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　立夏さんの言わんとすることはわかる。
　けど、当のユーリさんが今何をしているのか、俺にはわからなかった。



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　さて、そろそろやっていきますかね。
　クリパ当日の昼。
　俺は可憐と共に枯れない桜のある場所にいた。
「心の準備は大丈夫？」
「ああ、問題ない」
　深く深呼吸し、桜の傍に行く。
　先日用意した魔法陣を足元に置き、桜の幹に手を添える。
「可憐、わかってると思うが」
「大丈夫、離れてるよ」
　俺は可憐に向かって微笑む。そして背中と足元の魔法陣に意識を集中し、魔力を流し込んだ。
　刹那、足元の魔法陣と同じ魔法陣が俺の周囲に浮かび上がった。
　そして桜の魔力に俺の魔力をシンクロさせる。
　頼むぞ、枯れない桜。俺の願いを叶えてくれ。
　俺がやろうとしていることは、俺の体に蓄えた魔力を世界へ還元すること。
　世界のマナの総量は、サクラの国とミズの国で差はあれど決まっている。
　そのマナの総量には、俺の体に蓄えている魔力も含まれている。
　ならば俺の魔力は失っていると言っても、世界の魔力の総量が変わらないのならどこかで世界のマナに還元されているはずだ。それなら待っていればいつかは俺の魔力も全て還元されるはずだが、そんなの待っていられない。
　故に俺はそれを加速させる道を選んだ。
　ただその為の魔法を作るのに時間が足りなかった。
　だから俺は朔の日に、枯れない桜の願いを叶える魔法を利用することを思いついた。朔の日はたまたまクリパの日だったのだが、ある意味ちょうどいいかもしれない。
　それに純粋な魔力である俺の魔力は、桜の魔法に載せるのに都合がよかった。
　――よし。
　俺は魔力を全身に巡らせ、桜の幹に置いた両手に集中する。すると俺と桜の感覚が一体になっていった。
　……今だ。
　俺の体の魔力を全て桜に流し込む。
　持っていくわけではなく、あくまで中和するイメージ。
　時間がかかってもいい。
　少しずつ、慎重に。
　――長い時間をかけて俺は持っている全ての魔力を桜に流し込んだ。
　その時だった。
　俺の脳裏に誰かのイメージが流れ込んできた髪の長い女性のイメージ。
　魔力の逆流だろうか。……いや、そうではないらしい。
　俺の中には魔力はほとんど残っていなかった。恐らく残っているのは、俺が本来持っているべき魔力。禁呪を使う前の最大の魔力だろう。
　ということは、このイメージはなんだ。
　俺は今、この枯れない桜とシンクロしている――。
　そこまで考えて、一つの可能性に辿り着く。
　なんだ、あいつの魔法は成功していたのか。
　少々の安心感。だがまだ気を抜けない。
　今度は桜の番だ。枯れない桜に願いを叶えさせる。
　俺は桜に願いを伝えた。後はそれが叶うことを祈るのみ。
　――その願いは、すぐに果たされた。
　目の前に降り注ぐ白い雪。
　俺の願ったことは"今日この日の初音島に雪を降らせる"こと。
　この世界に対して大きな影響を与えずに魔力を使う方法として思いついたのがこれだった。それに使いきれなかった魔力の残滓が初音島に降り注いだとしても、雪に交じって消えていくはずなので、分かる人間にしか気付かれないはずだ。季節を考えてもうってつけの方法だった。最終的には世界の自浄作用によって、全て世界へ還元されるだろう。
　俺は桜から手を放し、足元の羊皮紙を拾ってその場を離れた。
「ユーリさん、大丈夫？」
「ああ。問題ない」
　その言葉に嘘はない。
　大きく魔力を使ったはずなのに、体に何の影響もなかった。
　いい意味で桜の願いを叶える力が働いたのだろう。俺の見立てに間違いはなかった。
「綺麗だね、雪」
「元は俺の魔力だけどな」
「そう言うこと言わないの」
　俺達は笑いあう。
「時期がいいよね、ホワイトクリスマス。もしかして狙ってた？」
「まさか。たまたまだよ」
「ふーん。ま、ロマンチックだからいいか」
　可憐は俺の手を取り、桜とは反対側を指差す。
「それより無事成功したんだから、行こ？」
「行こって、どこへ？」
「勿論風見学園だよ。クリパでしょ？」
　そう言えばそうだった。魔法を使うことに集中していて忘れてた。
「折角のホワイトクリスマスなんだ、こんな時にクリパもいいでしょ？」
「そうだな。うちのクラスはメイド喫茶やってるわけだし、見ものだ」
「可愛いメイドさんなんていたら嫉妬しちゃうなぁ」
「大丈夫、可憐が一番だから」
「上手いこと言っちゃって」
　そんな会話をしながら風見学園へ向かう。
　折角休みを取ったんだ。客として訪れるのも悪くない。
　そうして風見学園に到着。
　辿り着いて最初に出会ったのは、立夏と謎の美少女メイドだった。
　というか、このメイドどっかで見たことある……。
　あっ。
「清隆君じゃん、あのメイドさん」
「そうだな」
「あらユーリ、お仕事休んで奥さんとデートなんていい御身分じゃない？」
　なんか芝居がかった立夏が煽ってくる。
　本当は分かってるくせに。
「ま、そういう日があってもいいだろ」
「そうね。貴方の目的もしっかり果たせたみたいだし、結果的に万々歳じゃないの？」
「そうだな。ところで、隣にいるのは清隆だな」
「……そうです」
　豪く小声で返事する清隆。
　そりゃ、この恰好は恥ずかしいだろうな
「よく似合ってるじゃないか。写真撮ってもいいか？」
「駄目よ。新聞部の取材以外で写真撮るのはNGだってクラスで言ってたわ」
「えー、それは残念」
「代わりに葵が取材の名目で写真撮ってるはずだから、そのデータあげるわ」
「ホント？立夏ちゃん有難う！」
「ちょっと立夏さん！」
　こうして今年のクリパは過ぎていく。
　俺の魔法の副産物ではあるものの、ホワイトクリスマスとなった今日は最高の1日となった。少なくとも、俺達夫婦にとっては。
　他の皆にとってもそうであってほしい。
　そう願うのだった。