D.C.IIIwith4.W.D.
「俺がやるのかよ!」
雪村からの唐突なフリに思わず突っ込み。
「当然でしょ。貴方が一番張り切ってるもの」
「いや、これはどう見ても姫乃とさらだろ」
「つべこべ言わずにやんなさいよ、芳野清隆!」
「どう考えてもこのメイドさんの中で気合入ったコスプレしてんの清隆だろうが!」
クラスの全員から俺へのコールがかかる。
仕方ない、腹くくるか。
大きなため息を吐き、俺は周囲を見渡す。
「えーっと、まずはこれまでの準備期間、お疲れ様!いよいよ今日明日が本番だ。ここまで来たらもう当たって砕けるだけ!やれるだけやってやろう!というわけで、来てくれたお客さん――間違えた、ご主人様・お嬢様に最高のおもてなしをしよう!やるぞ、おー!」
おー!!と、全員の声が教室に響く。
祭の前とあって、皆いい感じに興奮しているらしい。皆いい顔してる。
多分、良い感じのクリパになりそうだ。
「やっほー、来たわよ清隆!」
「タカくん、ホントにメイドさんしてる!」
お昼時のピークを越えた頃。
最大の障壁が俺の前に現れた。
「お、おかえりなさいませ、お嬢様方」
「あら、お嬢様だなんて」
「本格的なメイド喫茶してるんだねぇ」
「接客方法とかもしっかり打合せしましたから……」
「うんうん、様になってるじゃない。それにメイクもばっちり!流石姫乃とさらね」
「なんか、気合入っちゃいました」
「でもおかげでこんな綺麗なタカくん見れちゃった!」
「惜しむらくは、これが撮影禁止ってところね」
一応新聞部とかの取材を除いて撮影禁止にしている。本来は女子の撮影を止めてもらう為のものだったが、思わぬところで恩恵を受けている。
本当に良かった。実際、クラスの女子達を撮影しようとする輩もいたわけだし。
「そうだ、注文いいかしら」
「ええ、なんなりと」
立夏さん達を席へ案内し、メニューを手渡す。
「そうねぇ。紅茶とホットサンドを頂こうかしら」
「私も同じのお願いします」
「承知しました。では少々お待ちください」
俺はメニューを預かり、席を離れようとする。
「待った」
不意に立夏さんが俺の腕を掴む。
「このまま清隆を侍らせてもいいかしら?」
「立夏さんちょっと!?」
「えー、立夏だけ狡い!」
「狡くありません!私の恋人なんだから!」
「いやでも流石に……」
そう言って厨房の方を見る。
「別に大丈夫ですよ」
助けを求めようとしたら、姫乃に先制されてしまった。
「えっ」
「ピークは過ぎて、暫くはお客さんもまばらになると思います。それに先輩、そろそろ休憩ですよね」
「はい。皆さん、問題ないですよね」
裏から聞こえる異議なしの声。
まさかこんなことになろうとは。
「あら、これはいいこと聞いちゃった」
「えー。私はもうすぐ帰るのにー」
こればっかりは仕方ない。るる姉は今年受験生なんだから、帰って勉強してください。
「それじゃあ、暫く清隆を独り占めできるわね」
これはもう諦めるしかなさそうだ。
「戻ってきたらしっかり働いてくださいね、先輩」
「クリパの取材も忘れちゃダメですよ?」
「わかってるよ」
その後、立夏さん達が提供した食事を食べ終えた後、ちょうど休憩時間になったということで立夏さんに連れ出されることとなった。
「それじゃタカくん、私は帰るね」
「うん。るる姉は無理しないようにね」
「はーい」
るる姉は受験勉強をする為、一足先に帰っていった。
時を同じくして立夏さんと共に教室の外へ。
「立夏さん、流石に着替えたいんですが」
「駄目よ。メイド服って結構着るの大変なんでしょ?それにこんな機会滅多にないから、このまま行きましょ」
「えー……」
「清隆君、そのまま行ったらうちの宣伝になるから、ぜひそうして頂戴」
「雪村!?」
「メイド姿で森園先輩とデート出来て、お店の宣伝もできる。合理的だわ」
「片方しか俺に得ないんだけど?」
「でも森園先輩専属メイドなんて、いい肩書じゃない?」
「それもそうね」
「なんで立夏さんが頷くんですか」
「それじゃ、よろしく」
そう言い残して雪村は教室へ戻っていった。
……すっごい恥ずかしいんだが。
だってみんな見てくるし。スマホ構えて写真撮ろうとしてるし。
「大丈夫よ、清隆」
「立夏さん……」
「撮影禁止なんでしょ?私が守ってあげるわよ」
この時ほど立夏さんが逞しく思えたことはなかった。
そしてメイド姿のまま立夏さんとクリパデートをすることとなった。
「……結構目を惹きますね」
「そりゃ当然よ。メイド姿の清隆が私を連れて歩いてんるんだもの」
相変わらずの自信だ。
「正直、今日初めて貴方を見た時はびっくりしたわ。だって他の誰より輝いていたんだもの」
「それは姫乃とさらのメイク技術なのでは」
「それもそうね。けど、やっぱり素地がいいのね。本当に綺麗」
「……これ、喜んでいいんでしょうか」
「当たり前じゃない!カッコよくて女装しても映える。最高だわ!」
「男としては複雑ですけどね」
いつの間にか手を繋いで歩く俺達。
傍から見れば、女子生徒とメイドさんが一緒に歩いているように見えるのだろうか。それとも女子生徒と女装男子?
……どっちも嫌だな。願わくば、普通に男女として映ってほしい。
「どうしたの?」
「いえ、何でもないですよ」
「ふーん、変なの」
歩くうちにいつの間にか野外へ。
例年通り野外でも屋台が並んでいる。
今日は快晴、いい天気だ。
「流石に立ち食いとかはNGね」
「ですね。仕事中はさておき、今あんまり汚すのは良くないですね」
「じゃあ飲み物だけ買って、見て回るだけにしましょ」
出ている屋台で飲み物を買って、野外を回る。
程よい歓声が聞こえるが、室外ということであまり気にならない。
「意外と静かですね」
「そうね。やっぱり中での出し物が多いからかしら」
「ですね」
ああ、これで普通に制服を着ていたらまた違ったんだろうなぁ。
――その時だった。
「あれ」
頬にほんのり冷たい感覚。
風が吹いているわけではない、
――まただ。なんだろうか。
周囲を見渡す。
「雪?」
桜の花弁に交じって、白い粉状の物がひらりひらり。
掌の上に載せると解けて水になった。やっぱり雪だ。
周囲がざわめく。
クリパに降る雪。こんなにロマンチックなものはないだろう。
「……いいえ、これはただの雪ではないわ」
「えっ?」
隣を見ると、立夏さんが真剣な顔をしていた。
「これ、魔力の残滓も混じってるわね」
「魔力の残滓?」
どういうことだろうか。
誰かが魔法を使ったとでもいうのか。
心当たりがあるとすればユーリさんだろうか。
そう言えば今日はユーリさんは休みだと聞いている。
「もしかして、ユーリさんが?」
「かもしれないわね……。って、そういうことか」
「なんですか?」
「清隆、ユーリが普通に魔法使いに戻りつつあるのは聞いてるかしら」
「はい」
「恐らくそれを加速させようとしている。枯れない桜の力を使って」
「それが、この魔力の残滓」
「ええ」
ふと、立夏さんの顔を見る。
その表情は柔らかく、温かいものだった。
「ユーリ、やるべきことを出来たのね」
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr