D.C.IIIwith4.W.D.
「少なくとも、私の中では君が適任だと思ったからね。こっちに来る予定があるんだったらついでにと思って」
「そういうことか。まあ、とにかく話してみるよ」
「悪いけど、よろしく」
通された客間に荷物を置き、博士に着いていく。着いていくと言っても、ホントに隣ですぐだけど。博士が扉を開け、次いで俺が入るとそこには。
「あら?」
「うん?」
どう見ても、以前顔を合わせたことのある二人と。
「貴方は……?」
顔を合わせたことはないが、なんとなく親近感の湧くオーラを放つ眼鏡の少年がそこにいた。
「遥月、大和。お前達がいるとはな。真ん中の君は、初めまして、かな」
「そうですね。初めまして」
緊張しているのだろうか、少し表情が硬い。だが、直に慣れるだろう。
初見の彼の目の前に座り、俺は深呼吸した。
「初めまして、俺はユーリ・スタヴフィードだ」
「あっ、俺は高村敦也と言います。よろしくお願いします」
「よろしく。初対面なのにすまんが、敦也と呼んでもいいかな。昔からファミリーネームで呼ぶのが慣れなくてな。俺もユーリと呼んでくれて構わない」
「大丈夫です」
……なるほど、そういうことか。
俺は内心、博士の言葉の意味の一端を悟っていた。確かにこれは、俺が適任だ。
◆ ◆ ◆
年が明けて、学校が始まって。
俺はまだ勉学に身が入らないでいた。いや、今年は進学するわけだし、最低限やらないといけないことはしていたわけだけど。
理由は明白。年末に奇跡のような体験をして、そこで味わった出来事をまだ引き摺っていたからだ。
「にぃ、大丈夫?」
隣を歩いて一緒に登校する従妹の乃絵里が心配そうに俺を覗き込む。
因みにひまりも依愛も今日は別行動だ。何やら二人とも用事があるらしい。
「何がだ?」
「うーんと、あの旅行から帰ってきてからずっと上の空だし、何なら今もそうだし……」
「あー……」
なんと。まさか乃絵里に見抜かれていたとは、恥ずかしい限りだ。
「ねえにぃ、なんか失礼なこと考えてない?」
「そんなことないぞ?というかなんでそう思う?」
「うーん、妹としての勘?」
「従妹だろ」
「ちょっと!すぐそうやって否定しないでよ!」
「事実だろ」
いつものやり取り。うん、いつもと何ら変わらないな。
「けど、幾ら推薦で進路決まってて時間あるからって心配だよ。なんか悩み事だったら私聞くよ?朝宮先輩も神月先輩も聞いてくれるよ、きっと」
「まあ、あいつら基本はいい奴だからな」
「基本はって、失礼だよにぃ」
「照れ隠しだ気にするな」
そうは言うものの、実際こいつらには感謝してる部分もあって。というか、旅行から帰ってきてからというもの気を使わせてしまっている気がする。これは本格的にマズいかもしれん。
「まあ、なんかあったら頼らせてもらうよ」
「ぜひそうして!」
力強く頷く従妹の姿に、俺は苦笑しつつも嬉しく思うのだった。
昼休み。
俺はなぜか会長に呼び出されていた。無論向かう先は生徒会室。むしろ会長がここにいないことなんてあるのか……?
そんなことを考えつつ、扉をノック。
「どうぞ」
中から会長の声がした。居なかったらどうしようかと。いや、そんなことはないか。
「失礼します」
俺は扉を開けて中に入った。
「あら、高村君。お呼び立ててしまってごめんなさいね」
邑崎遥月。
この風南学園の生徒会長であり、理事長代理。何で理事長代理かって?それは彼女の親父さんが風南学園の理事長だから。その業務を一部代行してるってことで、理事長代理なんて肩書を持ってる。
「いや、それは大丈夫だけど。で、用事って?」
「ええ、ちょっと頼み事と頼まれ事があってね」
「えっ、それってなんか違いあるんですか?」
「大違いです」
悪戯っぽい笑みを浮かべて俺を見る会長。まったく、この人はなんちゅう反応に困ることをしやがる。
「ごめんなさいね、高村君。からかってしまって」
「自覚あったんだ」
この野郎。溜息しか出ねぇ。
「……それで、頼み事と頼まれ事って?」
「うん。頼み事って言うのは、生徒会の仕事が立て込んでてそれを手伝ってほしいってこと。ほら、あと1ヵ月で恋パでしょ?それまでに新生徒会に引継ぎを済ませないといけないの」
「あー……。これまでほとんど会長一人で切り盛りしてきたようなもんですもんね」
「そうそう。新戦力もちゃんと育ってるんだけど、それでも私が仕事の大半を担っちゃってたから」
「そいつは大変だ」
納得。と同時に心配事が。これ、会長が離れたら大変なことになるんじゃね?
「で、そんな大変なことにならない為にも、ちゃんとやるべきことはやっておきたい。それでお手伝いをと思ってね。以前、お手伝いをしてくれたことがあったでしょう?貴方にはその時のノウハウがあるし、それに貴方はもう進路も決まってるから、外部に頼む相手にはうってつけだったってわけなの」
「一体いつの話をしてるんですか……」
確か俺が転校してきてすぐ、クリパのミスコンに推薦する娘に悩んでた頃だ。ミスコン……なぁ……。
おっと、感傷に浸っている場合ではない。
「なるほど、状況も理由も理解しました。……で、頼まれ事って?」
「うーん、実はこれが一番大事なことでね」
仕事の手は止めずに説明を止めていた会長だったが、俺が話を切り出した途端、その手を止め俺の顔を見る。その顔は真剣そのもだった。
――ゴクリ。
俺は生唾を飲み込み、引き込まれそうになるその瞳を見つめる。
「……なんか、これ恥ずかしいわね」
だが、不意にその表情は崩れ、照れたような笑みが浮かぶ。
「ちょっと、シリアスな雰囲気出しておいてそれはないっすよ」
「ふふ、ごめんなさい。こうした方がいいかなって」
ペロッと舌を出してウインク。なんて小悪魔なんだこの女……。
「おっと、こうしてる場合じゃなかったね」
「そ、そうですよ。それで、頼まれ事って何なんですか」
「実は天枷博士からの頼まれ事でね」
「天枷博士?」
楽園システムの、奏の開発者の?
てか、俺に用事なんだったら直接言えばいいのに……。
「うん。なんでも、会ってほしい人がいるんだって」
「会ってほしい人……ですか」
誰だろうか。天枷博士からってことは、楽園システムの関係者か?
「不安かしら?」
「うーん、まあある意味?」
「大丈夫よ。誰か聞いてみたんだけど、私の知り合いの人だったの。正確には、お父様の友人のご友人って感じだけど」
「会長ってか、理事長の知り合いって……」
なんか、緊張してきた……。
「あら、ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったのだけど」
あっ、俺の内心の緊張を悟られた。まったく、おちおち緊張もできない。
「けど本当に大丈夫よ。気さくな人だから、そんなに気負う必要はないわ」
「気さくな人ねぇ……」
「と言っても、最後に会ったのは3年前なんだけどね。……そういえば、五条院さんの紹介で知り合いになったんだっけ」
なんか会長が思いに耽っている。そんなに昔の事なんだろうか。ということはすっごい年上?
「まあ、天枷博士がその人とのお話の場を用意したのは、私にも理由はわかるわ」
「……というと?」
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr