D.C.IIIwith4.W.D.
柔らかく、それでいて力強い意志を持って話すユーリさん。ちゃんと逃げ道を用意してくれる辺り、大人なんだと錯覚してしまう。
「まあ、こいつらが知ってることなら……」
俺は両脇をちらりと見る。二人とも、ユーリさんの言動がさも当たり前のような雰囲気で紅茶に口を付けていた。
えっ、何?これが普通なの?俺、困惑しちゃうよ。
「聞かせてくれるかな?」
「あ、ああ。はい」
まっすぐ俺を見据えるユーリさん。その瞳の奥には、この人なら信用できるという何かが見えて。
俺は、この一年の出来事を話していた。
風南島に越してきた経緯とその理由。そこで出会って、恋をした少女の事。その別れと理由。そして年末に起きた奇跡。
それらすべてを包み隠さず話した。
「……なるほどね」
何も言わず聞いてくれていたユーリさんが口を開いたのは、俺がすべてを話し終わってからだった。
「確かに、これは俺が適任だわ」
「えっ?」
「ええ、そうですね」
「私もそう思います」
待って?なんでお前らそこで同調しちゃうの?お前らはこの人の何を知ってるの?
そんなことを考えていると、ユーリさんは苦笑気味に口を開いていた
「まあ、君の今抱えている問題を解決に導いてやろうとするなら、まずは俺の素性をしっかり説明してやらないとなぁ」
そう言ってユーリさんはにやりと笑い、こんなことを聞いてきた。
てか、俺が悩んでるってよくわかったな。天枷博士から聞いたのかな。
「なあ、敦也。俺っていくつに見える?」
「はい?」
聞かれてるのは年齢だよな……?歳を聞くってどういうこと?つまり実は歳をごまかしてるとかそういう感じ?えーっと……。
「えっと、30歳くらいでしょうか」
答えた瞬間、両脇からクスクスと笑い声が。お前らマジで何知ってるの?怖いんだけど。
「ハハハハハ!」
って、目の前のユーリさんも笑ってるし!
「そりゃそうだよな。常識的に考えれば、それくらいが答えになるよな」
「どういうことですか?」
「言葉通りだよ。答えはハズレだ。正解は君の答えを10倍してくれ」
……はい?えっと、俺が答えたのは30歳で、それを10倍すると……。
「さ、300歳?」
「そうそう」
いやいやいやいや。
「桁一個おかしいっすよ!?」
「それが間違いじゃないんだ、同志よ」
マジで?って、会長も笑ってるし。マジなの?
「普通は信じられないよなぁ」
「……てことは」
「ああ。正真正銘、去年の11月30日に丁度300歳になったところだ」
「嘘だ!」
って、言っても無駄なんだと理解させられる。だって未だに両脇が笑ってるんだもん……。てかしかも実妹と同じ誕生日ってのもびっくりだ……。いやいやいや、今はそんなことはどうでもいい。
「おいおい、そんなに笑ってちゃ敦也が困るだろ」
「そ、そうですね」
「ごめんなさい、高村君。期待通りの反応をしてくれたのが面白くって」
ああ、会長……。笑うの我慢してるの見え見えだよ。だって小刻みに震えてるもん……。
「まぁ、それを裏付けるのも大事だよなぁ」
そういって目の前に両手を手を開いて突き出すユーリさん。その顔はかすかに笑っている。
「さて敦也、和菓子は好きかな?」
「はい?」
唐突に意味の分からないことを言い出すユーリさん。
どういうこと?てかやっぱり二人とも、さも当然のように話を聞いてるんだ。
「えーっと、まあ食べなくはないです」
「じゃあ、オーソドックスなものがいいかな」
瞬間、ユーリさんの両手に青白い光が集まり、何かを形成していく。
「……って、え?」
光がはじけた、と思ったらその手の中に饅頭が三つ現れていた。
「どうぞ。鬼ころし山って呼ばれてるところの近くにある旅館で買える土産の饅頭なんだが、あんまり行けなくてなぁ。どうぞ、召し上がれ」
「いただきます」
「どれ……」
その饅頭を手に取り、頬張る二人。俺には何が起きたのか全く理解できてなくて。
「どうした?」
「どうしたって……」
苦笑しながら聞くユーリさん。その表情からは、そりゃそうだよなぁ、なんて声が聞こえそうだ。
「目の前で起こってることが理解できなくて。手品か何かですか?」
「そう捉えることもできるか。じゃあ、何かリクエストしてくれ。とりあえずこれ、どうぞ」
「いただきます」
味はいたって普通の、おいしい饅頭。なんか、心なしか笑顔になりそうだ。
と、それより。
「……じゃあ、柏餅……とか?」
我ながら和菓子に対する知識を疑いたくなるリクエストだ。だってそんなに知ってるわけじゃないし……。
「うん、いいチョイスだな。よし」
誉めてくれたのかはわからないが、そう言うとユーリさんは両手を開いた。再び光ったかと思うと、その手には柏餅が3つ乗っていた。
「これで信じてもらえるかな?」
「一応は」
いや、流石に何もないところから2度も和菓子を出されたら信じざるを得ないわけで。というか、年末にも奇跡みたいなことを経験したばかりじゃないか。そう考えると納得できなくはない。
それはさておき俺達3人、揃って柏餅を頂く。これもおいしい。
って、そうじゃなくて。
「これ一体……。何か特殊能力みたいなものですか?」
「いや、魔法だよ。手から和菓子を出す魔法っていう、れっきとした魔法」
和菓子を出すって、そんな限定的な……。いや、そこは突っ込まないでおこう。
「てことは、ユーリさんは魔法使い……?」
「正確には魔術師だな」
なぜか大和が口出して訂正する。お前はホント何を知っているんだ。
「お前が言うな。まあ魔法も魔術も根っこは同じだから、今となってはどっちでもいいけど」
「はあ……」
「驚くのも無理はないわ。私も最初に見せられた時は驚いたもの」
「やっぱ、そんなもん?」
「ええ」
上品に頷く会長は、相変わらずすべてを受け入れているように見える。
なるほど、二人とも予備知識としてユーリさんが魔法使いだと知っていたからあの反応だったわけか。納得納得。
……って。
「そういうことか。ユーリさんは魔法使い。ということはユーリさんは、何らかの魔法を使って不老の体になってるってことか」
「うむ、鋭いな同志よ」
「だからなんでお前が返事するんだよ」
大和に対して小言は言うものの、否定の言葉は出さない。つまり俺の予想は当たっているということか。
「――ゴホン」
不意にユーリさんが咳払いをする。なんだろうか。
「改めて、俺は魔法使いだ。魔法使いの間では縁の魔法使いと呼ばれている」
エニシ……。
「そういえば、さっきもそんなこと言ってましたよね。エニシがどうとか。そのエニシって何なんですか?」
「別の言い方をすると、エンって言うわね。縁結びとかの」
「ああ、なるほど。縁ですか」
「そうそう。俺はその縁を糸という形で視ることが出来て、それを繋いだり切ったりできる。それが縁の魔法だ」
「なるほど……」
正直なかなかファンタジーな話をされていると思う。けどユーリさんの表情は柔らかくも真剣そのものだし、隣にいる二人も状況を正確に把握しているらしいことはわかる。これらの話はすべて事実なのだろう。
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr