D.C.IIIwith4.W.D.
「別の径で俺が死んでいると言う事は、俺は<最後の贈り物>を解呪しているということだな。じゃあ、カレンとの約束はどうなっている?」
「それ、あたしの口から言ってもいいのかしら」
「知ってるんだな?」
「まあね」
「教えてくれ」
「と言っても、あんたと彼女がどんな約束をしたかは知らないわ」
「じゃあ何を知っているんだ」
「そもそもあんたのフィアンセが呪いの犠牲にならずに、寿命を迎えた事かしら」
「は?」
「あたしちゃん様が他の径で聞いた話によれば、あんたはフィアンセの卒業後すぐに結婚、仕えていた女王の勧めで宮廷魔術師を引退して、妻と一緒にこの初音島に引っ越し。で、夢見の魔法使いから贈られた魔導書を元に自身の禁呪を解呪して、妻と最期まで幸せに暮らした、ってところかしら」
その話が本当なら、そもそもカレンを喪っていない……?
「分かりやすくコロコロと表情を変えるわね。ポーカーフェイスを練習することをお勧めするわよ」
「俺の理解を超えた情報を与えられて、ポーカーフェイスでいられる自信なんてないよ」
「望んだのはあんたでしょう?」
「そうだが……」
だが、そうか。
あのウィザリカのデモ行為。アレによって俺はカレンを喪ったが、他の径ではそれがなかったのか。
「何か腑に落ちたようね」
「まあ、な」
そしてふと思う。それを口に出して、少女に問う。
「じゃあなんで俺を探していたんだ?会うだけでミッションコンプリートって」
「別に。ただ珍しい人に会いたかっただけよ。たまたま近くを通りすがったからね」
「つまり、俺を見物に来ただけと?」
「ええ。けど、また会えるかもしれないわね」
「俺は二度とごめんだな」
「あら、残念。まあいいわ」
「……もう一つ教えろ」
「まだあたしちゃん様から、何を聞こうというのかしら」
「名前。俺の素性を知ってるくせに、俺は知らないって不公平だろ」
「あたしはそうは思わないけど。まあいいわ」
くるりと一回転。
すると彼女は光を纏った。
転移系の魔法でも使ったのだろうか。
「あたしは八坂愛乃亜。また会ったらよろしく。あんたなら覚えてくれるわよね」
そう言い残すと、少女は姿を消した。
……なんだったんだ、あいつ。人を苛立たせる天才だな。
しかし。
「あいつが八坂愛乃亜か……。まさか、こんな形で会うことになろうとはな」
一登たちの口からこの名が出た時は驚いたものだ。
というか、あいつ、いったい何が目的で俺に会いに来たんだ。
ただ会いに来た、なんてそんなわけなかろう。
……まあ、考えても仕方ないか。
◆ ◆ ◆
「……と、こんなことがあったわけで」
「つまり貴方は、自分の存在がイレギュラーである事実を、まだ可憐さんに伝えられていないのをどうすればいいかって相談したいのね」
「そういうことになる」
話し終えて、再確認。
と同時に隣から大きな溜息が聞こえてきた。
「貴方と可憐さんってそんなに薄っぺらい関係なの?」
「そんなわけないだろ」
「そうね。そうじゃなきゃ結婚なんてしないものね」
「けど、これまで引き伸ばしにしてきたから、伝えて何かが変わるのは怖くてなぁ」
「貴方ってそんなに臆病だったかしら?」
「約束を叶えて、それを失うのが怖くて臆病になってるのかもしれん」
「あー……」
困ったように腕を組む立夏。
「けど、そうね。私から助言できるとすれば一つよ」
固唾を飲んで続きの言葉を待つ。
「男なら当たって砕けろ!」
ああ、そう言うと思ったよ。
ま、踏ん切りがついたと言えばその通りか。
というか、誰かに背中を押してほしかっただけか。
「……そうだな、覚悟決めてぶつかってみるよ」
「その意気よ。頑張れ!」
ホント、こいつは昔から変わらないな。
いや、若くなった分押しが強くなったか。
けどそれが有り難い。
「というか、貴方が決めたあの誓いって、この話が根本にあるのね」
「ああ、そうだ」
俺はこの径にしか存在しない。
なら他の径との均衡を保つためにも、この世界に必要以上に干渉するのはあまりよくない。
それが俺の考えだった。
「正直、今の話を聞いてやっと腑に落ちたわ。だって、最初に私達にこの話をしてくれた時、何も言わずに話をごまかしたじゃない」
「そりゃ、こんな話誰にもできることじゃないだろ」
「言いたいことは分かるわよ」
あの花見の時に再会した日の後日。
俺は改めて公式新聞部、こと風見鶏で<永遠に訪れない五月祭>の解呪に尽力した6人にこの話をしていた。
その時、俺の過去の記憶を持っていたのは、立夏達6人と可憐だけだった。
このことは可憐には事前に話していた。
「けど、そうね。そのパスとやらの話が本当なら、ユーリの話も納得できる。このパスに連なる二つの世界だけじゃなくて、他のパスに影響が出かねない。そう言いたいわけね」
「いつもながら察しがよくて助かるよ」
「……長く生き続けて、イレギュラーになるのも大変ね」
「お前もそうだっただろ」
「私は貴方がそれを解消してくれたじゃない。思わぬ副産物って形だったけど」
「そういえばそうだったな」
皐月がサクラの国に迷い込んだ時の話。
立夏はそれも覚えているらしい。
どうやら、過去の記憶の全てを持っているというのは本当のようだ。
「俺もこんな形で問題になるとは思わなかったよ」
「そうでしょうね」
二人揃って大きなため息を吐く。
その後俺達は、他愛のない会話をして別れた。
その日の夕食後。
話がある、と告げて食卓で可憐と向き合って座っていた。
「そんな神妙な顔して、どうしたの?……なんかやらかした?」
「そういうわけじゃないんだが……。ちょっと小難しい話があってな」
そして俺は、昼間に立夏にした昔話を可憐にも教えた。
その上で。
「……とどのつまり、俺の存在はイレギュラーなものだ。そんな俺でも、一緒にいてくれるだろうか」
言いながら、心が震える。
もし、このせいで別れを切り出されたらどうしよう。そんな不安が俺を襲う。
しかしそんな俺とは裏腹に、可憐は大きな溜息を吐いていた。
「ユーリさん、私の事なんだと思ってる?」
「俺の大事な相方。奥さん」
「OK。そこが前提ね」
刹那、可憐は立ち上がり、俺の隣に腰掛けた。
そして俺の手を取る。
「ユーリさん。貴方が禁呪に手を染めて、その結果本来であれば手に入れることのなかった力を手に入れて、大切なものを失ったことを知ってる。最初に言ったよね、"ユーリさんにされたこと、全部知ってるよ"って」
「……ああ」
「そこには、ユーリさんから教えられたことや、言われたことも含まれてる。それにある程度の魔法の知識もある。なら、そこからユーリさんが特別な存在だって考えられるのは簡単だよね」
可憐の言葉に圧倒される。
俺の心配は無駄なものだよ、と。
「それに数年前に、その禁呪を解呪している。私その頃から覚悟してることがあるの」
「それは?」
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr