D.C.IIIwith4.W.D.
After dal segno[I.F.]:South Wind 天と奏でた楽園の調べ
「暑い……」
空港を出て、一言。俺はそう呟いていた。
季節は冬……のはずだ。なんせ年が明けてまだ2週間ほどなのだから。しかしここの季節は夏で固定されているかのように暑い。当然と言えば当然なのだが……。
ここは風南島。太平洋に浮かぶ、観光都市。一応東京都に属しているが、距離がありすぎて東京と呼ぶには環境が違いすぎる。
どうして俺がここにいるか、というと、話は3週間ほど前まで遡る。
◆ ◆ ◆
初音島にある商店街。
俺は日用品の買い物をしていたのだが、大晦日フェアのようなものをやっていたらしく、買い物をする度に福引券が手元に集まっていった。年末ということもありこの日に限って買うものが多くなっていて、それに従って必然的に福引券の数も多くなっていった。
「まあ、もらえるものはもらっておこう」
そして運命のダイスロール……ではなく福引の時間。
荷物が多いから、あまりかさばらないものがいいな……。
そう考えながら福引を回していく。ティッシュ、ティッシュ、ティッシュ、たまにタオル。まあ、日用品で必要物資だからいいか……。
そして最後の一回。回して出てきた金の玉。
ガランガラン!商工会のおじさんが手に持つ鐘を鳴らした。
「おめでとう、ユーリ君!特賞だ!」
「ええ……。当たっちゃうんだ……」
まあ、運がよかったということだろう。さて、特賞の賞品は……。
「風南島3泊4日ペアチケットだよ!」
「……はい?」
なんということでしょう。あまりかさばらないものがいいなと思いながら回した福引から出てきたのは、南の島の旅行券でした。いや、ペア旅行券って……。
俺は周囲の拍手の中、困惑しつつも賞品を受け取った。流石に恥ずかしくなって、足早にその場を去ったけど。
◆ ◆ ◆
そんなこともあり、今ここにいる。流石に一緒に来る人がいなかったので、一人で来ているが。一応さくらを誘ってみたけど、用事があるって断られたしなぁ。
……てか、風南島にいる知り合いに連絡したら、出来れば寄ってほしい、なんて言われたりして。まあ、何年かぶりに会うわけだし構わないけどさ。
「何かお困りでしょうか?」
不意に聞こえる声。その声と共に、突然目の前に少女が現れる。
「おおう、マジか……」
目の前に現れた少女に俺は驚く。事前に知っていなければもっと驚いていただろう。
まったく、科学の発展って言うのは突き詰めれば魔法だな。
なんて考えていると。
「どうかされましたか?」
目の前の少女に心配をかけてしまったらしく、不安そうな表情で覗き込まれてしまった。まるで人間だな、この反応は。
「いや、大丈夫だよ。ありがとう、奏」
「そうですか。ならよかったです」
奏。
そう呼ばれて反応した少女は、柔らかな笑みを浮かべた。これでも彼女は人間ではない。この島を管理するシステム、『楽園システム』の管理者である人工知能だ。そして目の前に見えるこの姿はホログラムによって投影されたものだ。
「それで、何かお困りごとでも?」
優しく聞いてくる奏。本当人間のようだ……。
っと、そんなことを考えている場合ではないな。
「ああ。ちょっと案内してほしいところがあってな」
「案内、ですか。それでしたらお安い御用です。どちらまで向かいましょう」
「天枷研究所までお願いしたい」
俺の発した言葉に、驚愕の表情を浮かべる少女。
「なるほど、貴方でしたか。博士から友人が来ると伺っておりました。ユーリ・スタヴフィード様で間違いないですね?」
ちゃんと話してくれていたか。これは都合がいい。
「おう」
「それでは、研究所までご案内します。こちらへどうぞ」
「よろしく」
俺は奏の案内の元、目的地へと向かった。
「それにしても、博士のご友人ということで、失礼ながらもう少し博士にご年齢の近い方を想像していましたが、ユーリ様はお若いのですね」
道中、奏が話しかけてくる。その疑問は当然だろう。
いや、人工知能はそこまで考えて行動できるのか……。俺は心の中で舌を巻いていた。
「まあ、長い付き合いと言えばそうだな」
「ユーリ様がお若い頃からのお付き合いで?」
「そういうわけではないな。知り合ったのはここ20年くらいだし」
「ならユーリ様がお若い頃で間違いないのでは……?」
「そこはまあ、ちょっとした事情があってだな」
俺の返す言葉に、クエスチョンマークを浮かべる奏。まあ、まともに考えていたら普通そうなるわな。
「あ、到着しました。天枷研究所です」
そうこうしているうちに、どうやら目的地に着いたようで。
「おっと、有難う奏」
「はい。それではこれで失礼します」
俺が奏に礼を言うと、奏はその場からスッと消えた。……これは、ある意味心臓に悪いな。夜とかにやられるとなかなかの体験になりそうだ。
そんなことを考えながら、俺はインターホンに手を掛ける。
『はい』
すると助手と思しき声がスピーカーから聞こえてきた。
「こんにちわ。ユーリ・スタヴフィードです」
『博士から窺っております。門を開きますので、どうぞ中へ』
「ありがとう」
通話が切れると同時に、大きな門が自動で開く。俺は誘われるまま中へと入っていった。
「ようこそ、ユーリ君。久し振りだね」
「久し振り、博士。何年ぶりだ」
迎え入れられて通された客間。そこには天枷博士がいた。
天枷博士は昔初音島に住んでいた。しかし風南島の楽園システムの構築に当たり、数年前からこちらに移り住んでいた。それ以来会っていないから、本当に久し振りということになる。
「うーん、こっちに越してきて結構経つからねぇ」
「だよなぁ」
「そういえば、いつから眼鏡を掛けるようになったんだっけ」
「ここ10年くらいだ」
そう言って俺は眼鏡の位置を調整する。無論これはカレンの形見のものだ。流石にレンズは目の具合に合わせて交換しているが。
「仕事で細かい字を読んだりやらなんやらで、結構目を使うことが多くてな。それに追い打ちをかけるように、科学技術の発達だ」
俺は目の前でTAB――Total Application Board――をひらひら。便利なものを使うと、昔の生活に戻れなくなるのはある意味不便だ。
「ついに目をやってしまったと」
「そういうことだな」
俺達は暫く談笑を続ける。久し振りに会ったのだ。昔話に花を咲かせるのも悪くなかろう。
「……で、俺をここに呼んだのは何でだ?」
いくつかの話を経て、俺は本題に入った。まあ、風南島に来る前から呼んだってことは、用があるってことなのだろう。
「ああ、うん。実は会ってほしい人がいてね」
「会ってほしい人?」
「もう来てるんだけどね」
「早速かよ」
「隣の方の客間にいるから、お願いしたいんだけど……」
えー……。もうちょっとゆっくりさせてほしかったんだけどなぁ。まあ、何とかなるか。
俺は溜息一つ吐いて、天枷博士に顔を向けた。
「わかった。博士がなんで俺を呼んだのかはわかんないけど、会って話せばいいんだな?」
「うん。ちょっと彼にアドバイスをしてあげてほしくてね」
「アドバイス……ねぇ。俺が?」
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr