D.C.IIIwith4.W.D.
俺は苦笑交じりに答えた。
「そこから先は俺の領分だ。皐月さんがここに来た理由も、送り返す手段もな」
「……そうね。カイの魔法使いをわざわざ日本から連れてくるわけにはいかないし」
「そのカイの魔法使いを、鷺澤の家のことを言っているのなら、そもそもお門違いだぞ。あいつらは世界の移動はできても、存在そのものを移動することは出来ないはずだし」
鷺澤の名前で思い出した。
1年前に、女王からの勅命で日本へ行ったときに由岐子に初めて会ったんだった。あいつ、元気にしてるかな。お役目に関してかなり厳格な奴だったけど。
「あのー……」
ここまで話したところでシャルルが小さく手を挙げた。
「人が何らかの魔法で並行世界を移動できることはわかりました。けど、普通に移動することと存在を移動することの違いがわからなくて……」
「ああ、なるほどな」
詳しくない人間には難しい話だったかもしれない。
かくいう清隆と皐月さんも同じようにわかったようなわかっていないような顔をしていた。
「存在を移動するっていうことは、さっきも言った通り定住するって意味で移動するってことだ。例えるなら、普通に移動するだけならそれは旅行するのと一緒、行って帰ってくることが前提の行為だ。でも存在を移動するってことは引っ越しと似ていて、引っ越すときは引っ越し先に住民票を持っていくだろ?今回は、存在そのものが住民票だ。住民票を動かすことで初めて定住する権利が得られる」
「あー……なんとなくわかりました」
「まあ、今は詳しく説明するつもりはないから、なんとなくわかってくれればいいよ」
他の二人も同じように頷いていて。
俺はこのまま話を続けることにした。
「……どこまで話したっけ」
「カイの魔法使いは存在そのものの移動はできないってこと」
「あーそうだそうだ。世界線を超えて存在を移動させるなんてなると、それ専門の魔法使いが必要になる」
「で、幸いにもユーリは存在を移動させる魔法が使える、ってことね」
「なんとか最近になって魔術で再現できるようになったよ。まさか使うことになるなんて思ってなかったけどな」
とにかく、これで皐月さんについての目途はついた。
後は送り返す為の算段を付けるだけ。
「皐月さんの事がわかって、なんとか元の住処へ戻してあげる為の見通しも付いたわね」
「ああ。悪いが、このことをエリザベスに報告してくる。後は頼んでいいか?」
「はい、任せてください」
「皐月さん、他にも教えてください。送り返してあげるためには、少しでも多くの情報が欲しいの」
「わかりました、マロースさん。出来るだけお話しますので、よろしくお願いします」
流石、生徒会の前線を退いたと言っても優秀な才媛達。必要なことがわかれば、それに沿って更に掘り下げが出来るのはいいことだ。
強気な奴らが揃ってる分、普段は姦しいけど。
「ユーリさん、何か失礼なことを考えたのでは?」
「巴、そんなわけないだろ」
「いいえ、怪しいですねぇ」
「シャルルまでそんな……」
やっべ、顔に出てたか?
まあ、それはさておき。
「……じゃあ、送り返してあげる為の準備もいるわけだし、予定が決まったら改めて連絡する。それまではよろしく頼む」
そこにいる全員から肯定の返事が返ってきた。
「とりあえず今日はそんなところで。俺はエリザベスのところに戻る。じゃあな」
俺は席を立ち、学園長室を後にした。
皐月さんに関しては、このままあいつらに任せておいても大丈夫だろう。
そんなことを思いつつ、一連の流れをエリザベスへ報告に向かった。そのまま暫くはこの件にかかりきりになってしまうことも伝えて許可を得た。エリザベスも流石にそれはわかってくれていたようで、快く許可を得ることが出来た。これで後は、皐月さんを送り返す為の準備に時間を費やせる。
そう思った俺は宮殿を後にし、地下学園都市内にある自宅へ戻っていった。
◆ ◆ ◆
「ようこそ、俺の研究室へ」
数日後。
皐月さんを元の世界へ送り返すにあたって俺は宮廷魔術師としての仕事を休むことになった。
その為に他の宮廷魔術師に様々なことを引き継がなければいけなかったのだが、それに時間がかかってしまった。
大丈夫かなルイス。エリザベスの我儘とかに振り回されてないだろうか。
……なんて思考を巡らせている余裕はないな。
「なんか小ざっぱりしてますね。ユーリさんの部屋って」
皐月さんを引き連れ、俺の部屋を訪れた清隆、リッカ、シャルル、巴。誰も、風見鶏の寮を離れた俺の家を訪ねてくるのは初めてだ。
「まあ、大方仕事が忙しくて寝に帰ってきてるくらいなんでしょ?」
「よくおわかりで。さ、適当に腰掛けてくれ」
そう言って彼らをダイニングテーブルへ誘う。そして一人一人に紅茶を出して回る。
それぞれティーカップに口を付け、まずは一息つく。
「……ここを暫くの拠点にするのはいいけど、大まかにどうするのよ」
姿勢を正したリッカが俺に問う。
正面に座る俺は、対照的に背凭れに体重を預け、言葉を返した。
「まあ、俺が皐月さんを送る為には下準備が色々必要でな」
「それはわかりますよ。なんたって世界を超えて存在を移動させるなんて大掛かりな魔法なんですから」
「ああ。まずは何より、皐月さんの事を知る必要がある。大抵の情報は口頭で聞き出してくれたみたいだが、それ以上の情報が必要でな」
「あっ、なるほど」
「そういうことね」
天啓を得たように頷く巴とリッカ。
俺はその言葉に頷き、清隆に目を向けた。
「ああ。そこでお前の出番だ」
「お、俺ですか?」
「勿論。お前にしか出来ないことだからな」
「えー、なになに皆して。私達にもわかるように教えてよ」
「そうですよ、スタヴフィードさん。勿体ぶらずにお願いします」
何が何やら理解していない様子のシャルルと皐月さん。いや、清隆の素性を知らない彼女たちだからこその反応ではあるのだが。
咳払い一つ。
俺は彼女らに向けて改めて説明する。
「清隆は夢見の魔法使いだ。人が見る夢に干渉して様々な情報を探ったり、精神安定を図ったりできる」
「はい。実際日本にいた頃は、父の指導の元にそれらに似たことをやっていました」
斜め前に座る清隆が頷く。リッカと巴も同じように頷いていた。
「清隆の夢見の魔法は素晴らしい技術の結晶だ。私が保証する」
「そうね。清隆なら何とかできるかもしれないわね」
「なるほど。清隆君の得意な魔法で、皐月さんの元居た世界の情報をさらに集めようってわけだね」
「そういうわけだ。で、清隆には更に無理難題を押し付けるかもしれないんだが……」
俺は額に手を当てる
言いにくいことを言うというのは、あまり心地良い気はしない。だがこれがなければ始まらない。
俺は勇気を出して――。
「わかってます。皐月さんの夢に、ユーリさんも連れて行ってほしいってことですね」
――自分の言葉で申し出るはずが、すべてを察した清隆によって言う前に肯定された。
「あ、ああ。よろしく頼む」
「経験がないわけではありません。手順を踏めばうまく行きます」
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr