D.C.IIIwith4.W.D.
やっと理解した。つまり俺達は、もうすでにずっとあいつと一緒にいたってことか。ということはユーリさんの縁の糸が繋がっている先って。
「同志よ、珍しいな」
「えっ?」
「辻谷君、それは野暮というものですよ」
「おっと、そうでしたな邑崎嬢。すまない、同志よ」
何を言っているんだこいつらは。それにこの人までなんで微笑んでるんだ。
って、なんか自分の顔を指差してる。頬か?
「あっ」
自分の頬に触れてわかった。そうか、俺は泣いていたのか。
「感情があふれることというのは誰しもある。気にせずそのままいればいいさ」
優しい言葉だ。
なんだか俺はそれに救われた気がして。暫くそれを受け入れていたのだった。
◆ ◆ ◆
「そろそろいい時間だな」
俺は時計を確認する。もう19時を回ろうという時間だった。
「敦也、さっきも言ったが、俺はお前に可能性を提示したに過ぎない。これからを決めるのはお前自身だ」
「わかってます」
うん、いい返事だ。これ以上は俺が言う必要はなさそうだな。
「遥月も大和も付き合ってくれてありがとう」
「構いませんよ、スタヴフィード殿」
「ええ、共通の知人というのは大事ですからね。流石に高村君を一人貴方の前に出せませんよ」
「どういう意味だそれは」
「高村君が緊張して固まっちゃうと言う意味です」
「ちょっと会長!」
そんなやり取りを見ていて微笑ましくなる。周りにこんな友人がいるなら、敦也も大丈夫だな。恐らく彼は近いうちに答えを出すだろう。どう転ぶにしても、今回は俺が干渉した甲斐があったというもの。
「さて、今日はもうお開きにしよう。俺はまだ暫く風南島にいるから、用があれば呼んでくれていいからな。そうでなくとも、すれ違ったら話しかけてくれてもいい」
そう言ってTABの連絡先を敦也に渡す。
「それと、もし魔法やオカルト絡みで困ったら俺に連絡しなさい。力になれることがあるかもしれない」
今度は名刺入れを取り出して、中から1枚手に取ってそれを渡す。
「あ、ありがとうございます。……うん?」
渡した名刺を敦也がまじまじと見つめる。
「非公式新聞部、オブザーバー……って、そんな重役だったんですか!?」
顔を上げて引き攣った顔を浮かべる少年。
いやいやいや。
「重役って、ただの傍観者だぞ」
「いや、十分重役でしょ」
「勘が鋭いな同志よ。このお方は、かつて非公式新聞部のナンバー2を務めたことのあるお方なのだ!」
「何十年前の話してるんだ。そもそもお前は生まれていないだろう」
俺がまだロンドンで宮廷魔術師をしていた頃の話じゃないか。誰からそんな情報掴んだんだ。
「私も初めて知りました。そんなすごいお方だったとは」
「現役引退した、ただの傍観者だよ。もっとも仕事は余るほどあるけどな」
主にエリザベスからの魔導書解読依頼とか。目を悪くした原因の一端を担っているというのに、少しは遠慮してほしいものだ。
「とにかく、気になることがあったら連絡してきなさい。遠慮はいらない」
「わかりました。何かあったら頼らせていただきます」
「うん」
「ユーリさん、今日はありがとうございました」
「とても興味深い話を聞くことが出来ました」
「それでは、またいずれ」
「じゃあな、気を付けて」
丁寧なお辞儀をする3人に、俺は手を振って返す。そして彼らが部屋から出ていくのを見つめていた。
それと入れ替わるかのように。
「すまないね、ユーリ君。来て早々迷惑をかけてしまって」
「いや、こういう話は早い方が良いし、ちょうどよかったよ」
この研究所の主が部屋に現れた。
「そういえば、もしかしたら近い将来、ここに就職したいという人間が現れるかもしれないな」
「また物好きな人もいるものだ」
「そりゃそうだろう。その研究はここでしかできないんだから」
「どういうことだい?」
「さあ、それは4年ほど先のお楽しみということで」
俺はおどけて返す。当の天枷博士は疑問符を浮かべっぱなしだった。
「ま、未来は誰にもわからないけどな」
そう告げて、俺も隣の部屋へ預けた荷物を取りに行く
「ありがとう博士。こちらとしてもいい経験になった」
「そう言ってくれると何よりだ」
「ま、若い奴と話すのは刺激になっていいよ」
「見た目若い君がよく言う」
「見た目だけだよ」
他愛もない話をしながら、俺は荷物をまとめる。と言っても来た時そのままだから、あまり片付けるものはないけど。
「それじゃ博士、また来るよ」
「ああ、気を付けてね」
「有難う」
そんなやり取りをして、研究所を後にする。
すぐにホテルにチェックイン。
1日で移動とお悩み解決をしたせいで、ベッドに倒れ込むとすぐに眠気が襲ってきた。
仕方ない、風呂に入って寝るか。
まだこの島に来て初日だ。観光する時間はまだまだある。
そう思いながら身支度をするのだった。
◆ ◆ ◆
あれから1年近くが経った5月。もうゴールデンウィークも終盤という頃。
敦也から1通のメールが届いた。内容はこうだ。
風南島の外の大学に進学し、ある程度決めた道を進んでいたが、この進級を期に本格的にシステムエンジニアとしての道を進むと決めたこと。それは勿論喪った恋人に再び会う為に必要なこと。そして卒業したら風南島に戻り、天枷研究所に世話になること。もうすでに天枷博士にその件を打診していること。あとは近況報告などが書かれて、締めにはこんな言葉が書かれていた。
「1年前、貴方に会って俺の進むべき道が見つかりました。ありがとうございました、ねぇ……」
なんともむず痒い気分だが、あれが彼の役に立ったのなら嬉しい限りだ。
「少なくとも悪い気分ではないな」
俺は書斎の座椅子に腰掛けたまま、ダージリンを一口。
いつもと変わらない日常の中で、俺はまたエリザベスから与えられた依頼をこなしていた。まったく、後進は育っていないのかと心配になるなこれは。まあ、それは追々俺も含めて面倒を見てやればいいか。
そんなことを考えつつ、さてどう返事を返したものかと考えていた。
――その時。
「……嘘だろ、おい」
背筋を走る悪寒。いつかに経験した感覚。
これはもしや。
いや、今度は確信に近かった。何故なら一度経験しているのだから。
「……ハァ」
溜息を吐き、流れに逆らわず身を任せる。生憎俺は時遡の魔法に明るいわけではない。故にこれを止める術を知らない。だから俺に与えられた選択肢は、これを甘んじて受け入れることだった。
その最中だ。一面の光の中、俺は誰かの想いを感じた。
これは……。覚悟と贖罪か。覚悟ってなんだ?贖罪ってなんだ?
そう思うのもつかの間、俺の意識は光の中に溶けていった。
◆ ◆ ◆
気付いた時、俺は自分の家の書斎に腰掛けていた。
慌てずにカレンダーを確認する。
「……今度は10年近く戻ったわけか」
しかもゴールデンウィーク直前。以前のような途方もない時間を遡行するなどと言ったことにならずに済んでよかった。いや、10年も十分途方もない時間か。
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr