジラは出産をするメキシコ近海から、餌場であるアラスカ近海へ移動を始める。子クジラを従えてモントレー湾を通過する時期には、シャチの数も増えるのが普通だ。ブラック氏は、湾内で子クジラを狙うシャチは4月には33頭にも上ったと推計している。(参考記事:「【動画】シャチの群れ、コククジラ母子を襲う」)2012年には、この海域で興味深い行動が見られた。今しがた殺したばかりのコククジラの子をシャチの群れが食べようとしていると、ザトウクジラの群れが妨害したのだ。ザトウクジラの意図について確実なことは言えないものの、同様の出来事は世界中の複数の海域で観察されている。科学者たちは、クジラは利他的に行動することがあり、他のクジラをシャチの攻撃から守ろうとしたのかもしれないと考えている。(参考記事:「ザトウクジラはシャチから他の動物を守る、研究報告」) シャチがクジラのような大型の獲物を狙う場合、その周囲を集団で円を描きながら泳いで、逃げられないようにする。シャチが水中で意思疎通する方法は多彩で、複雑に体系化された鳴き声もその1つだ。互いの音声は数十キロ離れていても聞こえるため、シャチは独特の鳴き声とホイッスルで信号を送り合い、さらにクリック音も使って獲物の位置を特定する。ところが、狩りの最中にシャチは全く音声を発しないため、どのように攻撃態勢を整えるのかはわかっていない。今回ドローンで撮影された映像からは、気配のなかったところから複数のシャチが同時に姿を現し、その時点で整然と一列に並んでいるのがわかる。(参考記事:「獲物を追い詰めるシャチの群れ」)「きわめて統率が取れています。信じられません」とブラック氏も感嘆する。「どうやってこれほど正確に立ち回れるのか、わかっていないのです」 ブラック氏によると、シロナガスクジラに体当たりしたのは、何らかの練習だったかもしれないが、物静かな巨漢にちょっかいを出しただけの可能性の方が高いそうだ。「シャチは子どものようなところがあります」とブラック氏。「クジラの反応を見たかっただけでしょう」
作品名:倫理的で道徳的とは限らない。 作家名:MultipleWoun