D.C.IIIwith4.W.D.
After da capo[III]:Noblesse oblige 決別
年の瀬も近くなった頃。
文化祭も無事に終わり、あと2週間ほどで今年最後の定期テストがある。その後は風見学園伝統のクリパが開催される予定だ。
例年通り、と言えば聞こえがいいのだろうが、生憎教師である俺は学生の監督義務があるということで、若干残業が増えることに憂鬱だった。
まあ、俺も学生時代に楽しむ側を経験したんだ。今度はその学生を守る側になるんだ、なんて考えれば多少はマシになるというもの。さて、そろそろテスト作らないとなぁ。
なんて考えながら朝のHRを行う為にクラスへ向かう。
奇妙な縁だが、俺は清隆たちのクラスを受け持っている。縁の魔法使いが言うのもなんだが、不思議なこともあるものだ。本当に偶々……。
おっと、そろそろか。
俺はクラスの扉を開け、いつものように――
「有理先生、お誕生日おめでとう!!!!」
――朝の挨拶を、なんて考えていたはずが、頭が真っ白になった。
なんだなんだ?クラッカーまで持ち出して。びっくりするじゃねぇか……。
……ん?
「あれ、先生固まってる?」
「おい清隆、有理先生の誕生日って本当に明日なのか?」
「ああ、間違いないよ」
「そのはずですが……」
……あっ。
「そうか。明日、俺の誕生日か」
毎日が忙しすぎて忘れていた。
どうりで最近可憐の機嫌がいいわけだ。
「わ、忘れてたんですか?」
「生憎嫁以外から祝われることが少なくなってな」
「悲しいこと言わないでください」
「悪かった」
こいつらとは付属含めて3年の付き合いになるが、まさかこんな形で祝われることになろうとは。
しかも学生から祝われるのはこれが初めてだ。そもそも担任持つのも初めてだしな。
「ありがとう、みんな。主犯は清隆、姫乃、さらだな?」
「流石にバレましたか」
「そりゃ俺の誕生日知ってる奴なんてお前らくらいだろう」
「でも先輩、葛木さんから言われるまで忘れてましたよね?」
「そういうことは言わなくてよろしい」
どっ、と笑い声が響く。
まあ、今日くらいは許してやろう。
「そういえば先生、いくつになったんですか?」
「あー、えーっと」
現役合格で入ったって設定だから……。
「25だ」
「なんで今、一瞬間が……?」
「歳を聞かれることが少なくてな」
事実を言っても面倒なだけなのでごまかしておく。
っておい、清隆達、笑いをこらえてるのが見え見えだぞ。
「ま、俺の誕生日を祝ってくれた、ってことでその校則違反の持ち物は不問にしておく。ただし、後で片づけておくように」
これくらいの温情は怒られまい。後で隣のクラスの先生方には謝っておこう。
「さて、そろそろホームルームを始めようか」
特にこれといった連絡事項は無い為、そろそろテストが近いことをアナウンス。こればっかりは緊張感を持って取り組んでもらわないとな。
さて、今日1日も頑張っていこう。
「改めまして、ユーリ先生。お誕生日おめでとうございます」
放課後。
俺は公式新聞部に顔を出していた。
「ああ、有難う」
「あれ、有理先生今日が誕生日なんですか?」
1年生の辺見が聞く。
「正確には明日だよ。ま、明日は土曜日だしな」
「なるほど、そういうことですか」
「皆さんは知ってたんですか?」
「私は去年、先輩たちから聞いたよ」
黒浦も興味津々で話に混ざる。それに答える茂手木。
夏から新体制に移行しているが、しっかり新顔たちも溶け込めるようになってよかった。
「まあ、俺達はユーリ先生と昔から付き合いがあったしね」
「そりゃ知らないはずない、って感じですよ」
話を引き継ぐ清隆と葵。それに頷く姫乃とさら。
まあ、その昔って言うのが100年前から、というのは新顔3人には伝わらないだろうけど。
「もうちょっと早く教えてくれればよかったのに」
「俺が断ってるんだよ。教師が学生にたかるなんて、格好悪いだろう」
「意地張らずに素直に受け取ればいいんですよ」
「気持ちだけで十分だ」
「とか言いながら、私達の時は絶対に何か用意してきますよね」
「それは大人の礼儀ってやつだ」
さらの突っ込みを華麗にスルー。
言いたいことは分かるけどな。
「なんか、ズルいところを見た気がしますね」
「そんなこと言ってる場合か。期末テストが近いうえに、終わったらすぐクリパだろ?」
「そうでした!」
危うく俺の話題で時間が持っていかれそうだったので軌道修正。今日集まった本来の目的へ話を誘導する。
姫乃が手を叩き、皆の注目を集める。
「もうすぐクリパ特別号の時期です。時間は1ヵ月もありません」
「新体制に移行して、何度か発行していますので慣れたかとは思いますが、如何せん時間は有限です」
「はい。日頃から少しずつネタ集めはしていただいていると思いますが、これから暫くは本腰入れてやっていく必要があります」
立夏とシャルルが抜けて、姫乃を中心とした体制に移行している。流石に場数を踏んで、今ではしっかり編集長としての役目を果たせるようになっている。対外業務は基本清隆の仕事だが、別に本業をおろそかにしているわけではないから、安心してみていられる。
「――というわけで、班を2つに分けてクリパの取材を行い、特別号のメイン記事とする。ということで行きましょう」
例年通りと言えば聞こえはいいかもしれないが、まだまだ手探りだ。
ここは暖かく見守っていこうじゃないか。
というわけで、挙手。
「なんでしょうか、ユーリ先生」
「俺から一言だけ。テストが終わればすぐにクリパの準備になる。テストを疎かにしろ、とは教師としては言えない。勿論この新聞も、クリパもな。けど、くれぐれも無理だけはしないように。記事を面白くしたい、皆に楽しんで読んで欲しい、そういう気概は大事だけど、全部を頑張りすぎて倒れてしまったら元も子もないからな」
「おー。流石、年長者の言うことは説得力があります」
「葵、お前おちょくってるのか?」
「そんなことないですよー」
まったく。いじれる相手がいなくなったかと思えば、俺にシフトしてくるとは。
気心知れてるから、程々にしてくれれば何も言う気はないけど。
「葵ちゃん、流石に失礼が過ぎますよ」
「アッハイ、すみません」
「まったく。森園先輩が引退してからの相手はユーリ先生ですか……」
それにちゃんとブレーキ役もいるし。
「ともかく。ユーリ先生の言う通りだ。やるべきところはしっかりやる、手を抜けるところは手を抜く。そんな感じで頑張ろう」
俺の言いたかったことをちゃんと汲み取ってくれた清隆がまとめる。
まあ、元々立夏を中心にして集まった新聞部だ。俺がいなくとも何とかなるだろう。
◆ ◆ ◆
正真正銘、俺の誕生日のこの日。
寝ぼけながら身支度をしている時だった。
「おはよう、ユーリさん。お誕生日おめでとう」
「ああ、有難う」
歯を磨いていたら、後ろから聞こえる愛しき人の声。
「今年何歳になったんだっけ」
「えーっと、358歳」
「相変わらず鯖読みすぎだねぇ」
「仕方ないだろ。これくらいの嘘は許せ」
「ケーキにロウソク立つかな……」
「そもそも立てる場所がないだろ」
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr