桜の木の下で
結局、何のかんのと宴は盛り上がった。
お腹も一杯になったことだし、と。
御伽が、面白半分に覚えてきたという、トランプを使ったクローズアップマジックを披露して、皆の大喝采をあびたのを皮切りに。皆に請われたもう一人の遊戯が教えた、コインを使ったゲームにはじまり、いくつかゲームなんかをして、あっという間に時間は経った。
一頻り騒いだあと、休憩と本田が席を立ったのを期に、今はそれぞれ花を眺めたり、本を読んだり、寝転がったり、好きな事をしている。
穏やかな時間だった。
「――――桜の下で宴会、ってーと思い出すんだわ」
ぽそ、と小さく零れた呟きに、もう一人の遊戯はゆっくりと視線を巡らせた。
「城之内くんはお花見経験者なのかい?」
「ガキん頃、一度だけだけどな」
そうか、ともう一人の遊戯は答えただけだ。城之内の、言葉の奥にあるものにまでは触れようとしない。あるがままに事実を受け入れる、そんな距離を保って。遊戯も、半身の隣に腰掛けたまま何も言わずにそこにいる。
沈黙はほんの短いものだった。
「・・・何かガラにもなくひたっちまうな、こいつ見てっと」
ごん、と幹を叩いて笑った城之内は、もういつもの彼だった。
もう一人の遊戯はゆるりと笑う。
「センチメンタルな城之内くんなんて珍しい物見せてくれたのは凄いと思う」
「・・・どーゆー意味だ、そりゃ」
憮然とした城之内が小さくぼやく。その中に少し照れが混じっているのはご愛敬、だ。
「城之内ー、ちょっとー!」
下で杏子が呼んでいる。
あんだよ!とさっきの照れも続行中なお陰でガラ悪く返しておいて、城之内はすい、と振り返った。
「悪ィな、妙な事聞いちまってよ」
あー、慣れない事は言うもんじゃねぇな。決まり悪そうに鼻の頭を掻いて、辛気くさいのはヤメヤメ、と大きく伸びを一つ。
「んじゃ何か呼んでるみてーだし、行くわ。お前は?」
「もう少しだけここにいる。何かあったら呼んでくれ」
OK、と合図を送って城之内は一気に飛び降りた。結構な高さがあったようだが、流石と言おうか、まったく何ともないらしい。
またわいわい言い合う皆を見ながら、もう一人の遊戯はまた視線を巡らせた。
もう一度見上げる。満開に咲き誇った花と、風に吹かれて儚く散る花びら。
ほんの短い間だけ、葉すら見せずにただ花だけを咲かせて、すぐに散っていく。あまり意識して木や花を見た事はないが、知っている中でも、桜は特異な存在のように思う。
視界を遮り、空を白紅に染め上げる、花花花――――…
『・・・キレイだけど、ちょっと寂しい感じがするね』
咲き誇る、その盛りであっても、花ははらはらと降るのを止めない。
咲いた側から、少しずつ散っていく。
この花は、ただ綺麗なだけ、じゃないのだ。
人によって色々な事を思いをよせる木だ、と相棒からも聞いたけれど、その意味は見ていると何となく判る気がする。
美しいと思う事も、寂しさを感じる事も、その潔さを、怖いと思う事も。
「――――でも散るからこそ、また新しい花を咲かせることが出来る」
そうだろう?
呟きは、ほんの小さな物だったけれど。
『・・・うん。…ボクも、そう思う』
そこに籠められた事は、何となく伝わった。