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再見 五 その一

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 白ザルの恐禍とも言うべき、例の『赤炎事案』の密書が無い。
 あらゆる密書が、そのままの状態で、細かに区分され、保管されていた筈なのに、藺晨が知りたい、肝心な部分が無くなっていた。
 部署の責任者に聞けば、藺晨の父親の老閣主が、持っていき、そのまま密書は戻ってこない、と。
「なんだ、父上に聞けば良いのか。」


 意気揚々と、父親の所へ聞きに行けば、久々に会った父親から、藺晨は渋い顔をされた。
「??、あの子に頼まれたのか?。」
 亡き親友の息子だけあり、父親の老閣主は白ザルを気遣っていた。
「いえ、、、私が事実を知りたいだけです。
 本当に、あの連中が言うように、謀られたのか、それとも、ただ自分達を正当化したいだけなのか。
 父上はご存知なのでしょう?。
 琅琊閣の記録房や、あちこちの情報を探しましたが、何故、肝心の部分が無いのです?。
 父上が隠したのでしょう?。
 それは、そもそも、祁王と赤焔軍が、謀ったからでは無いのですか?。父上は白ザルを傷付けない様に、事実を隠したいのでは?。奴らは、真実を知らないのでは?。」
 藺晨の問いに、暫く考え込み、老閣主はぽつりぽつりと、話し始める。
「それならばどれ程良いか、、。真実を知ったならば、あの子の性格だ、真実を陽の元に晒し、父親や仲間の冤罪を晴らす筈。
 林燮の子には、この先、穏やかに過ごして欲しい。あの姿で復讐して何になる。敵うものか、天下を敵に回すのだぞ。死んだ者は帰って来ず、あの子もまた死んでしまう。
 あの子を死なせて、私は林燮に、何と言って詫びれば、、。」
 父親を責めている訳では無い。藺晨としては真実を知りたいのだ。『梅嶺』の二文字は、何かにつけ、父親の後悔として現れる。静かだが強い父親だったのだ。弱さを見せる事など、今まで一度も無かった。
「事実を、白ザルに隠すかはともかくとして、私は真実を確認したい。密書の全てに、目を通した訳では無いので。事実を把握して、白ザルに接したいのです。
父上、赤焔事案に関わる密書は、父上が保管しているのでしょう?。見せて頂けませんか?。
 、、、まさか、燃やした?。」
「私も燃やしてしまえるならば、心は楽なのだろうが、、。七万もの梁の忠兵が、一夜にして消えたのだ。」
 父親は、端(はな)から見せる気は無かったのだが、息子と話している内に、頑なな心が少し解けた様で。
「、、、、、そうだな、、倅にも重荷を負ってもらうとするか。お前もやがては、この琅琊閣を背負うことになるのだ。知っておいた方が良いだろう。」
 そう言うと、老閣主は腰帯に下げた香袋を外しにかかる。
「父上、そんな所に、、。それじゃ、誰も見られやしませんよ。」
 藺晨は呆れたように笑った。
 香袋の紐は固く結ばれ、中々解けなかった。仕方なく老閣主は小刀を用いて、香袋の紐を切った。
「どれだけ固く結んだのです?。ふふ。」
「、、、。」
 軽い反応に、老閣主は藺晨を睨みつける。
 老閣主自身でも解けぬ程に、固く封印されていたのだ。老閣主は、白ザルには決して、見せたくなかったのだろう。
 そして開きもせずに、無言で藺晨に袋を渡した。
 受け取った香袋を触れば、細く巻かれた、小さな紙の感触。
 まだ香袋は、固く結ばれ口が閉じていたが、藺晨小刀を借り、紐を切り、開けた。
 掌の上に中身を空ければ、十数本の小さな巻紙がころころと転がり出た。一旦床に置き、その一つを丁寧に広げていった。
「ん?。」
 そして、藺晨は次々と巻紙を広げていく。
 五本程、広げた所で、藺晨が言った。
「、、、、、これは、、、父上、、。
 密書はみな、白紙です。」
「何っ?、、、まさか、、、。」
 慌てて老閣主も密書を広げるが、どれも白紙の紙だった。
「一体、どういう、、、、。」
「父上、すり替えられたのです。」
「片時も離さず身につけていたのだぞ。一体、誰が、、何時、、、?。」
「誰が??、、、決まっているでしょう。」
 ふと老閣主に、思い当たることがあった。
「、、、何と、、知恵の回る子だ。同じ袋を作り、わざわざ密書に使っている数種類の紙と同じ物を探し出し、、、。しかも大きさも変え、各地から集まる密書のように見せかけ、、。」
 老閣主は驚嘆していた。
「父上、白ザルに、あちこち探られていたのは、ご存知だったでしょう?。」
「私が持っていれば、大丈夫だと思っていたのだ。こんな事ならば、焼いてしまえば良かった。
 火寒の毒に関する書も、分散させて保管していたが、、もしかすると、手遅れかも知れぬな。」
 緊張の糸が切れた様に、老閣主の顔に、どっと疲労が浮かぶ。それを隠すように、両の手で顔を覆った。
 白ザルに知られぬ様に、並ならぬ気を配っていたのだろう。
「白ザルは、知るべき事を知っただけです。これは白ザルの問題です。
 なぜそう心配をなさるのです?。白ザルが、火寒の毒を除く治療を望むと??。私は治療法を見ただけで、身の毛がよだつ程、ぞっとしました。皮を剥ぐのですよ。酷く痛み苦しみ、、そして得た体は、虚弱体質でその上長くは生きられない。白ザルのように毒が心部に及んでいれば、毒と共に取り除く肉や骨も多い筈。どれ程痛みと苦痛に耐えねばならぬか。
 治療法を知って、完全に毒を抜きたいと思う者は、少ないでしょう。白ザルが治療を望むとは限らない。
 父上、そう、気に病まずとも、、。」
 藺晨は、老閣主を慰めたつもりは毛頭なく、ただ俯瞰した事実を言ったつもりだった。
 老閣主は覆った手をずらし、藺晨を見て言った。
「あの子が、並の者ならばな。
 あの子は赤焔軍の林主帥の、血を分けた息子なのだ。二十歳にもならぬというのに、騎馬部隊を任されて、戦功も著しいと聞く。
 まるで林燮の若い頃の様だと。
 父親と軍に、育てられたのだろうな。白い毛で、面差しはもう分からぬが、林燮と同じ眼差しをしている。
 、、、まったく、朝廷に仕える武人というのは、始末が悪い。自らを犠牲にして、国の行く末なぞ案じている。自分を棄てた国に、何故そこまで忠誠を?。私は幾度も林燮に忠告したのだ。馬鹿者が。七万の兵と共に、己の命も失った。」
 老閣主は苦々しげに言った。
「父上、何故そんなに悔しがります?。全て運命だったのです。父上の力では、どうにもならなかったのです。」
「ふ、、、何故、、か?、、。
 私も林燮同様、馬鹿者なのだろう。」
 老閣主は自嘲して、寂しそうな目をした。そして心の何かを見られまいとする様に、直ぐに藺晨に背中を向けた。
 老閣主は、『話したくない』、そういう事なのだろう。
 密書を見る事は出来なかったが、老閣主の言動からして、何者かに赤焔軍は陥れられたのだ。
《酷く悲しんではいるが、きっと父上は立ち直る。梁の朝廷や赤焔事案の真相に、辟易しているだけなのだ。
 知己が無念の死を遂げた、無理もないか。
 林燮親子の禍事を、思ったより嘆いて悲しんでいる。父上は、もっとさらりと受け止めるかと思っていた。》
 藺晨は、部屋を出る前に、老閣主を振り返る。
 老閣主の後ろ姿は微動だにせず。だが、その後ろ姿には、国に対する怒りと、悲しみに満ちていた。



作品名:再見 五 その一 作家名:古槍ノ標