D.C.IIIwith4.W.D.
「あんまり根詰めて勉強し過ぎてもよくないですからねぇ」
「流石新聞部の優等生二人組」
「明日からテストだし、あんまりぶらぶらできないけどね」
「ま、そうだな」
そう言いながら周囲を見渡す。立夏達の他に誰かいるわけではなさそうだ。
「お前達だけか?」
「ええ、そうよ」
「私達は受験もあるわけですし、タカくん達とは勉強の仕方に差が出るわけですから、暫くは分かれて勉強しようと思いまして」
「なるほど」
立夏は進学も就職もしないと聞いているが、一応ポーズだけは、と言ったところか。
「それでユーリは?今日は可憐さんと一緒じゃないの?」
「確かに。二人じゃないの、珍しいですね」
「今日は可憐が仕事で本土の方に行っててな。俺一人だ」
「なるほど。年の瀬に休日出勤、というわけね」
「本人はやりたいことやってるわけだがな」
「じゃあ、ユーリさんは暇なんですね」
「言葉を選べよ……。事実だけどさ」
「それじゃあ、ちょっと付き合ってくれない?」
「いいね、それ」
「むしろ邪魔じゃないのか?」
「いいのよ。聞きたいこともあるし」
「聞きたいこと?」
「それは腰を落ち着けて話しましょ」
そう言うと立夏とシャルルは並んで歩いていく。
「おいおい、待てよ」
俺は慌ててその後を追う。
着いた先は喫茶店だった。席に着き、二人に対面して座る。
「ユーリはダージリンでいいわよね?」
「ああ、頼む」
「私はカフェオレかなぁ」
「じゃあ私はミルクティーにしましょ」
代表して立夏が注文。
待つ間に、立夏がさっそく口を開いた。
「清隆達から聞いたわよ。最近落ち込み気味だって」
「私も聞きました。何かあったんですか?」
開口一番それかよ。あいつら……。
「一応言っとくけど、あの子たちを責めないでね。私達が勝手に聞いたんだから」
「ああ、そう……」
「で、どうかしたんですか?」
……どうしたもんか。
先日の清隆達のようにうまくはぐらかすのは難しそうだ。
なんせループの前から俺のことをよく知っている二人だ。生半可な言葉じゃ逆効果だろう。
……だったら。
「昨日葵には話したんだが、何か聞いたか?」
「あら、清隆達には話さないのに、葵には白状したのね」
「葵ちゃんに話したってことは、やっぱりあの事かしら」
なるほど、葵は立夏達にはこのことを教えていないのか。ただ上手く言葉を選んでいるってことは、どうやら気付いたらしい。なら、やることは一つだ。
「ここから先は、軽い人払いの魔法を掛ける。その後で全部話すよ」
ウェイターが注文したものを持ってきたのを確認し、俺は昨日と同じく魔法を掛ける。
そして、先日判明した事実を全て、目の前の二人に告げた。
話すのにそう長い時間は必要なかった。
「なるほど、それで悩んでいたのね」
「魔法が使えなくなる、ですか……」
何か引っかかるものがあるのか、考える素振りを見せる二人。
最初に口を開いたのはシャルルだった。
「ユーリさん。私も過去、プレゼントの魔法を使えなかったのを知っていますよね?」
「ああ。弟を喪った事がトラウマになってたんだよな」
「はい。それでも他の魔法はある程度使えましたし、それがあって風見鶏に通っていました」
「そうだったな」
「確かに魔法を使えない、というのはしんどいと思います。実際私もそうでしたから。なんとかしたい、そう思うのは自然だと思います」
「……そうだな」
「ですが、ユーリさんの魔術――魔力は、禁呪に由来するものなんですよね。それって、本当に必要なものなんでしょうか」
真剣な表情で見つめてくるシャルル。
こういう表情を見るのは初めてだ。
「そもそもが禁じられた魔法によるもの。だったらそれは、手放した方がよりユーリさんの為になるのではないでしょうか」
確かにその通りだ。
禁じられているということは、それだけ危険なものということ。それにすがろうというのは、おかしい話だ。
「……言いたかったこと、ほとんどシャルルに言われちゃったわね」
「ごめんね、立夏。思ったことストレートに言っちゃった」
「いいわよ、別に。私は私で聞きたいことあるしね」
「なんだよ」
「昔貴方は、禁呪を使うという罪を犯した、だからその罪を償う為に魔法使いの行く末を見守っていく、そんなことを言ったわよね」
「確かに、そんなニュアンスの事を言ったな」
「もう貴方は十分、その罪を償ったんじゃない?私が、リッカが死んでからもずっと生きてきたのでしょう?」
「ああ」
「それに魔法使いの行く末を見守るって言うの、本当に貴方じゃないといけないの?」
「それは、俺がずっと生きているからこそであって……」
「それじゃあ、最近風見鶏としっかり関わったのはいつ?先週魔導書の写本を取り寄せる為に連絡を取ったって言っても、その前は貴方が禁呪を解呪して、その体を検査してもらう為に訪れたのが最後じゃないの?」
立夏の視線が俺を捕らえる。
丸で俺の心を見透かそうとするかのように。
「ああ、そうだ」
「じゃあ、その前は?」
「その前は……」
必死に記憶を遡る。
風見鶏に関わった記憶。あれから何度か魔導書の解読依頼を受けて風見鶏を訪れることもあったが、ここ十年ほどは仲介人を介して風見鶏や非公式新聞部と連絡を取るような関係だった。そのせいか、この島以外の魔法使いと関わることは少なくなっていた。
……あれ。もしかして、俺じゃなくてもいいのか?
「その反応からすると、ほとんど関わりはなさそうね」
「……ああ、悔しいことにその通りだ」
「ということは、魔法使いの行く末を見守ることっていう役目は、貴方じゃなくてもいいんじゃないかしら」
一瞬俺の考えによぎったことを、改めて立夏は口に出して告げた。
確かにその通りなのかもしれない。
「それに、貴方が今まで生きてきた意味って何なのよ。……って、聞くまでもないわよね」
勿論そんなの、カレンに再会する為だ。だがそれは、とうの昔に叶っている
ということは。
「今の貴方と私、シャルルの話を総合するけど、貴方は普通の魔法使いに戻ろうとしている。でもそれは、何も悪いことばかりじゃない。違うかしら?」
改めて考えを巡らせる。
魔法使いの行く末を見守るという役目は、既に俺の手を離れている。
俺がこれまで生きてきた意味も、可憐と再会したことでほとんど意味を喪っている。
ならば、答えは一つ。
「そうだな。もう俺には、この力は必要なさそうだ」
「うん、貴方ならそう言うと思ったわ」
「だね」
悔しいことに、立夏達と話して全部理解してしまった。
しかし晴れやかな気分だ。引っかかっていたものが全て取れた気分。
……そうか、あのしこりはこれだったのか。
「ありがとう、二人共。俺のやるべきことが決まったよ」
「そう、良かった」
「お役に立てたなら何よりです」
素っ気無い返事を取る立夏と、笑顔のシャルル。
恐らく、清隆から話を聞いて心配してくれていたのだろう。あいつにも感謝だな。
「それじゃ、今日のところはお開きにしましょ」
「うん、いい気分転換になったしね」
「ちょっと待て、お前ら気分転換のダシに俺を使ったのか?」
「あら、そんなつもりはなかったわよ」
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr