ココロのほんのひとかけら
「うわ~・・・や、やっぱり閉まってる・・・」
まぁ時間帯を考えれば、それも当然かと思うが。
遊戯は硬く閉ざされた正門に手を付いて、かっくり、と肩を落とした。
「つーかーれーたー・・・」
いつもはバスを使う道のりを頑張って自転車で辿って来たというのに、これだ。忘れ物一つを取りに来るのに、家からはちょっと面倒な距離なのだ、うちの学校は。
・・・まぁ、忘れ物する方が悪いんだけど。
それでも自然拗ねたような口調になるのを止められず、遊戯はもう一つ大きく息をついた。
不意にすぐ傍で小さく笑う気配を感じて、遊戯はぽり、と頬をかいて決まり悪げに笑った。
『・・・大丈夫か、相棒?』
少し苦笑するような気配。もう一人の遊戯の声がする。
さりげなく辺りを見回して人通りがないことを確かめると、遊戯は声を抑えずに答えながら笑い返した。
「うん。・・・ごめんねー、途中替わってもらったのに。やっぱり閉まっちゃってたよ」
『時間も時間だし、時期もアレだしな・・・。でも明日必要なものなんだろう?門、越えるか?』
替わるぞ?
「ううん、大丈夫。確かフェンスの・・・向こうの方に・・・」
とことこ、とフェンス沿いにグラウンドを眺めながら道を行く。
『・・・何処行くんだ?』
「前に城之内くんと本田くんに教えてもらったんだ。フェンス、一箇所壊れたまま放っておかれてる所があるんだって。何か、木の枝でうまく隠れてて・・・」
用務員さんと仲良くなった時、こっそり教えて貰ったんだって。
『なるほどな。道理でうまく風紀の監査の日、かわしてると思ったぜ』
「抜け道通って入って来てたんだねー。・・・あ、ここかな?」
ふと見ただけでは何とも思わないが、微妙に不自然に道に木の枝が張り出している。
ごそ、と枝を避けてみるとフェンスに丁度人が一人抜けられるくらいの穴が開いていた。
ビンゴ、だ。
木の陰から覗くそこは誰もいないグラウンドと、闇の中にぼんやりと浮かぶ、無人の校舎。
――――昼間と全く違う、カオ。
今は深い闇に支配され、常なら絶える事のない生徒の声も何もない。
夜の闇と、薄雲の掛かった月の光の下、見慣れているはずの校舎は全く違うモノに見えた。
「・・・忘れ物取りに来ただけなのに、何か・・・ドキドキしない?」
『ちょっとした探検気分だな』
「うん、ホントに。…ちょっと怖いけど。・・・よっと。お邪魔しまーす・・・」
作品名:ココロのほんのひとかけら 作家名:みとなんこ@紺