D.C.IIIwith4.W.D.
Epilogue:Wizard's Diary 失ったもの、取り戻したもの
年末。
風見学園の年末年始の休校に伴い、俺は家にいた。
その書斎でPCの前でにらめっこ。というより、ビデオ通話をしていた。
「相変わらず貴方は無茶をしますね」
「そう言うな。禁呪の影響を早めに取り除くことは悪いことじゃないだろう?」
「それはそうですけど」
画面に映るのは王立ロンドン魔法学校の学園長だった。
一月ほど前に魔導書の写本を取り寄せる為に連絡を取ったわけだが、今回はその結果の報告の連絡をしていた。
「つまり、貴方は<最後の贈り物>の魔力をすべて手放して、普通の魔法使いに戻ったということですか」
「そう言うことになる。体感では恐らくカテゴリー2程度の魔力しか持っていないだろうな」
「それは追々検査することにしましょう。ある意味無理矢理魔力を手放したに等しいのですから、そこも含めた貴方への影響を検査すべきです」
「分かってるよ。空いてる日を見つけてそっちに行くようにする」
「それには及びません。非公式新聞部の日本支部でその検査は行えますから、また改めて日程は連絡します」
「それならなるべくこっちの仕事に影響がないようにしてくれ」
「わかっています」
事務的な話をするのはここまで。
あとは雑談だ。
「そうだ、俺はもうカテゴリー5と呼べるような魔力を持っていないわけだし、お前に貰った<失った魔術師>の名前をお前に返さないとな」
「そうですね」
「これでやっと堅苦しいことから解放されるわけだ」
「そうでもないですよ、これが」
「なんだと?」
画面の中の女性がくすくすと笑う。
「確かにカテゴリー5の階級と<失った魔術師>のお名前はお返ししていただきます。ですがその代わりに、別の称号をお送りします」
「なんだ、まだ俺を縛り付けておこうって言うのか?」
「当然です。貴方の知識は魔法使いにとって大事なものなんですから」
「知識だけ知ってても、それを実行できなきゃ意味ないだろ」
「果たして本当にそうでしょうか」
「……何が言いたい?」
「ユーリさん、貴方は普通の魔法使いに戻ったのですよね?」
「そうだが」
「では、魔術じゃなくて魔法を使えるようになるのではないですか?」
「そんな馬鹿な」
「物は試しです。やってみては?」
そんな急に言われても。
じゃあ、手から和菓子を出す魔法でも……。
「出来た」
魔術を使わずに、俺の手の上には饅頭が転がっていた。
しかも普通においしい。
「ほらね?」
「なんで……」
「私の推測ですが、恐らく禁呪とそれによってもたらされた魔力が、貴方の魔法を使う為の技術を封印していたのでしょう。そのしがらみがなくなって、魔法は使えるようになった」
「じゃあ今まで魔力が12時きっかりに回復していたのは、俺に魔法を使えないという代償を払わせる為?」
「そうだと思います。そもそもその魔力を利用されること自体が、イレギュラーだったのでしょう」
「……そう言うことね」
なんか腑に落ちたような、そうじゃないような。
まあいいや。
事実、俺は普通に魔法を使えるようになった。
行く行くはスタヴフィード家秘伝の魔法である<Relation>の魔法ももう一度使えるようになるだろうか。……時間を掛ければ可能かもしれない。そうなればいいな。
「そんなわけで、貴方に別の称号を贈ろうと思います」
「そう言えばそんな話だったな」
「心して聞いてくださいね」
画面の中の女性が真剣な面持ちで俺を見る。正確にはカメラを見てるんだろうけど。
「貴方に贈る称号は名誉魔術師です。350年生きてきた貴方の知識と経験を、今後も魔法使いの為に役立ててください」
「あんま嬉しくないな。それに過度に風見鶏に関わろうと考えてなかったし」
「それで構いません。本当に必要な時に私からお声掛けしますから」
「お前の頼みなら断れないわ」
弱みを握られてるわけじゃないけど、恩がでかすぎる。
「そして<失った魔術師>に代わる新しい名は、<縁の魔法使い>とします」
「……なんだって?」
かつて救った少女に貰った名を言われた気がした。
いや、待って欲しい。
「俺はまだ<Relation>の魔法使えるようになる保証はないぞ」
「ですが使えるようになるまで努力されるおつもりですよね?」
「そりゃ、俺の一族秘伝の魔法だからな」
「だったら先にお渡ししておいても問題ないでしょう。貴方にとって大事な呼び名でしょうから」
……まったく、どこまで人の心を弄べば気が済む。だがその温情はありがたく受け取っておこう。
「ありがとう。その称号、確かに頂戴します」
「では正式な授与は、貴方の検査と同じ日にしましょうか」
「そうしてくれ。お前から直接貰わないと、貰った気がしない」
「そう言うと思いました」
「まあ、それはな。あ、そうだ。一つ頼みがある」
「なんでしょうか」
「多分俺の名前で紹介状書いて持たせる奴が、暫くしたらそっちを訪ねることになると思うから、その時はよろしくしてやってくれ」
「分かりました。そのように手筈を整えておきましょう」
「頼んだ」
「それでは、また後日詳細はご連絡しますね」
「ああ、頼むよ。じゃあな、エリザベス」
「エリー、とは呼んでくれないんですね」
「引退したとはいえ、俺はお前の近衛だぞ?馴れ馴れしく呼べるかよ」
「その前に、良き友人だと考えていたのですが、そうではないんですか?」
「……悪かった。じゃあエリー、またいずれ」
「はい、ユーリさん。ごきげんよう」
そうして電話の主は通話を切った。
まったく、100年経っても変わってないってどういうことなんだろうなぁ。
俺は座椅子に深く腰掛ける。
それにしても、<縁の魔法使い>か。まさかこんなところでその名を耳にするとは。しかも俺に与えられる新しい通り名か。なんとも奇妙な縁だ。
俺はPCを閉じ、居間へ向かった。居間では可憐が大掃除をしているところだった。
「あ、ユーリさん。終わった?」
「ああ。しっかり報告しといた。近々本土へ行く予定になるから、その時はまた連絡があるってさ」
「了解。決まったら教えてね」
「わかった」
そうして俺は、家の大掃除を手伝う。
今日は大晦日。
諸々の事情もあって大掃除もエリザベスへの報告も後回しになっていたが、これも仕方あるまい。
そう言えば年末まで仕事なんてエリザベスも難儀なものだ。
家は基本的に可憐がこまめに掃除してくれているのもあって、そんなに汚れていなかった。強いて言えば普段掃除しないような場所が汚れているくらいだ。
そんなに時間がかかることなく、家の大掃除は終わった。
「あんまり掃除するところなかったけど、疲れちゃったね」
「言ってももう少しで晩飯時じゃないか。早いけど準備してしまおう」
「そうだね」
そう言って二人でキッチンに立つ。
日本の伝統に倣い、今晩はそばを食べよう。
「そう言えば本土に行くのって、ユーリさんの体の検査の為?」
「そうだ。非公式新聞部の拠点で検査してもらう手筈になってる」
「ロンドンまで行かなくていいの?」
「俺の都合に合わせてもらったんだよ。なんせ教師なんてやってるもんだから、長いこと休むことは出来ないからな」
「難儀なお仕事だよねぇ」
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr