D.C.IIIwith4.W.D.
朝の時点で今日は終わりのHRはしないと言っていたので、まっすぐ部室へ向かえる。
俺達は帰り支度をして部室へ向かった。
その途中で葵ちゃんと合流。
部室のカギを開け、中にまだ誰もいないことを確認。
ただ、誰か入ってこないかを確認しておかないといけない。今から話すことは、恐らくデリケートなことになるだろうから。
中に入り、俺達は定位置に座った。
「それで、今日のユーリ先生の事ですが」
「え、ユーリ先生に何かあったんですか?」
「うん。今日一日ずっと様子がおかしかったんだよね。こう、覇気がない、というか」
「ですね。私も見ていて思いました」
俺とさらの言葉に姫乃が頷いた。
「ほうほう。それで、何があったかを考えたい、ということですか」
「そうなりますね」
「何かあった、となるといの一番に思いつくのは可憐さんとのことですが」
「それは多分ないと思うよ。左手のシルバーリングはそのままだったし」
流石さら、よく見ている。
俺はそれは気付いてなかった。
というか、ずっと付けてるからあるものとばかり思ってたな。
「うーん、ということは魔法絡み、でしょうか」
「ああ、なるほど」
その可能性は十分にあり得る。
基本的に大抵の事では動じないユーリさんが、ああも覇気がないとなると、考えられる理由は可憐さんか魔法絡みということになる。
「だから頻りに入口を見ていたわけですね、清隆さんは」
「そういうこと」
「ですが仮に魔法絡みの事だったとして、それのどこに原因があるのでしょうか」
確かに、よく考えてみれば俺達には魔法に関する知識は少ない。おそらく枯れない桜の影響で魔法に興味を持とうとしなかったりしたのが原因だろう。
それにユーリさんと関わった記憶が、立夏さんやるる姉ほどあるわけじゃない。
「うーん、難しいところだな」
「ですね、何とかしてあげたいところですが、原因が分からないことには……」
「すみません、私が言い出しっぺなのに」
「いや、姫乃が言わなかったら俺が言ってたと思う」
「そうですよ、葛木先輩。私も同じです」
肩を落とす姫乃を俺達は励ます。
実際、俺は俺で行動を起こしてたと思う。それが結果に結びつくかはともかく。
「うーん……」
全員で唸ること、数分。
「……何やってんだ、お前ら」
「えっ」
「わっ」
「きゃっ」
「ユーリさん?」
いつの間にかユーリさんが部屋に来ていたらしい。
気付かなかった。危ない危ない。
「先生と呼べ」
「あ、すみません」
気が抜けてしまっていた。
気を付けないと。
「まあいい。まりも達は?」
「茂手木さんは、日直で頼まれ事があるそうです。辺見さんと黒浦さんは付属1年生へのクリパの説明会があるとか」
「なるほど、了解」
ユーリさんも窓際の定位置へ座る。
そして、静寂。
正直、めっちゃ重い。
「ど、どうしましょう」
「普通に始められる雰囲気でもありませんし……」
「ここはストレートに聞いてみるのもありじゃないでしょうか」
「誰が聞くんだよ」
「勿論清隆さんが」
「いや俺かよ」
「私達には流石にそんな勇気ありませんよ」
「俺にもないよ!?」
「兄さん、お願いします」
こいつら……。
思わず大きなため息が出てしまった。
◆ ◆ ◆
「……何やってんだ、こいつら」
新聞部の会議を先に始めるわけでもなく、俺に聞こえないように内緒話。
前々から愉快な奴らだとは思っていたが、こうまでとなると少し心配になってくる。
あ、じゃんけんしだした。
何をしているんだ、本当に。
「ゆ、ユーリ先生」
そんなことを考えていると、清隆が立ち上がり、俺の目の前に来ていた。
「なんだ?」
「実は、今朝からユーリ先生の様子がおかしいと思っていたのですが、何かあったのでしょうか」
沈黙。
他3人は、何やってんだこいつ、みたいな表情で清隆を見ていた。
多分、俺もあちら側ならそんな顔をしていただろう。
だが今は俺も当事者だ。なんせ清隆から声を掛けられたのは俺なんだから。
……というか。
「何が言いたい?」
「い、いえ、なんか今朝から覇気がないなと思っていまして。先週の金曜日はそんなの微塵もなかったので……」
ああ、なるほど。俺を心配してくれていたというわけか。
――って、それより。
「俺、そんなにあからさまな感じだったか?」
「多分、俺達新聞部の面子しかわかんないくらいだと思います。実際、俺達以外はそんなに気にしてないようでしたし」
「そうか」
少し安心。
昔からの知り合いである、こいつらにわかるくらいなら、まだマシか。いや、大人としてその対応は間違っているな、うん。
「すまん、心配かけたな」
「いえ。それで、何かあったんですか?」
どうやら、真相を聞くまでは俺を逃がすつもりはないらしい。
気にかけてくれるのはありがたいんだけど……。
いや、待て。どうせなら意見を聞いてみようか。
そう思って俺は聞いてみた。
「なあ、もし今まで出来ていたことが突然出来なくなったらどうする?」
直接ではなく、あくまで抽象的に。
俺の事実を明かすことなく聞いてみる。
葵はともかく、他3人は立夏ほど魔法や俺のことに詳しくはないはずだから。
「ちょっと抽象的すぎてわかんないです」
「ああ、すまん。そうだな……。例えば、得意だったことが出来なくなったり、好きだったことを禁止されてしまったり。そういう状況になった時、お前達ならどうする?」
「うーん、ちょっと難しいですね」
全員考え込む。
やっぱり、まだ学生には難しかったか。
「私は、どうにかして別の方法を探すと思います」
そう言うのは姫乃だ。
「私も。まったく同じことは出来なくても、似たようなことを出来るようになるように、そういう方法を探します。かつてのユーリ先生の様に」
言葉を引き継いだのはさらだ。
なるほど、一理ある。俺が魔術を成立させたのも、失った魔法をどうにかして使えるようにするためにもがいた結果だ。
「俺もまったく同じです。ただ、どうしても無理だと分かれば、そこで諦めてしまうかもしれません。それでも、そうだと分かるまでは頑張りたいです」
清隆はそう言って真剣な眼差しでこちらを見る。
不可能だと決めつけるのは早い、そう言いたいのだろう。
「なるほど。皆さんそういう風に考えるわけですか」
「そういう葵はどうする?」
「あはは。わかんないです。出来ることなら頑張りますが、出来ないこともありますから」
それもそうか。
「ありがとう、参考になった」
「お役に立てたなら光栄です」
「というか先生、やっぱりなんかあったんですか?」
「確かに。その話には答えてもらってませんね」
「どうなんですか、ユーリ先生。まさか可憐さんと破局……」
「馬鹿野郎、そんなわけあるか。色々あったんだよ」
「色々とは?」
「色々は色々だ」
はぐらかして答えるが、4人の追及は止まず。
まりもたちが来るまで、この追及は続くのだった。
◆ ◆ ◆
次の土曜日。
俺は花より団子に来ていた。
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr