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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
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D.C.IIIwith4.W.D.

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 そこには落ち込み気味の恋人がいた。
「……ごめんなさい、いっくん。私が勘違いしてたみたい」
 直後、大きな笑い声。
その主は目の前の大魔法使いだった。
「あははははは。まあ、知らないのも無理はない。魔法を使えない奴はそもそも魔法を使おうと思わないし、魔法を使えるなら魔術に頼ろうと思わない。今では魔術もマイナーなものになってしまったからな」
 凄く慰めに近い言葉だった。
 しかしそのフォローが有り難い。
 実際、隣の恋人は少し元気を取り戻したようだった。
「話を戻そうか。有里咲、お前は術式魔法を教わりに俺のところまで来たわけだな?しかも教わりきるまで泊まり込むつもりで、そんな大荷物を持って」
「はい、そうです」
「それは、恋をして失いつつある魔力を少しでも補う為、違うか?」
「いえ、その通りです」
「まあ、そうだよなぁ。俺達魔法使いには、永遠に付きまとう問題だもんな」
「そもそも、恋をして魔法が使えなくなるなんて現象をどうにかする方法はないんですか?」
「ない」
 俺のかすかな希望は一瞬にして絶たれてしまった。
「まあ、昔からずっと研究されている命題ではあるけどな。でも今のところそれは見つかっていない。それさえ見つかれば、助かる命もあったんだがな……」
 また、遠い目。
 ユーリさんの恋人の他に、また何かあったのだろうか。
「それはさておき。宿命に抗おうとする姿勢は認めよう。ただし、断っておくことがある」
「なんでしょうか」
「俺は魔術師だ、魔法使いじゃない」
「はい」
「つまり厳密には魔法は使えない。だから術式魔法を教えるにしても、実践的なことは教えられない。基本の使い方やそのノウハウを教えるにとどまる。それでも構わないか?」
「大丈夫です。そこまで教えていただければ、自力で修業します」
「……わかった」
「本当ですか!?」
「若い魔法使いの面倒を見るのも、年長者の務めだ」
 ユーリさんの口角が少し上がった。
 もしかして、嬉しがっている?
 流石に聞けないけど。
「それじゃあ、改めて自己紹介させてもらおう。<失った魔術師>、ユーリ・スタヴフィード。カテゴリー5の魔法使いだ。以後お見知りおきを」
 初めて本人が口にする二つ名。
 俺はその意味を理解した。
 家族も、魔法すらも失った、魔法使いですらない力の持ち主。
 それがその名に込められた意味。
 大きな意味を持っているのだと、理解させられた。
 この名を付けた人がユーリさんでなく、別の誰かから与えられたのだとしたら、相当重い名を背負わされたのだろう。もしかして、これもユーリさんの罪に対して与えられた罰なのだろうか。
 そんなことを考えていると、ユーリさんが目の前で魔法を使った。
 ユーリさんが手を翳す先に、魔法陣が浮かぶ。そこに手を入れると、ノートとペンが出てきた。
「ユーリさん、それ、カイの魔法ですか?」
「よくわかったな。俺がカイの魔法をアレンジして、この空間と別の空間を繋げる魔法を作った。応用すれば、テレポートみたいなこともできる」
「カイの魔法を応用って……」
「ただサクラの国とカガミの国、ミズの国を移動するだけじゃ物足りないだろう?」
「そりゃそうかもしれませんけど」
「有里咲は出来ないの?」
「頑張ればできるかもだけど、やったことないよ」
 相当なことをしているのがわかってしまった。
 カテゴリ5、恐るべし。
「まずは予定から決めて行こう。今日はわざわざ来てくれたわけだから、このまま講義に入るが、基本はミズの国の、俺の知り合いの家で行う」
「えっ、習得が終わるまでここにいるつもりだったのですが……」
「馬鹿なことを言うな。ここしばらくが春休みだからそんなことを言えるのだろうが、もしお前達の学校が始まったらどうする。基本は学業が優先だ」
「あ、はい。そうですね」
 ぐうの音も出ない。
「それに今は、別の同居人がいてな。部屋を貸し出すことが出来んのだよ」
「あ、そうだったんですね。表札に名前がないからてっきりお一人かと」
「そこの風見学園を卒業するまでの期間限定だからな。その必要はないと、あえて書いてない」
 それなら仕方ない。
 けどこれじゃあ、勉強しようにも……。
「そこで、ミズの国に丁度俺と元の共通の知り合いがいるから、そいつに頼んで場所を貸してもらう」
 と、思っていたら、ユーリさんの口から代替案が出てきた。
「それはもう話が済んでいるんですか?」
「いや、後で話を付ける。まあ、大丈夫だ。元々、元もそいつに話を付けてるみたいだし」
 ……ジジイ、どこまで先を読んでいるんだ……。
 我がジジイながら、侮れん。
 いや、そんな人じゃないのは十分わかってるけど。
「で、そんな感じで月一くらいで講義と修行を続けてみよう。それでいいか?」
「はい」
「問題ありません」
「……なんだ?お前も付き合うつもりか、一登?」
「はい。俺もレベルアップしたいですから」
「いっくん……」
「有里咲、約束しただろう?"最強の魔法使いコンビになろう"って。それにジジイの"俺を追って来い。できるものならな"なんて言葉もある。ここまでお膳立てされてるなら、乗ってやるしかないよ」
「元の奴……。そんなことしてたのか」
「はい。たまたま見つけた置手紙みたいなものだったんですけど……」
「奴らしいな。と、話がそれたな。それじゃ、早速やっていこう。今日は時間もあまりないし、簡単な講義でさわりの部分を教えよう」
「はい」
「よろしくお願いします」
 こうして、大魔法使いによる術式魔法の講義が始まった。
「早速やろうか。まずは術式魔法の根本からだな。断っておくが、術式魔法は個人の魔力の増強をするものではない。周囲のマナを制御して、扱える魔力を底上げする為の方法だ」
「この前、俺達が歌でやったものと根本の考え方が同じだ……」
「お前ら、そんなことしたのか。変な癖がつくからやめとけよ。下手すりゃ歌いながらじゃなきゃ魔法使えない、なんてことになりかねん」
「似たようなこと、愛乃亜ちゃんにも言われたね……」
「メノア……。八坂愛乃亜か?」
「ご存じなんですか?」
「会ったことはないが、名前だけな。顔も知らんし、そもそもどこにいるかすら知らん」
「そりゃそうですよね……」
 系統樹の径を超える魔法をいとも容易くやってのけるような奴だ。
 会えた俺達が運がいいと思う方が良いのか。
「話がそれたな。お前たちがやったような歌でマナを制御する方法然り、術式魔法には様々な系統がある。有名なのはクリサリス式術式魔法だな。魔法陣を使ってマナを制御する、という系統の術式魔法だが、群を抜いて扱いやすく、効果が高い。成立させた奴の性格が出てるともいう」
「まるで知り合いみたいな言い方しますね」
「さっき言った、ロンドンの魔法学校の後輩だからな。もっとも、ほとんど絡みはなかったが」
 この魔法研究機関、どんなものなのか興味が出てくるな……。魔法の研究に熱心な人がたくさんいるのだろうか。
「……さて、これからクリサリス式術式魔法を教えていくわけだが、ついてこれてるか?」
「なんとか」
「よろしい。分からなければその時点で言うこと、いいな?」
「はい」
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr