D.C.IIIwith4.W.D.
After da capo[4]:Love or Magic……? サクラの国のアリス
日中の春先の気温は暖かくも冷たい。それがこの国の気候だということは重々承知している。というか、もう50年近く住んでいるわけだし慣れたと言えば慣れた。
……というのを、ロンドンから帰ってくる度に実感している。
今回もエリザベスに呼ばれ、世界中の色んな場所から非公式新聞部に預けられる魔導書を解読してくれと頼まれて往復した次第だ。
物が物だけに郵便とかで送れないのはいいんだが、俺を呼びつけて持ち運ばせるのはどうなんだよ。とは思うが、流石に本人の目の前で口にしたりはしない。
最近は俺の後任が育ってきており、俺に回される魔導書は格段に減ってきている。確実に俺が必要だという時にしか呼ばれないし、何よりしっかり報酬をもらっている。流石に文句は言えん。
……と、スーツケースを引き、自宅を目指す途中に考えながら歩く。
最寄りのバス停から俺の家まではそれなりの距離がある。仕方ないと言えばそれまでだが。
着実に、一歩一歩足を進め、もうすぐ自宅は目の前。
そういえば、ロンドンを出たのが遅すぎて宮廷を訪れた時に着ていた宮廷魔術師の制服を着たまま帰ってきたんだったな。派手ではないが、ある意味不思議な姿なので恥ずかしい。まあ、問題はないか。
そんな時だった。
「……えーっと。ここで合ってるよね。もしかして留守なのかな……?」
「ジジイの書いた住所ではここを指してるから合ってるはずだけど……」
大きな荷物を携えて俺の家のインターホンを鳴らし、門扉から中を覗こうとする少年少女が一人ずつ。
もしかして客か?しかしあんな歳の奴に知り合いなんて……。
いや風南島にはいるか。あの兄妹や邑崎の令嬢は元気かな。
……っと、そんな場合ではないか。
「俺の家に何か用か?」
恐らく声を張らなくとも聞こえるであろう距離まで近づいたと判断し、俺は思っていたことを言葉にした。そして彼らのやや目の前で立ち止まる。
「えっ……。あっ!」
少女が俺の姿を確認すると、手に持つ写真と俺を交互に見る。
……古い写真だな。いつの物だろう。
「貴方がユーリ・スタヴフィードさんですか?」
「そうだが?」
その写真に俺が写っているのだろうか。彼らは揃って俺に向き直り、まじまじと写真を見つめている。
なんだか二人共、懐かしい気配を感じる。なんだろうか。
「あっ、すみません。名乗るのが遅れてしまって」
そういえばそうだった。
俺は彼らの次の言葉を待った。
「俺は、常坂一登と言います」
「私は鷺澤有里咲です。お願いしたいことがあって訪ねてきました」
鷺澤……それに、常坂……。ああ、なるほど。少し懐かしいと感じたのは、そういうことか。
「まあ、なんだ。ここで立ち話もだから、中に入れ」
「はい、ありがとうございます」
常坂一登と名乗った少年と、鷺澤有里咲と名乗った少女を引き連れ、俺は家に入る。
それがこの少年少女との出会いだった。
◆ ◆ ◆
有里咲と再会して1年近くが経過した。
俺は日々研鑽を積み、魔法使いとして成長した……と、思う。
そんな頃だった。
「いっくん、実は言わないといけないことがあるの」
日課の朝の修業を終え、有里咲と共に朝食を取っていた時だ。
今日は二乃とそら姉に無理を言って、俺の実家で二人で食卓を囲んでいた。というのも、有里咲から大事な話があると言われたからだ。それも、二乃たちの前では言いづらいらしい。
なんだ?有里咲は何を言いだそうとしている?
もしかして、別れ話……?
「いっくん……?」
「あ、ああ」
我ながら、見事なまでの挙動不審である。おかげで有里咲に不安そうな顔をさせてしまった。
彼氏失格だな、俺。
「ど、どうした?」
「うん。いっくん、なんか深刻そうな顔をしていたから大丈夫かなって」
「大丈夫だ、問題ない。フラれるとか考えてない」
「考えてるじゃん……」
しまった、口に出してしまった。
どうした、俺。……いや、落ち着け。
深く、深く深呼吸。
「……ふぅ」
「あの、いっくん。別れ話とか、そんなことじゃないからね?」
今度はほっと一息。
良かった、愛想尽かしたわけではないらしい。
「あからさまだね」
「流石にな……。もし本当に別れ話とかだったら、凹む」
「あはは……。そこは安心して。話って言うのは、私自身の事だから」
有里咲の事?なんだろうか。
「以前……というか、いっくんが時遡の魔法で時間を巻き戻す前の話なんだけどね」
「だいぶ昔だな」
「うん。その時、私たちサクラの国の魔法使いは、恋をすると魔法が使えなくなるって感じの話をしたの、覚えてる?」
「あー、なんとなく」
そういえば、そんな話をした気がする。
なんとも不便な話だと思う。神様というものがいるなら、なんとも残酷に世界を作ったものだ。
「そのことなんだけど、最近私の魔力が減っていってる感じがするの」
「……もしかして、魔法が使えなくなるって、魔法そのものが使えなくなるとかじゃなくて、使えるリソースが少なくなるとか、そういう?」
「うん。一説には、誰かを愛することで、その想いの力が魔力のリソースの枠を使ってしまうとか言われてるんだけどね」
なるほど。
一理ある。一理あるが……。
「マズくない、それ?」
「うん、すごくマズい」
「前にやったあれ、歌で魔力をブーストするやつ。あれじゃなんとかならないの?」
「あれは私達の周囲のマナを活性化させてるだけだから、根本的な解決にはなってないよ。それに愛乃亜ちゃんが言ってたでしょ?癖になるからやめた方が良いって」
「ああ、なるほど」
そこまで思考をして、目の前の顔を見た。
少し顰め面の有里咲。その意味を少し考え、理解。
「いっくんとの約束、ちょっと難しくなっちゃったかも……」
再会して直ぐ、ジジイの書置きのようなものを見つけた時の、あの約束。最強の魔法使いコンビになる。恋も魔法も両立して。
……実際のところ、俺も感じてた部分ではある。毎朝の修業中、有里咲の扱うマナが減っているような感覚があった。
多分、俺がコツコツ修行を重ねて、少し余裕が出来たからこそ気付けたことだと思う。少しずつ、じっくり観察しないと分からなかったことではあるけど。
「でも、今すぐにってわけじゃないだろ?すぐに魔法が使えなくなってしまうんだったら、大問題だ」
「うん。勿論明日明後日、みたいな話じゃなくて、10年後20年後とか、もっと先の話だと思う。けど、こう実感しちゃうとね……」
「なるほどな」
何かと魔法には真面目な有里咲だ。そう思うのも当然か。
うーん……。
「あっ」
そうだ、こんな時こそ探ってみようじゃないか。
「どうしたの、いっくん?」
「ジジイの部屋、探ってみよう。何かヒントがあるかもしれない」
「なるほど!その手があったか!」
手を叩いて、サムズアップ。
そうと決まれば、やることは一つ。
「ちょっと部屋をひっくり返してみよう」
「……だめだ、見つからない」
「……だねぇ」
部屋を荒らし始めて早1時間。
特に成果は何も得られていなかった。
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr