D.C.IIIwith4.W.D.
「まあ、今はそんな話をしてても仕方ない。実際に会ってみてからでも、遅くないと思うぜ」
「そうだね。じゃあ、この後はあっちの片付けしながら作戦会議しよう」
「ああ」
「……実家、散らかしてたんですか?」
「お、おう。ちょっと探し物しててな……」
「しっかり片付けるんだよー。もし人手が足りなさそうなら、お姉ちゃんをいつでも呼んでね」
「できる限り頑張ってみる」
そんなこんなで昼食後、俺達は実家の片付けをしながら明日サクラの国を訪れる為の算段を付けた。
……思ったより散らかしすぎて結局片付けが収集付かず、二乃とそら姉に手伝ってもらった。二乃には今日の夜のチャンネル権を譲るという条件を飲まされたけど。まあ、それで何とかなるなら安いもんだ。
◆ ◆ ◆
次の日の朝早く。
俺達は水鏡湖へ来ていた。
いつもなら修行をする為に来るだけなのだが、今日は違った。
「……こんなもんかな」
「うん。大丈夫だと思うよ」
いつものルーティーンで修業を行い、その集中を解く。
その傍らには、スーツケースが一つ鎮座していた。勿論これは、押しかけてもし泊まり込みでの修行になってもいいようにする為の準備。
……さて。
「行くか。大魔法使いとやらのところへ」
「うん、行こう!」
一度サクラの国へ、しかも同じ初音島を訪れているからか、不思議と不安はない。むしろ高揚感を抑えるのに労を要するくらいだ。
「いっくん、興奮はめっ、だよ。カイの魔法も因果を操る魔法も繊細なんだからね」
「分かってる。幾ら前に行った時の因果が残ってるからって、焦りは禁物だな」
深く、深く深呼吸。胸の昂りを抑える。
……よし。
「じゃあ、始めよう」
「うん」
まずは俺が、半年程前に初音島へ訪れた時の因果へアクセス。俺が残したものだ。
切れた糸を紡ぐように、俺達と因果を繋ぐ。
俺がこの作業に集中できるよう、有里咲が周囲のマナをコントロールしてくれている。おかげでいいペースで因果を紡げる。
――繋がった!
「よし有里咲、交代」
「了解!」
今度は有里咲の番。
俺の繋いだ因果を辿り、カイの魔法を使って扉を開く。
その裏で俺は、周囲のマナを操り有里咲の魔法に最適な状態を作る。有里咲のやってくれているナギの魔法には遠く及ばないだろうが、幾分かマシなはずだ。
その成果もあってか。
「いっくん、繋がったよ」
その言葉と共に、俺達を光が包み込む。
そこで一度俺達の意識は途絶えた。
● ● ●
気付いた時には、俺達は桜の根元にいた。
見覚えのある桜だ。懐かしい。
前に来たときは確か――。
「いっくん、見て!」
少し思いに耽っていたが、有里咲の言葉で我に返る。
周囲を見渡すと、満開の桜が辺り一面に咲き誇っていた。
「前に来た時は、俺達が時空を超えた影響で咲いたんだったよな。その本当の姿がこれか……」
「うん。本当に枯れない桜だった時は、もっと美しかったのかもしれないね」
俺はその言葉に頷いていた。
というより、目の前の光景に圧倒され、言葉を失っていた。
……と、こうしてる場合じゃないな。
「早速、行ってみよう。時間が惜しい」
「そうだね。少しでも多く、いろんなことを身につけなきゃ」
俺達は頷き合うと、桜を離れ、歩き出した。
少し歩いて周囲を見渡す。
どうやら時間の進み具合はミズの国と同じらしい。着けていた腕時計と、近くの時計を照らし合わせると、同じ時間を指していた。
「地図を見る限りだと、そこそこ離れてるみたいだね」
「バスとか使えばすぐなんだろうけど」
「せっかくサクラの国の、しかも初音島に来たんだし、歩いていこう」
「だな。観光だと思えば、歩くのも苦じゃない。それに」
俺は言葉と共に有里咲の手を握った。
「……ふふっ」
有里咲も指を絡めて握り返してくれる。
これならちょっとしたデートになるだろう。
同じ事を考えてくれているのだろうか。有里咲は笑顔で歩を進めていた。
道のりを観察しながら俺達は歩く。
世界が違うからって、何か特殊なものがあるわけではないらしい。建物も、生き物も、人も。何一つとっても、俺達の世界と変わらないようだ。
「まさかこんな風に、こっちの世界をいっくんと歩ける日が来るなんてね」
「前に約束したじゃないか。それともできないなんて思ってたのか?」
「ううん、そうじゃないの。ただ、私のマナが減ってきているのが気がかりだったから」
「あー……」
そうだった。今日の本題はそれだった。
俺と恋をしているから訪れている、サクラの国の魔法使いが逃れられぬ宿命。それを何とかして克服する。
「まあ、以前やった時も成功したわけだから、俺は心配してなかったよ。それに有里咲の出来ない分をカバーするのなら大歓迎だ」
「いっくん……。ありがとね」
握る手に力がこもる。
俺はそれを優しく握り返した。
……さて、そろそろ目的地かな。
近くの自動販売機に書いてある住所を照らし合わせ、すぐそばまで来ていることを確認。
――あった。ユーリ・スタヴフィードさんの家だ。
結構古めの日本家屋。
写真に写っているのが外国人っぽい見た目の人だったから、少し違和感を感じた。けど表札にはしっかり名前が書いてあった。
あれ、名前を消した跡がある。他に誰か住んでいたのだろうか。まあ、今は置いておこう。
門扉に備え付けられているインターホンをタップ。チャイム音が聞こえるが、それ以外に何も聞こえない。
もう一度タップ。変わらない。
「……えーっと。ここで合ってるよね。もしかして留守なのかな……?」
「ジジイの書いた住所ではここを指してるから合ってるはずだけど……」
門扉を少し超えて覗き込んでみるが、わからない。
もしかして、本当に留守……?
――と、その時だった。
「俺の家に何か用か?」
若い男の人の声。
咄嗟にその声の方向へ顔を向けた。
そこには、見たことのない制服を着た眼鏡の青年がいた。
あれ、この顔もしかして……。
「えっ……。あっ!」
有里咲が手持ちの写真とその人の顔を見比べる。
俺も同じく見比べる。まったく同じ顔だ。
……えっ?まったく同じ顔?
眼鏡をかけているけど、それ以外は全く同じ。
とりあえず、確認。
「貴方がユーリ・スタヴフィードさんですか?」
「そうだが?」
何を変なことを言っているんだ、とでも言いたげな声音で切り返されてしまった。
待って、この写真何十年も前のものだよな。なんでまったく同じ顔が目の前にあるんだ?
俺達は揃って写真と目の前の顔を見比べてしまった。
……あっ。そういえば。
「あっ、すみません。名乗るのが遅れてしまって」
忘れてた。
名乗らずに怪しいことをしていたから、怪しまれたかもしれない。
ここは一つ冷静に。
「俺は、常坂一登と言います」
「私は鷺澤有里咲です。お願いしたいことがあって訪ねてきました」
二人そろって挨拶。そして簡単に訪れた目的を告げた。
当のユーリさんはというと、俺達を見つめて呆気に取られている様子だった。
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr