D.C.IIIwith4.W.D.
片づけているとはいえ、結構何度もこの部屋は探っている。大体見たことのある本やら道具やらが出てくるばかりで、これと言って目ぼしいものが出てくることはなかった。
「そりゃそうか。そんな都合のいいものあったら、今までに見つけてるよなぁ」
溜息を吐く。同じく隣からも溜息。両方とも、疲れと諦めの色を含んだ溜息だった。
「まあ、もしかしたらって考えもあったから、あながち変な考えでもなかったんだけどね」
「けど、こうやって何度も探すのも、なかなかしんどいよなぁ」
何度も読み返したはずの本を見ながら、お互いに言葉を交わす。
……あれ?
「なんだこれ」
結構埃をかぶっている、分厚い本を見つけた。
こんなの、見たことあったかな……。
とりあえず取り出して、埃を払って中を見る。
「……アルバムか」
律儀に日付と写ってる人の名前の載ったアルバムだった。書いていない名前から推察するに……。
「いっくんのおじいさまのアルバムかな?」
「多分……な」
結構昔から残しているらしい。白黒の写真や、色褪せたカラー写真などが奇麗に納められていた。
「……あっ」
「へっ?」
パラパラと頁を捲り続けていると、何かを見つけたらしい有里咲が指差す。その中の1ヵ所に目が留まった。
「ユーリ・スタヴフィードさん……芳野リッカさん……」
誰だろう。黒髪の青年と、金髪の妙齢の女性だ。
青年の方は、ジジイと同年代だろうか。両方とも外国人っぽい感じがする。
「この人達、サクラの国のカテゴリ5の魔法使いの人だ」
「なんだって?」
カテゴリ5って、確か大魔法使いだっていう……。そんな人の写真が何故……?というか、2枚ともジジイとのツーショットだし。
「うん。私は会ったことないんだけど、以前おばあさまから聞いたことがあるの。ユーリさんは<失った魔術師>って呼ばれている魔法使いで、リッカさんは<孤高のカトレア>とも呼ばれる魔法使い。どちらも本当にすごい魔法使いだって」
「てことは、本当に……」
そんな二つ名みたいなものまであるのか。大魔法使い、恐るべし。ちょっと羨ましい。
……うん?待てよ?
「なんでジジイはこの二人と知り合いなんだ?」
「確かに。おじいさまはカイの魔法を使えたのかな」
「いやぁ……。そんなこと聞いたことないけどなぁ……」
でも、この写真が全てを物語っている気がする。
俺はそのうちの一枚、ユーリさんが写っているものを手に取る。
「ジジイとそう変わらなさそうな見た目だし、同年代かな」
「おばあさまとも知り合いのはずだし、そうかも」
何気なく写真を観察し、裏面を見る。
「……あ?」
「何々?」
その裏面にはジジイの筆跡らしき文字があった。
「困ったらこの人を頼れ……」
どこまで俺達の行動を読んでるんだ、あのジジイは……。ご丁寧に住所まで書いてあるし。
「いっくんいっくん、こっちも!」
そういう有里咲の手元には、リッカさんとの写真が握られていた。その裏にも、同じ言葉が刻まれていた。
「つまり、なんかの方法でサクラの国へ行けるんなら、この人達を頼れと……?」
「そういうことじゃないかな。そうじゃなきゃ、こんなこと書かないでしょ?」
「もしかしたら、父さんや零次さんに向けた言葉かもしれないけど」
でもそういうことなら、頼らせてもらおう。
「有里咲、この人達がどこに住んでるか知ってる?」
「うん。初音島っていうところ。ほら、以前行ったことあるでしょ?」
以前……というと……。
「あ、あの枯れない桜の……」
「そうそう!」
「だったら話は早い。一回行ったことある場所なら、その因果を辿って行けると思う」
「私たちが力を合わせれば、何とかなりそうだね」
「ああ!」
と、ここで情けない音が響き渡る。これはおそらく……。
「お腹、空いちゃった……」
時計を見ると、良い時間だった。それにTABを見ると、そら姉からもうすぐ昼飯だとのメッセージも入っている。
「腹が減っては戦は出来ぬ、だ。まずは昼ごはんにしよう」
「そうだね、あはは」
その会話を最後に、俺の家へと向かった。
片付けはまあ、昼飯の後でもいいか……。
「元さんの知り合いかぁ。もしかしたら、相当なおじいさんかもしれないねぇ」
有里咲も交えた家族との昼食。
俺は二乃とそら姉に、ジジイの知り合いのところへ行くことを報告した。
「おじいちゃんがあんなちゃらんぽらんでしたから、そのお知り合いの方というのもそんな感じがしそうなのですが……」
「若い頃の写真を見る限りでは、ちゃらんぽらんというよりはどこか大人びた人っぽく見えたけどなぁ」
「うんうん。それにおばあさまのお話では、すごく熱心な研究者みたいな人だったって聞いてるから、むしろ逆かも」
「ホントに真逆そうな性格の人ですね……。なんでおじいちゃんと知り合いになったんでしょうか」
「それも会った時に聞いてみるつもり。そっちが目的じゃないけど」
「有里咲さんの魔法の修行の一環、だっけ。熱心だねぇ」
「日々成長しているいっくんに追い付く為ですから、当然です」
話しながら胸を張る有里咲。
その様子を見てそら姉たちがほほ笑んでいた。
「愛だねぇ」
「愛ですねぇ」
「……なんだよ」
「別にぃ。ねぇ、二乃ちゃん」
「はい。兄さんは愛されてるなー、なんて考えてませんよー」
「考えてるじゃねぇか」
俺は呆れながらため息を吐いていた。
「それで、どうするんですか?この後すぐお出掛けしちゃうんですか?」
「流石に、アポイントなしで押しかけちゃうことになるから、早くても明日かなぁ」
「ああ。向こうの世界へ行くのに、相当魔力使うから準備したい。それに少しでも長く滞在して、話を聞いたり稽古つけてもらいたいしな」
「だったら、泊めてもらう気で行けばいいんじゃないかな?」
「そら姉、流石にそれは失礼では……」
「まあ、一応その準備はして行くつもり。ほとんどダメもとだけど」
「教えてもらうにしても、何を教えてもらうのかしっかりまとめておいた方が良いんじゃないでしょうか。アポなしで行くなら特に」
「そこは大丈夫。私があたりを付けてるから」
「そうなのか?」
「兄さんが驚いてどうするんですか」
「いや、俺はこれから考えるつもりだったから」
「まあいっくんはユーリさんやリッカさんの事を知らないから当然だよ。と言っても、私もそこまで詳しいわけじゃないんだけど」
「でも心当たりはあるんだよな?」
「うん。前におばあさまからちょっとだけお話を聞いたことがあるから、それでね」
「なんなんだ、それは」
「うーんと……」
箸と茶碗を置いて、考えるポーズ。なんと答えようか悩んでいるようだった。
「……魔術」
「魔術?魔法じゃなくて?」
なんか、怪しい術法とか、そんな感じか?
「正確には術式魔法って言うらしいんだけど、私も詳しくは知らなくて」
「ああ、なるほど。それで魔術か」
「本人が自称してるからね、魔術師って」
「魔法使いじゃなくて?」
「いったい何が違うんでしょうか」
「それも併せて聞いてみようと思うの。それが私にいい影響を及ぼしてくれるかはわかんないけど……」
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr