D.C.IIIwith4.W.D.
「正義の魔法使いとしてお願いします。その魔法を使って、魔法によって苦しむ命を救ってあげてください」
「俺からもお願いします」
その言葉と同時に、俺の隣に座る清隆も立ち上がり頭を下げた。
「ユーリさん、これでユーリさんに掛かった禁呪を解除してください。貴方と同じように、禁呪で苦しむ魔法使いの為にも」
「勿論、そのつもりだ」
俺も立ち上がり、姫乃と清隆、順に握手を交わす。
この魔法があれば、間違いなく救える命がある。俺はそう確信していた。
「その為にも、改めてその魔導書はお譲りします」
「ああ。お前達の想いも含めて、しかと受け取った」
俺は改めて魔導書を握る。
だがこの魔法を自分に使うのはもう少し先だろう。俺が自分の禁呪を解呪するのは、俺の望みを叶えた時だ。
「……さて、堅苦しい話はこれで終わりにしましょう」
閑話休題。
エリザベスが2回手を叩き、俺達の注目を集める。
「せっかく姫乃さんがいらしてくれたのです。今日はパーティにしましょう!」
「いいわね。今日は私が腕によりをかけて料理を作っちゃうわよ!」
「私もお手伝いします!」
「姫乃、今日は貴方はお客さんなのよ。休んでなさい」
「ですがリッカさん……」
「久しぶりに兄妹水入らずで過ごしなさいな。積もる話もあるでしょう?」
「リッカ……。ありがとう」
「清隆にも姫乃にも、日頃からお世話になってるからね」
「リッカにもそんな気遣い出来たんだな」
「ユーリは黙ってなさい!」
一同大笑い。
しかしエリザベスの提案にも、リッカの心遣いにも賛成だ。俺もリッカを手伝うとしよう。
暫くして学校から帰ってきた芳野家の姉妹を含めて晩餐の準備を進める。
皆で集まり、食卓を囲む。これだけでも十分幸せなことで。
姫乃を含めた晩餐会は、賑やかに時が過ぎていった。
◆ ◆ ◆
次の日。
昨日夜遅くまで続いたパーティの片づけをしながら俺は考えていた。
無論、風見鶏の副学園長から届いた依頼の事。俺とリッカに届いた、風見鶏に戻ってきて教職をしてほしいという依頼。エリザベスに、学園長として復帰してほしいという依頼。
リッカとエリザベスは早々に答えを出してそれを連絡していた。
当の俺はというと未だ迷っていた。
「ユーリ、まだ悩んでるの?」
不意に後ろから声を掛けられる。声の主はリッカだ。
因みに清隆は、姫乃を島の港まで送って出かけているところだ。
流石に遅くまでいてもらったのにそのまま返すわけにはいかず、泊まってもらったのだった。
いや、その話は今は良くて。
「ああ、悩んでるよ。今の俺には難しい命題だ」
「そんなに難しいことかしら。もうちょっと自分の想いに素直になりなさいよ」
「俺の想いねぇ……」
一緒になって片付けをするリッカをよそに、俺は考えを巡らせる。
俺の一番の望みは?
カレンと再び会うこと。
彼女がどうやって再び俺の前に現れるか。
いや、そもそも日本以外の国で生まれれば会うことは難しいだろう。それはロンドンにいても一緒か。なら、魔法使いが集まりやすいこの地で待つのは理に適っていると言える。
それに、今ロンドンに戻っても俺が友人と呼べる人間は少ないだろう。俺が宮廷魔術師をしていた頃の同僚や風見鶏で教職をしていた人間の大半が退職したと聞く。
人間、寄る年波には勝てないものだ。
あともう一つ。
「そうだな、他にやりたいことが出来たんだった」
なんだ、答えはもう出てるじゃないか。
「何よそれ」
「バーカ、教えねぇよ」
「いいじゃない、教えてくれたって」
恥ずかしいだろ、そんなの。
そんな言葉は流石に言えるはずがなく。
「言ったら叶わないかもしれないだろ?」
俺は適当な言葉でその場を取り繕っていた
「何よそれ」
苦笑して掃除に戻るリッカ。
その背中を見つめながら俺は思考を巡らせ。聞き取られないような音量で呟いた。
「……言えるわけないだろ、そんなの」
お前達と、その子孫の行く末を見守りたい、なんて。
「何か言った?」
「なんでもない」
俺は首を大きく振り、答えを口にした。
「リッカ、俺もこっちに残るよ。やりたいことを叶える為には、こっちにいた方が都合がよさそうだ」
「そう。いいんじゃないの、貴方がそう考えてるのなら」
ぶっきらぼうに。けど嬉しそうに呟くリッカに俺は苦笑した。
なんだ、こんな簡単なことだったのか。
掃除を終えた後、俺はすぐにエアメールの準備をしていた。内容は勿論、ロンドンには戻らず、初音島に留まるということ。それとルイスに向けた謝罪。
流石に俺は、自身がどういう人間なのかは自負している。
でも俺の望みを叶える為だ。彼女には理解してもらわなければ。
そう思い、俺の想いを筆に載せるのだった。
◆ ◆ ◆
数日後。
エリザベスは旅立っていった。勿論、王立ロンドン魔法学校の学園長として復帰する為だ。
流石に多少は名残惜しくしていたが、そこはしっかりわきまえる元女王。周囲への挨拶はそこそこに、しかし俺達への挨拶はしっかりと。
俺達はそれに応えるべく、盛大に送別会を催した。
それに感極まって泣いていたエリザベスと撮った写真はいい思い出だ。
今頃、空の上でその写真を見つめて長旅を満喫している頃だろう。
俺達は変わらぬ日常を過ごしていく。リッカも清隆も、彼女たちの娘達も。それぞれに与えられた時間を過ごしていく。
時間は有限だ。余すところなく有意義に。
初音島での生活を順風満帆に過ごしていくのだった。
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr