再見 五 その一
真っ白な毛で覆われた、、、、、サル、、
、、、、、、にしか見えない謎の生き物。
、、、、、煩い手下も一緒に。
「ほ─────!!。」
頭から爪先まで、しげしげと白ザルを見る藺晨。白ザルの周りをぐるぐると回り、睨め回した。
「ほーほーほーほー。」
見かねて老閣主が藺晨に注意をする。
「小晨、そうジロジロと見るな。客人に失礼だ。」
「えっ?。」
老閣主の注意が一瞬遅れたら、甄平が藺晨を殴っていただろう。藺晨の失礼な態度に、甄平の血が上っていた。
「しかし父上、これは見事な、、、。綺麗に全身が、、。」
藺晨が白ザルの、真っ白な髪に触ろうとした。
「小晨!!!」
バシッ!。
老閣主が諌める声と、白ザルが藺晨の手を払うのとが、同時だった。
「長蘇よ、、何とも、、恥ずかしい限りだ。躾が行き届かなかった。息子の無礼を許して欲しい。
長旅で疲れたろう。部屋を用意している。先ずは休養し、ここでじっくりと治療をしよう。」
老閣主に促され、白ザルとその一行は、部屋を去る。
白ザルは、去り際にじろりと、藺晨を一瞥した。
「は?。」
藺晨には心外だった。
(獣ごときが生意気な、人の風を装って。)
「父上、睨んで行きましたよ。私が何をしたと。
それより何です、アレは。人の男のなりをしているが、猿ですか?。『珍獣』?、それとも『妖』??、まさか『人』なんて言わないですよね?。」
「馬鹿者、分からぬか!。『人』にしか見えぬだろう!。『珍獣』などと、失礼極まりない。」
「人ですと?!!。」
「『火寒の毒』と呼ばれる、奇毒に冒されている。死ぬことは無いが、あの毒が体内で生成された者の、何と不幸な事か、、。」
「毒!。何と!!。」
「藺晨、お前と私で、あの子の治療をしたい。あの毒は私も知らぬ部分が多い。鍼と薬剤にお前は長けている。私を助けてもらうぞ。良いな?。」
「はい。」
父親の信頼を受けて、共に治療に当たれる嬉しさと、見たことも無い病の治療に、藺晨の心は踊っていた。
天下の琅琊閣でも、『火寒の毒』の記録は少ない。
唯一、蔵書閣の書に、火寒の毒の記載があったが、白ザルの元々の体質を考慮したり、古い書で全てを鵜呑みには出来ず、親子二人で、白ザルの様子を見ながら、探るように治療をしていった。
何より、白ザルの毒の冒行が、深過ぎた。
酷い発作も幾度もあり、藺晨の鍼だけでは、中々治まらぬ事もあった。
発作を静めるのに時間がかかり、白ザルはただ耐えるしか無かった。
時折、酷く強い発作起き、発作が治まらず、ただ見ているしか無かった老閣主と藺晨。
『人の血を欲するのだ』
老閣主がそう言った。
白ザルも、自分が欲しているのが何なのかは、分かっていた。
見かねた甄平が、白ザルが楽になるならと、自分の血を飲ませようと、掌を切って血を差し出したが、白ザルは頑として口にしようとはせず、力ずくで飲ませようとする甄平を、怒って突き飛ばした。
それは、姿だけならまだしも、心までこれ以上、人では無い物に墜ちたくないという、白ザルの決意だったのだ。人の血だけは、決して飲むまいと決めていた。
白ザルは辛い発作に耐え、老閣主と藺晨が、あらゆる治療を試していくうちに、確かな方法を遂に見つける。
治療の効果も現れ、白ザルの発作は、徐々に減っていった。