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みとなんこ@紺
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ココロのほんのひとかけら

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「わ・・・」
思わず遊戯は息をのんだ。
密閉された空間である教室は、廊下より更に闇が深いのだと思っていた。
だがグラウンド側の窓からは、眩いほどの光が射し込んで。ただの机や、椅子や、黒板なんかを。見慣れているはずのそれを、はじめて見るような物に、見せている。
『…雲が晴れたな。月が出てる』
さっきまで掛かっていた薄雲は晴れ、満月に近い丸い月が眩いばかりの光を振りまいていた。
もう一人の遊戯の静かな声に誘われるように、遊戯は窓際まで寄って同じように無人のグラウンドを見渡してみた。
淡い金色の月の光は、地上に届く頃には辺りを青一色に染め上げる。
まるで・・・。
「・・・・・・海の底にいるみたい」
『――――…ああ』
ほんの少しの間をあけて、彼は返事を返してくれた。

ほんの少しの。
――――不自然じゃないくらいの短い間に、もう一人の自分はきっと違う事を考えた。
・・・何か、自分には見えなかった事を考えたんだろうなと、自然とそう思った。
うっすらと綺麗な光に包まれた半身は、じっと外を見ている。その横顔を見つめていたら、何か、いい知れない気持ちが浮かんでくる。
遊戯はそっと目を逸らした。

・・・最近、何処か遠いところを見ているね、と。

聞きたいけれど、聞けない問いを心の内だけで繰り返す。
…その答えを、まだ聞きたくない、のだ。
もう少しだけで良いから。
祈るような気持ちで繰り返す。
月の光を逆光に、闇に薄く浮かび上がるその背に。

…ああ、いつもそうだ。

『…相棒?』

ほんの少しだけ低い、響きのこの声と、
この背中が、ずっと側にあった。
あの時から、いつも。
庇うように、そうっと護るように、道を示すように。
ずっと、側にいてくれた。
ほら、こうして目を閉じて視界を闇に閉ざしたとしても、真っ直ぐなその背を、覚えている。

途端、こみ上げてくる気持ちに。
何だろう、暖かいような、泣きたいような、そんな切ないような気持ちになって。

「どうかしたの?もう一人のボク」

・・・それでも、答えるように、自然に浮かんできたのは笑みだった。




・・・ねぇ?
ボクは
振り返らないキミの、支えになっているのかな。
少しでも、助けることができているのかな。

ねぇ

そしてこれからも、どうか。


どうか、この時を。できるだけ長く。



『・・・いいのか?』
「え?」
いつまでたっても動こうとしない遊戯を、半身は訝しげに見下ろした。
『忘れ物、取りに来たんじゃないのか?』
「あ」
危うく忘れる所だった。
ぱたぱたと慌てて自分の机へ向かう相棒を見下ろして、何しに来たんだがと言いたげに彼は笑った。
・・・先程のその表情には、気付かない振りをして。