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熟成アンドロイド 前編

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「ん? アーチャー?」
 士郎の質問に答える前に、切嗣は訊き返す。
「アーチャーだよ」
 SV―00を指さし、士郎は決めたんだ、と報告する。
「へー、そっか。アーチャーか。かっこいい名前だね」
 ちらり、と切嗣がSV―00を見遣れば、どことなくうれしそうな表情に見える。
「ふむ……」
 その様を見て、不問にしようと決めた。いや、はじめから切嗣はSV―00を罰しようとは思っていなかったのだ。
「オーバーヒートだよ」
 ようやく士郎の疑問に答えた切嗣に、
「おーばーひーとぉ?」
 士郎が首を傾げて訊き返す。
「何かが原因で、歯車が異常加速し、熱を生じる。そういう現象だね」
「ふーん」
 SV―00は士郎の火傷の手当てをしながら、切嗣の言葉を噛みしめていた。何が原因であろうと士郎に火傷を負わせたことに変わりはない。その罰は受ける必要がある、と理解もしている。が、SV―00は士郎と会えなくなるのを回避したいと、その算段に自身の演算能力をフル稼働させていた。
「アーチャーは、大丈夫なの?」
「原因がわかれば対処もできるよ」
「ふーん。原因はわかった?」
「いや、まだだね」
「ダメじゃん……」
 呆れたように言った士郎に、SV―00がしょんぼりしたように見え、切嗣は吹き出した。
「じーさん?」
「ふふ、い、いやいや、悪い。笑うつもりなかったんだけどね、」
 目尻に涙まで浮かべて笑う切嗣に、士郎は首を傾げている。
「SV―00、いや、アーチャーは、士郎よりも弟なんだって、僕、言ったよね?」
「うん」
「いや、私は成人体として造られている。マスターの弟であるはずがない」
 切嗣の言葉に、士郎は肯定し、SV―00は否定した。
「見た目はそうだけど、ここが生まれたばっかりだって、じーさんは言った」
 士郎はSV―00の胸元を指して屈託のない笑みを向ける。
「だから、アーチャーは、俺の弟。俺が、守ってあげるよ」
「…………」
 SV―00は反論を言葉にはせず、士郎の言葉を受け入れた。
「じゃあ、問題ないね、これで。あとは士郎の火傷が良くなれば、万々歳だ」
 呑気に言う切嗣に、SV―00が困惑したような顔を向ける。
「いいね? 君は士郎の弟。君と士郎は互いに欠けた部分を補うように助け合っていくんだよ、これからは」
 大きく頷く士郎と、こくり、と静かに頷いたSV―00は互いに顔を見合わせる。
「へへ。アーチャー、怒られなくて良かったね」
 うれしそうに笑う士郎に、ピピ、と軽度の警告音がSV―00の内部に響く。
「…………歯車が、暴走する原因がわかった」
「え?」
「本当かい?」
 切嗣が座卓に乗り出して訊く。
「士郎が笑うと、少し歯車の回転数が上がる」
「え……、俺、笑っちゃダメなの……?」
 神妙な顔つきになる士郎に、SV―00は、首を横に振る。
「いいや、笑ってくれ。士郎の笑顔に慣れれば、問題がないはずだ」
「そっか。うん。わかったよ、アーチャー。って、じーさん、さっきから、なに笑ってるんだ?」
「い、いや……ははは、僕の息子たちが、すごく可愛いからっ!」
 しばらく笑いが止まりそうにない切嗣は放置することにして、士郎はSV―00を見上げる。
「あの、忘れてたんだけど、名前……、アーチャーでよかった? じーさんにもさっき言っちゃったんだけど……」
 SV―00に伺いを立てる前に士郎が勝手に呼んでいたことと、切嗣にすでに話してしまったことを申し訳なさそうに承諾を取る士郎は、そっと抱き上げられてSV―00の膝の上に座った。
「アーチャー?」
 返事を待つ上目に、SV―00は柔らかな表情を浮かべ、こつり、と額を士郎の額に当てる。
「ありがたく、頂戴する」
「やったー。じゃ、決まりだなー」
 SV―00は、この日からアーチャーとなった。



SERIAL.2

「士郎、ガーゼを変えよう」
「はーい」
 行儀の良い返事をして、アーチャーが正座をして待つ前に、士郎は足を伸ばして座った。
 切嗣の高級茶菓子という賄賂を受け取ったカリス技研工業の企業医に一応診察をしてもらった士郎の火傷は、それほど重度ではない低音火傷の部類だったそうだ。低音とはいうが火傷は火傷だ。程度によっては低音火傷の方が深刻なこともある。適切な処置と清潔さを保たなければ、爛れなどを引き起こして酷い痕を残す可能性もあった。
 さいわいにも士郎の火傷は痕が残るほどのものではなく、切嗣は胸を撫で下ろしていた。
 入院や通院の必要もなく、その後の処置はアーチャーの仕事となっている。切嗣では、定期的にガーゼを交換したり、洗浄や消毒をしたりする時間が取れず、切嗣の性格上、そんな几帳面さもないため、超高性能人型家事手伝いアンドロイドとしての本領発揮というところになるのだろう。
「痛むか?」
「んーん。なんだか、かゆい」
 士郎は気難しそうな顔で首を振った。痒みを我慢しているようだ。
「治癒がはじまっているのだな。かいてはだめだぞ? 痕が残ってしまうからな」
「うん、わかってる」
 士郎は素直に頷くものの、痒みとの戦いは子供にとって辛いことだ。
「少し冷やせば楽になるか?」
「うん」
 ガーゼを貼り換え、士郎の衣服を整えたアーチャーは、あらかじめ用意していた、保冷剤をタオルで巻いた物を五つばかり持ってくる。
 それを士郎に渡し、いったんアーチャーは台所に戻った。保冷剤を両手に持って患部に当てている士郎を少し持ち上げ、
「わ! なに?」
 驚く士郎を胡座の上に座らせる。そっと座卓に置かれた盆には、温かいレモネードとレモンタルトがのっている。
「おやつ?」
「ああ」
「レモンがのってる。酸っぱいの、俺、苦手ー」
「火傷にはビタミンCもいい。少しでも多く摂取した方がいいと思い、たくさんレモンを使った」
「うぇー、すごく酸っぱそうー」
 そう言いながらも、レモネードを口に運んだ士郎は、ほ、とため息をつく。
「どうだ?」
「あまぁい」
 アーチャーを見上げて満面の笑みで答える士郎に、アーチャーの内部で小さな警告音が鳴る。
「っ……」
「アーチャー?」
「ああ、大丈夫だ」
「ほんとに? また、おおばーひーとっていうやつ?」
「問題ない。……だが、士郎。一つ約束してくれ」
「なに?」
「もし、また私がオーバーヒートを起こしたら、決して近づかないと」
「…………でも、」
「触れてはだめだ。すぐに切嗣に連絡を取るから、士郎には自分の部屋で待っていてほしい」
 振り返っていた士郎は、ふい、と前を向いてしまう。
「士郎?」
「やだ」
「……士郎、またこんな火傷を――」
「やだ!」
 強い声にアーチャーは口を閉ざす。主の強い意思には従ってしまうのがアンドロイドだ。
「あぶないことしないから! アーチャーのそばにいる!」
「士郎……」
「タオルを冷やしてくるくらいできるよ、俺! だから、アーチャーを放っておけなんて、言わないで!」
 振り向いた士郎の琥珀色の瞳が強い意思を持ってアーチャーを映していた。
「…………わかった。では、切嗣が到着するまで、私を冷やしていてくれ」
 アーチャーは引くしかない。士郎の真っ直ぐな気持ちをどうにかできるような術を、アーチャーは持ち合わせていない。
作品名:熟成アンドロイド 前編 作家名:さやけ