D.C.IIIwith4.W.D.
「ああ。というか、恐らく原因は俺の身内でなぁ」
「身内、というと?」
「時遡の魔法は一族秘伝の魔法だ。俺の世界で使えるとすれば、俺の血筋に連なるやつだけだ。となると、未来で俺の子供か孫かがやらかしたってことになってな」
「そういう意味か」
「なんとなく理解できたわ」
「それで、アンタらが何か知らないかを探りに来たってわけだ。アンタらも何か知ってそうだな」
「私達、というよりはユーリが、ね」
「ああ。……こういうことを本人の前では言いたくないんだが」
「いずれ受け入れなければいけない運命よ。私が時間遡行を経験してない時点で察しはついてるわよ」
何でもない風に受け止めるリッカ。胸の内はそんなことはないだろうに。
俺は咳払い一つして話を進めた。
「まあ、俺が巻き戻る、って感覚を味わった時点でリッカはこの世には存在していなかった。だから、ここで実際に経験したのは俺だけだ」
「なるほど。幾ら強い魔法使いでも、この世にいなけりゃ経験のしようはないわな」
「そういうことになるな」
「了解。で、ユーリさん。詳しい話を聞かせてもらっていいかな」
「ああ。と言っても、役に立つかはわからんが」
「どんな小さいことでもいい。知らないよりはマシさ」
「そう言うなら」
俺は額に手を当ててあの時の状況を思い出す。
「……時間にして、恐らく30年ほど。ゴールデンウィークの終り頃だったな」
「30年くらい後のゴールデンウィークね」
ノートを取り出し、メモを取る元。その表情は真剣そのものだった。
「とある知人の墓参りをしに行った帰りなんだが、その時背中に悪寒を感じてな。……これは、以前経験したことのある感覚でな。肌感覚的に、時間が巻き戻るって理解できた。で、気付いたらこの時間にいた」
「なるほど。……以前も時間が巻き戻った経験をした?」
「詳しい話をすると長くなるんだが……」
「じゃあ手短にお願いします」
「うーん……。まあ、負の感情、思いの力によってとある一定の期間を繰り返し続ける禁呪があってな。その経験から」
「時間が巻き戻ったことがわかったと」
「そういうことだ」
俺は頷き、返事をした。
「他には何か?兆候とか?」
「すまん、他にはないな。何しろ突然のことでな」
「だろうなぁ……。時間の巻き戻り始めじゃあ、干渉のしようがないもんなぁ」
二人同時に溜息。
「悪いな。あまり有益な情報じゃなくて」
「いやいやいや。巻き戻り始めの時間がわかっただけでも収穫だ。となると、誰がやったかのあたりを付けることが出来る」
「どういうことよ」
黙って俺達の話を聞いていたリッカが茶々を入れる。
「えっとですね。俺達の魔法は、力の使い方を理解していなければ、暴走しやすい傾向にある。特に、魔法をちゃんと学んでいない子供が力を使ったとか」
「あっ、なるほど。じゃあ、何年先から戻ったかがわかったってことは」
「何代先の人間が魔法を使ったかが掴める」
「そういうこと。しかも、俺が時間遡行を食い止めた時点で、純粋な思いの力を感じた。十中八九子供がやったことだろうってわかりやすかったくらいに」
「なら、俺の情報は意味のあるものだったってことだな」
「勿論。30年後ってことは、恐らく俺の孫だな。流石にそれくらいには俺も、俺の子供すら身を固めてることだろう。それに幼い子供がやったって裏付けにもなる」
ニヤリ、と笑う元。どこかすっきりした、と言いたげな表情だ。
「有難う、助かったよ。わざわざカイの魔法まで使ってこっちに来た甲斐があった」
「そりゃ何よりだ」
「鷺澤のお姉さんにも感謝しないとな」
「やっぱり俺達の素性を話してたのは由岐子か!」
「鷺澤のお役目人ね。そういうことね……」
鷺澤由岐子。カイの魔法を代々受け継ぐ、世界のマナバランスの管理を担うお役目人。本土に住む魔法使いではあるが、その実力は折り紙付きだ。俺は何度も会ったことがあり、リッカも存在は知っている。リッカが会ったことがあるかどうかは不明だが。
「そもそもアンタを紹介してくれたのも、お二人の居場所を教えてくれたのも鷺澤のお姉さんだし」
「面倒ごとを押し付けるなよ……」
「でも、おかげで有益な情報を得ることが出来た。彼女には感謝だよ」
「……まあ、そう言われると奴を責めることは出来ないな」
今日一番の大きな溜息を吐く。
「ともかく、助かった。この恩はいつか必ず」
「気にしないで。世界が違っても、魔法使いは助け合いよ」
「そうだな。特に今回は、そっちだけじゃなくて、こっちの世界にも影響があったことだ。今後何か問題が起こるかもしれん」
「そうならないのが一番いいんだけどなぁ」
なんとなく嫌な予感がする。しかしそれは当たってほしくないと心で願う。
「しかし、驚いたよ。リッカさんは妙齢の女性って感じだけど、ユーリさんは俺よりも若そうだ。鷺澤のお姉さんから凄い魔法使いだって聞いて身構えちまった」
笑顔で俺とリッカを見る元。淀みない笑顔だ。
「まあ、魔法使いの強さなんて年齢は関係ないし、実際オーラは二人とも半端じゃない。凄い魔法使いなんだなぁ」
「私はもう一線は退いてるけどね。けど、ユーリはまだ現役ね」
「流石になぁ」
「そりゃ、こんだけ若いんだったら未来は安泰だ」
……うん?
なんか違和感が……。
「えっと……」
どうやらリッカも同じ違和感を感じたらしい。
これは……。
「つかぬことを聞くが、由岐子からは俺のことをなんと聞いている?」
「なんとって、<失った魔術師>、縁の魔法使いって呼ばれる大魔法使いだと」
「それだけなの?」
「それだけも何も、十分では?」
あー、はいはい。そういうことか。
「由岐子のやつ、わざとだな」
「そうなんじゃないの?」
「えっ、どういうこと?」
「ユーリの年齢よ」
「ユーリさん、歳ごまかしてんの?」
「まあ、そういうことになるのかね」
「……いくつ?」
「ざっと250歳くらい?」
「にひゃっ……」
絶句する青年が目の前に。
いや、そりゃそうか。
「マジか……。同年代が若作りしてるだけだと思ったら……」
「悪かったな」
「彼は名実ともに大魔法使いよ」
「いや、ほんとに言葉通りだったとは」
大魔法使いって……。なんか歯痒いな。
「なるほど、魔法の研究に人生を捧げたって感じですかね」
「そんなところだ」
詳しく話すのは面倒くさい。
俺は言葉を濁した。
「いやいや。こんな大魔法使いさんとお近づきになれるとは。ますますここに来た甲斐があったというものだ」
「んな大袈裟な」
瞬間、笑いが部屋中を埋め尽くす。俺は苦笑だったが。
まあ、尊敬されるというのは悪い気分じゃない。俺もいつの間にか笑顔を浮かべていた
そして談笑をしていると時間は過ぎていき。
「じゃあ、俺はこれで失礼するよ」
元は両手を叩き、目の前に出されていた茶を一気飲みし、立ち上がった。
「またなんかあったら頼るかもしれないけど、そん時はお願いします」
「ああ、いつでも」
「私達でよければ、力になるから」
「ホント、有難う。あ、写真良いかな」
何処からか元はカメラを取り出し、俺達に見せる。
この時代じゃ、まだ高価なもののはずだ。よく持っている。
「ああ、俺は構わないぞ」
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr