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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
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D.C.IIIwith4.W.D.

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「私は……元の世界では旧家の出身でした。こちらの世界でも同じように、三嶋の家がそうなのかはわかりませんが……」
 そうなのだろうとは薄々感づいていた。誰に対しても丁寧な言葉、気品を感じさせる佇まい、一つ一つの所作から滲み出る感じ。
 しかしこちらの世界で三嶋というラストネームの家でそこまで有名な家はない。恐らく向こうの世界だけなのだろう。
「昔からそうなのですが、旧家故の硬さがあって、私はそれに疲れちゃったんです。幼馴染の娘は同じように旧家の出身なのですが、そんなの微塵も見せずに頑張ってるのに私だけ」
「それは個人差があるんじゃないのか?苦しいことなんて、千差万別だ」
 思わず口を挟んでしまった。なぜかそうしないといけない気がして。
「お気遣いありがとうございます。でも逃げずに頑張ってきたのですが、ある日突然限界が来てしまって。もうこんなの嫌だ、どこか違う世界へ行きたい!って叫んじゃったんです」
「……まさか」
「ユーリさんのお察しの通りです。そう叫んだ瞬間、目の前が真っ白になって。気づいたらこちらの世界のロンドンにいました」
「なるほどな」
 やはり、名のある家のお嬢様ともあれば、それなりの悩みを抱えるものなのだろう。それは理解できる。
「うら若き乙女が持つ悩みではないな」
「そうですね」
 彼女は苦笑しながら頷いた。
 しかしその表情に陰りが見えたことに気付かないわけがなく。俺は咄嗟に手を伸ばしていた。
「ユーリさん、何を……あっ……」
 そのままそっと彼女の頭を撫でる。
「そんな大層な悩みを抱えて……。よく頑張ってきたな」
 優しく、傷つけないように意識して。
 そんな彼女の頬に一筋の光。
「あ、あれ?」
 皐月は頬に触れると、そこには一条の涙が。
「どこか痛いところでも?」
 努めて冷静に。
 ……したつもりが少し声が上ずってしまった。
「いえ、そんなことは。……強いて言えば、胸が痛いです……」
 そう言って胸に手を当てる少女。
 俺は傍に寄り、そっとその頭を撫で続けた。せめてここにいる間くらいは、その苦しみを忘れられるように。
「ありがとう、ございます」
 その声は少し震えていた。見なくてもわかる。
 彼女は声を殺して泣き続けた。



「すみません、突然泣いてしまって」
 数分後。
 皐月は落ち着きを取り戻し、姿勢を正した。あくまで何もなかった風に取り繕うが、それでも先ほどの事がなかったことになるわけではなく。
 俺は人の入りが少なかったことに感謝していた。
「構わんさ。誰しも感情を抑えきれず、泣いたりすることはある。むしろ喜怒哀楽がはっきりしているのはいいことさ」
「そう言ってもらえるとありがたいです」
 柔らかく笑う皐月。
 その笑顔に嘘はない。俺はそう感じた。
「でも、私もここまで話したんです。ユーリさんもお話していただけますよね?」
 ……なるほど、笑顔の裏にはそんな思いが隠されていたか。なんと強かな。
 まあ、話すつもりでここに来たわけだ。
「わかった。ちゃんと話すよ」
 俺はここまで生きてきた230年余りの事を彼女に話した。
 出身の事。俺の家族にあったこと。禁呪の事。そのせいでずっと生きてきたこと。そして、生涯で唯一愛した女性のこと。
 全てを話した。
 途中、何度も泣かれてしまい、その度に困惑してしまった。
 半年前の出来事を話し終えた時にはすでに日は暮れており。その日の散策を終了せざるを得なくなっていた。
「ありがとうございました。お話聞かせてもらって」
「いやいや、皐月のことを教えてもらったんだ。代わりになったかどうか」
「代わりというにはもったいない!私の話が霞むくらいでしたよ。なんせ、200年分もあるんですから」
「そりゃそうか」
「納得しないでくださいよ!」
 やれやれ、感情の起伏の激しい娘だ。しかしその中にあるお淑やかさは失われているわけではなく。
 これが本来の彼女なのだろうと俺は思った。
 この後、皐月が今寝泊まりしている風見鶏の寮まで送り届け、そこで別れた。また明日、同じように散策と称したデートの約束をして。
 けれど明日からは、本格的に清隆の夢見の魔法を用いた情報収集が始まる。程々にしておかないとな。
 帰宅した俺は早々に家事を終え、夢の世界へを誘われるのだった。



     ◆     ◆     ◆



 次の日。
 今日から改めて皐月の事情を知る為の、清隆の夢見の魔法による調査が始まる。
「さて、始めましょうか」
 俺の部屋に用意したロッキングチェアに座る清隆が呟く。
 その眼差しは真剣そのもの。流石、得意な魔法で慣れているだけある。
「皐月さんとユーリさんはベッドに寝てください。俺がここから二人の夢にアクセスします」
「了解した」
「わかりました」
 二人並んでベッドに横たわる。なんともむず痒い気分だが、ここは我慢だ。
「なんか、シュールな光景ね」
「言わないでくださいよリッカさん。俺だって理解してるんですから」
 顔を引きつらせてツッコむ清隆。
 まあ、リッカの気持ちもわからなくはないが。
「とにかく、よろしく頼むぞ清隆」
「はい、任せてください」
 俺が声をかけると、清隆の顔は改めて引き締まる。
「これからお二人に魔法をかけます。出来るだけリラックスして、俺の魔法を受け入れてください。リッカさんは」
「皆が眠ったら、適当なタイミングで寝るわ」
「申し訳ないです」
「これも必要なことよ。貴方たち二人が怪しまれない為にもね」
 余計なお世話だ。
 と、口が裂けても言えなくて。
「まあ、気楽に行こう」
 そういうのが精一杯だった。
「では、行きますよ。二人とも目を閉じて、深呼吸」
 言われた通りに、目を閉じて深呼吸。すると俺の体は何かに沈んでいく感覚を覚えた。
 そこで俺の記憶が途絶えた。



     ●     ●     ●



「ここは」
 気付いた時には、俺は見慣れない光景の中にいた。
 いや、見たことはある。ここは確か――。
「私の、住んでいた街、ですね」
 隣を見ると、そこには皐月がいた。
 日本古来の民家の立ち並ぶこの光景。これが皐月の生まれ育った故郷、というわけか。
 というか。
 俺はいつの間にか皐月と手を繋いでいて。
「おっと、悪い」
 反射的に手を放そうとした。
「駄目ですよ、ユーリさん」
 しかしそれは、逆から聞こえる声によって遮られた。その声の主は、俺の手をしっかりと掴んで離さない。
 俺もそれに倣い、皐月の手をしっかりと握った。
「ここは夢の中です。何があるかわかりません。離せば戻って来れなくなることも」
 声の主である清隆が厳しい言葉を投げかける。しかしプロの言葉とあれば、それに逆らう理由はない。
 俺は握られた両手をより一層強く握った。柔らかいそれらを壊さないよう、慎重に。
「清隆、日本人のお前なら見覚えはあるか?」
 隣を歩く清隆に声をかける。
 しかしその言葉は芳しいものではなく。
「いえ、現実でここへ来たことはないのでなんとも」
 その顔には困惑の表情が浮かんでいた。
「まあ、見たことないなら仕方ないか。皐月はどうだ?」
「うーんと、見慣れすぎて逆になんとも……あっ」
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr