D.C.IIIwith4.W.D.
「たまたまですよ、たまたま」
ホントかよ……。
まあ、追及してもはぐらかされるか、本当にたまたまかのどちらかだろう。
なら、ここは素直に受け入れておこう。助かったのは事実だしな。
「まあ、なんでもいいや。今日のところは奢っとくよ」
「貴方、いつも奢ってばっかじゃないのよ」
「こういうのは年長者の顔を立てて、奢られとけ。あと、お前らへの相談料ってことで」
「そう言うことなら」
そうして会計を済ませ、揃って店を出る。そこで二人とは別れた。
まさかこの期に及んで、立夏達に助けられようとは、夢にも思わなかったな。
まあ方向性が決まったのは事実だ。
さて、次はあいつに連絡を取らないとな。
「……あ、もしもし、ユーリだ。ちょっといいか?」
俺はある人に連絡を取り、アポイントを取る。そして予定をすり合わせ、次の休日に会う約束をした。
◆ ◆ ◆
定期テストを終え、冬まっしぐら。
既に学園内はクリパ一色に染まっていた。
しかし教師達にとっては溜まっていた授業外の業務を一気に進められる期間である為、非常にありがたかった。
ただ、あまり仕事を溜め込むタイプではない人間にとっては時間を持て余すような期間であることもまた事実。
俺はそのタイプだった。
まあ、だからと言って仕事がないわけではない。学生達が安全に楽しめるように尽力しようじゃないか。ま、それとは別に俺にはやることがあるんだけど。
とりあえず教室へ向かおう。恐らく恋パに向けた会議をやっているはずだ。
周囲を見渡しながら、自分のクラスへ向かう。
既に内容を決めて委員会に申請したクラスはすでに作業に取り掛かっているし、決めかねているクラスは顔を突き合わせて唸っている。
さて、うちのクラスはどうかなっと。
辿り着いた教室の扉を開く。
「だから、スク水メイド喫茶を所望します!!!」
思わず開いた扉を閉じてしまった。
えっ、ここ俺のクラスだよな……?
クラスサインを見る。
……うん、俺の受け持っているクラスだ。大丈夫大丈夫、今のは空耳だ、空耳。
再び扉を開き、中へ入る。
「なんでダメなんだよ!皆の夢だろ、スク水メイド!」
再び開いた扉を閉じかけてしまった。
いや、流石に2回も聞けば事実と受け入れざるを得ない。
俺は観念して中へ入った。案の定クラスの女子達から大ブーイングの嵐が巻き起こっていた。
「耕助、もうちょっと考えて物言えよ……」
大きな溜息を吐く。
見るに堪えかねず、俺は苦言を呈してしまった。あんまり学生のやることに口を挟みたくはないんだけどなぁ。
「そんなぁ~。先生ダメなんですかぁ~?」
「猫撫で声なんか出すな。流石に俺が許可できん」
学園の風紀的にも。
「わかりました……」
流石に教師の俺の言葉が効いたか、渋々といった感じで席に着く耕助。
それとは裏腹に、クラスの女子達はほっと胸を撫で下ろしていた。
教壇に立ち、取りまとめを行うすももからバトンタッチしてもらい、俺は教卓の前に立った。
「改めておはよう。今日からクリパの準備期間に入るわけだが、あまり羽目を外しすぎないようにな。さっきの耕助みたいに」
「俺名指しですか!?」
「当たり前だろ。なんで野郎のスク水なんて見たいんだよ」
「勿論女子にしか着てもらいませんよ!」
「それがダメなんだよ。なんで女子にばっか負担を強いるんだ。もうちょっと人の立場に立って考えろ」
「……ハイ」
「まあ、皆で楽しむことが前提だからな。どっちかに偏らないように、内容を決めること。俺から言うことはそれだけだ。じゃあすもも、後は任せた」
「わかりました」
再びすももとバトンタッチ。
すももは改めて教壇に立ち、司会進行を進めていく。
「では、改めて出し物決めをしていきましょうか。有理先生はどうされますか?」
「俺は様子を見るだけ見て、マズそうなところだけちょっかい出すよ」
「お願いします」
複雑な表情が見える。
恐らく先程まで耕助のアホみたいな案に振り回されていたのだろう。
すまんが、もう少しだけ頑張ってくれ。
俺はクラスから少し離れた場所に位置取り、全体を眺める。流石に耕助ほどふざけた案は出ないにしろ、奇抜なアイデアは出てくる。
任せておけば大丈夫か。
と、思ったのも束の間。
1時間後には、「ドキッ!美少女だらけのメイド喫茶~みんな揃ってお出迎えします!~」といった案に纏まっていた。
タイトル通り、メイド喫茶をやると言ったものだ。但し「みんな揃って」の文字通り、男女関係なくメイドコスを着て給仕するというものだ。
まあ、皆が楽しめればそれでいいか。
早めに決まったことを安堵しつつ、心の中で思う。
男もいるのに「美少女だらけ」はないだろ、と。
◆ ◆ ◆
次の休日。
俺は可憐と一緒に花より団子で人を待っていた。
約束の時間より少し前、そいつは現れた。
「やっほーユーリ、可憐も久し振り!」
「お久し振りです!」
「元気してたか、さくら」
「勿論!」
芳野さくら。
リッカ達の孫で、一時期風見学園の理事長をしていた。今は枯れない桜の研究を主に行っているという。
俺のやりたいことを相談するにはうってつけの人だった。
「とりあえず、何か頼んじゃってもいいかな?」
「どうぞどうぞ。ユーリさんの奢りですし」
「おまっ。勝手に……」
「そんなに財布に余裕ないの?」
「そんなわけないだろ」
「じゃあ大丈夫だね」
こいつ……。
まあ、元々このつもりだったからいいけど。
「それでユーリ、相談したいことって何?」
食べたいものを注文したさくらは、開口一番俺に尋ねた。
「ああ。実は俺の体のことをどうにかしたくてな」
そう告げて人払いの魔法を掛け、事の経緯を説明する。
流石に説明するのは3回目だ。慣れたくはないが、慣れてしまった。
「なるほど、それでユーリの体の魔力をどうにかしたいわけだね」
立夏とシャルルとの会話の内容まで話し、さくらには全て伝わったようだった。
「ああ。そこで枯れない桜を利用できないかと思ってな」
「枯れない桜って、何に使うの?」
「枯れない桜は元々願いを叶える力を持つマジックアイテムみたいなものなんだ。その機能を利用して、ユーリの魔力を体の外に逃がしたい。そう言うことだね?」
「そう言うこと」
「なるほど」
大きく頷く。
流石、桜の研究をしているだけあって話が早い。
「うーん、機構的には問題ないと思う。魔力を外に逃がす為の魔力はユーリが持ってるものを利用すればいいわけだし、それを願いとして桜にインプットとアウトプットしてやる。問題があるとすれば、あれかなぁ」
「あー、あれか……」
俺とさくらは揃ってため息を吐く。
「ちょっと、何?何か問題でもあるの?」
「問題というか……なぁ」
「そこはボクが説明するよ」
そう言ってさくらは、枯れない桜の現状について説明を始めた。
無論、その中には桜内音姫の事も含まれていた。
「つまり、その音姫さんの魂が枯れない桜に宿っているかもしれないってことだね。それの何が問題なの?」
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr