D.C.IIIwith4.W.D.
「ユーリが魔法を使って魔力を逃がす時に、桜に宿っているかもしれない音姫ちゃんの魂に傷つけてしまう可能性があるかもしれないってことだよ。そうなってしまったら、ボク達は音姫ちゃんを救えなくなってしまうかもしれない」
「そうならない為にも、今魔術式を丁寧に構築していっている。完成したら、一旦見て欲しい」
「分かったよ」
そうと決まれば、話は早い。
今やっている魔法陣の構築を早めにやってしまわないと。
「けどユーリ、よく決心したね、魔法を捨てるなんて」
「完全に捨てるわけじゃない。要らなくなったものだけを手放すんだ」
「けど、今までそれに頼ってきたんだよね」
「まあ、な。けど、これよりも大事なものに気付いた。それだけだよ」
そう言って可憐を見る。
視線に気付いたのか可憐は目を逸らした。
可愛いじゃねぇか、この野郎。
「愛されてるねぇ。ラブラブだねぇ」
「やめてくださいよ、恥ずかしいじゃないですかぁ」
「ユーリ、こんな娘独り占めしてるの?可愛いじゃん」
「だろ?俺の自慢の嫁だ」
「二人してもう!」
瞬間、俺達の笑い声が響く。
この瞬間がずっと続けばいい。
その為には、俺の体をどうにかしないといけない。
なら、どうにかする為にやるだけやってみようじゃないか。
「さて、ユーリ。いい報告期待して待ってるよ」
「その前に、魔術式を構築するところからだけど」
「そうだね。そっちの方はまた連絡頂戴ね」
「わかってる」
「それとユーリ、ボクからもお願いがあるんだ」
「なんだ?」
「来年、ボクの孫が風見学園に入学する予定なんだ。もし見かけたら気にかけてあげて欲しい」
「わかった」
それくらいならお安い御用だ。
「それじゃあね」
「またな」
「またです」
俺達は別れ、帰路に着いた。
帰り着いてすぐ、魔術式の構築を練る。
これが成功すれば、俺は長く縛られ続けたものから抜け出せる。
そう信じて魔法陣の構築を続けた。
◆ ◆ ◆
クリパの準備は滞りなく進む。それと並行して部活での出し物も準備を進めていく必要がある。公式新聞部も例外ではない。
「ほー、清隆さんもメイドコスするんですかぁ。これはなかなか見ものですねぇ」
「やめてくれ」
「兄さんは最後まで反対してましたしね」
「そもそもクラスの大半が悪ノリで票を入れたようなものでしたし……」
……はずなのだが、今はクリパの出し物の話題で持ちきりだった。
まだ出し物を決めかねているらしい下級生組が来ておらず、会議を始めるに始められないだけなのだが。
「それで結果的にクラス全員でメイド喫茶をやることになったと。ユーリ先生はどうなんですか?」
「……教師の俺が輪に入ると思うか?」
「ユーリ先生、意外とやってくれそうな気がしますけど」
「葵、確かに10年前ならやってたと思う。けど流石に無理だよ」
「10年前なら出来たんですね……」
「その頃はここに学生として通っていたからな」
「先生の時は何してたんですか?」
「特に変なことはしてないよ。ただの喫茶店だ」
「普通ですねぇ」
「杉並みたいに突拍子もないことする奴がいなければ、アホなこと言いだす奴も少なかったからな」
「アホなこと言う奴はいたんですね」
「どの学年にも大抵いるよ」
「そういう陽ノ下さんはどうなんですか?」
「それが、まだ決まってなくて。議論も進まないので、今日は一旦持ち帰って明日話そうってことになったんですよ」
「どこのクラスもすんなり決まるわけじゃないさ。明後日の期限までに決まって、本番にしっかり完成させればいい」
「ですね」
そんな風に話していると、まりもたち下級生組が到着。
途端に全員目つきが真剣なものに変わり、次回の公式新聞についての打ち合わせが始まる。
基本的に毎号の連載企画とは別に、特別企画としてクリパの各クラス・部活の出し物を取材して回りそれを後日記事にすると言った流れになる。それらとは別に、号外としてクリパのパンフレットのようなものを作成し、当日に配ることになるという。これは比較的余裕のある清隆・姫乃・さらが担当することになりそうだ。早くに出し物が決まり、準備も滞りなく進んでいるからこそではあるが。その分事前の取材内容が大事になってくるので、ここは葵達の腕の見せ所になるか。
そして取材の予定。
事前の取材は各個人の空いている時間と、各クラスの準備の状況を鑑みて行う。当日は余裕のあるものは開始直前の状況を、開始後は各々の時間を縫って行うこととなるようだ。
「――と、こんなところで問題ないでしょうか」
編集長の姫乃が今出た内容を取りまとめる。
部員達からは異議なしの声。
「それでは、今日はこれで解散にしましょう。各自クリパの取材や記事の執筆、連載企画の執筆をお願いします」
「だからと言って、クリパの事をおろそかにしていいわけじゃないからな」
「どちらも適度に頑張ってください」
トップ3人が締めくくり、今日の会議の終わりを告げた。
「それでは、私達はお先に失礼しますね」
「お疲れ様でしたー」
葵含めた後輩組が部室を後にする。
残されたのは俺と本校2年生組だけだった。
「……なあ、本当に俺も女装しないといけないのか?」
「まだ引っ張るんですか……」
「観念してください先輩。もうなるようになれです」
「それだったら俺は裏方でいいよ」
「駄目です。立夏さんとシャルルさんから絶対に表に出すように言われてますから」
「何それ、初耳」
「昨日私のところにも来ました。是非とも先輩のメイド姿を見たいそうです」
「観念するんだな、清隆」
「そういうユーリ先生は完全に高みの見物じゃないですか」
「そりゃ俺は当事者ではないからな」
「狡い……」
清隆以外の笑い声が木霊する。
まあ、清隆にとっては地獄だろうけど。
「そう言えばユーリ先生」
「なんだ?」
「先週悩んでたことはもういいんですか?」
「あーあれか。もう大丈夫だ、何とかなりそう」
「そうなんですか?」
「ああ。色んな人に相談したら、解決できそうなところまで来た。お前らの意見も参考になったよ、有難う」
「そうですか、良かったです」
「そう言えば、立夏さん達にちょっとお話してしまいました。すみません」
「気にしてない。むしろ話してくれたおかげで突破口が見えた。結果オーライだ」
「結局何だったんですか、悩み事って」
「……まあ解決しそうなことだし、お前らなら話しても大丈夫か」
先日あんなに渋っていた話だが、俺は清隆達に真相を告げる。どうやって解決するかだけを除いて。
「なるほど、それであんなことを聞いたわけですか」
「やっと腑に落ちましたね」
「もしかして、それで悩ませてしまったか?」
「そういうわけではないんですが、少し引っ掛かってたので」
「すまん、妙にはぐらかした聞き方したせいだな」
「ですがあの聞き方も仕方ないかと。私達は魔法の事に関してはちんぷんかんぷんですから」
「そうだな。それに立夏さんみたいな背中の押し方を出来たかと言うと、そうでもないと思いますし」
「そんなわけで、何とかやってみるよ。ありがとうな」
俺はそれだけ言い残すと部室を後にし、職員室へ向かう。
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr