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ポケットいっぱいの花束を。

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「あ、さっきラインきたから、もう着くと思う」未央奈はぱちくりとした印象的な眼を瞬きさせながら言った。「今日はここの、自分の部屋にお泊りするから、大丈夫だと思うよ」
「いやあ~、現役の乃木坂に、あと二人も会えちゃうのかあ」磯野かつおは顔をしかめて嬉しそうに言った。「波平が惚れるぐれえなんだからなあ、他の子もレベル高けえんだろうなあ」
 鈴木絢音と北野日奈子が到着したのは、間も無くの事であった。
 男性陣は現在、女性陣に気を遣って、誰も煙草を吸っていない。
「初めまして、北野日奈子です」鼻筋に皺を作りながら日奈子は大人達に言った。「夕君達に、いつもお世話になってます」
 大人達三人が北野日奈子に挨拶を返す。
「初めまして、鈴木絢音といいます」絢音は冷静な装いで丁寧に挨拶をした。
 また、大人達三人が挨拶を返す。
 北野日奈子と鈴木絢音は、堀未央奈の座るソファに腰を落ち着けた。無論、間隔を遮るアクリル・パネルを設置した。
「明けましておめでとうございます」絢音が言った。
「明けましておめでとうございます」続けて日奈子も言う。「アハッピーニューイヤー、んふふ」
 年賀の挨拶を済ませた皆は、しばし古いメニューを〈レストラン・エレベーター〉で送り返し、新しいメニューを電脳執事のイーサンに頼んだ。
「夕君達のお父さんに会うとは思わなかった。むひっ」日奈子は吹き出して笑った。「何? お見合い? 何これ」
「お見合いだったら最高だな」夕は少しだけ酔いを排除できた様子だった。
「絢音ちゃん、聡明そうだね」風秋遊が言った。「日奈子ちゃんは、とにかく明るいムードメイカーだね」
「そんな、全然です」日奈子は笑みを落ち着かせて言った。
 鈴木絢音も俯いて首を横に小刻みに振っている。
「確かめようか」風秋遊は楽しそうに言った。
「何を?」夕は顔をしかめる。
「どんな人か」風秋遊はそう言って、未央奈を見つめた。「未央奈ちゃん、好きなタイプは?」
「へ?」未央奈は眼を見開いてきき返す。「男性の、て事ですか?」
 風秋遊は頷いた。皆も黙って見守っている。
「好きなタイプ……。一途で真面目、面白くて話しやすい、連絡がマメ」未央奈は考えながら振り絞っていく。「猫顔よりは、犬顔、笑顔が可愛い、服がシンプル、怒らない穏やかな性格、細いよりかは、ガタイのいい感じ」
「はい来たよ! ほうら来たよー!」磯野はボディビルダーの様なポーズで言った。
「やめろ」磯野かつおは溜息をついた。「馬鹿がバレるだろうが」
「後は?」風秋遊は催促する。
「えーと……、ちびまる子ちゃんとクレヨンしんちゃんを、一緒に楽しみながら観てくれる人」未央奈は更に思考をフル回転させる。「映画鑑賞が好き、アクティブ、サプライズをしてくれる、優しい香りの香水を使っている」
「へー」夕は記憶しながら囁いた。
「こんな人いるのかな?」未央奈は口元を手で隠して苦笑した。
「お前らじゃあない事はわかったな」風秋遊は笑みを浮かべた。「残念」
「だあ~っはっは!」磯野かつおは笑い声を上げる。「人間変われるってえ」
「絢音ちゃん」風秋遊は微笑みながら、絢音を見つめる。「好きな、言葉は?」
「え、タイプ、じゃなくて、言葉、ですか?」絢音は風秋遊に頷きの返事を貰い、少しだけ思考してから言う。「ゲシュタルトの祈り、が好きです」
「心理学者のフレデリック・S・パールズが、ローラ夫人と創設した、ゲシュタルト療法で用いられる、祈りの事だね」稲見恵はそう言って、絢音に頷いた。「若いのに、随分博識だ」
「どんな祈りよ?」磯野かつおは顔をしかめて言った。
 稲見が説明をする。「俺が……。私は私の為に生き、あなたはあなたの為に生きる。私はあなたの期待に応えて行動する為にこの世に在るのではない。そしてあなたも、私の期待に応えて行動する為にこの世に在るのではない。もしも縁があって、私達が出会えたのなら、それは素晴らしい事だ。出会えなくても、それもまた素晴らしい事だ……」
「ドイツの学者だったな。瓶、ドイツ語を略したのか?」稲見恵は無表情で稲見に言った。
 稲見は答える。「いや、絢音ちゃんに昔教えてもらったんだよ。ね」
「私言ったっけ?」絢音は、眼をぱちぱちと瞬かせて言った。
「うん、聞いた」稲見は稲見恵を親指で指差して微笑む。「聡明な人には、好きな言葉を聞け。父さんの受け売りだけどね」
「素敵な人には好きなタイプを聞け。可愛い人には好きな色を聞け」夕は稲見を一瞥してから、風秋遊を見て言った。「うちの親父にも同じ事習ったよ。なんだ、イナッチもか」
「俺なんにも習ってねえぞこら」磯野は磯野かつおに眼くれて言った。
「お前にゃラム・コーク教えてやったろうが」磯野かつおはしかめっ面で返した。
「日奈子ちゃん」風秋遊は、日奈子を見つめる。「好きな、色は?」
「好きな色? ですか」日奈子は斜め上を見上げて、少しだけ間を置いて答える。「ピンクと、黄緑です。あのサイリュウム・カラーなんです、私の。あと、青も好きかな」
「日常ってサイリュウム赤だっけ?」夕はそう言ってから、大人達に説明する。「ああ、『日常』って曲があるんだけどさ」
「ううん、日常は青」日奈子はそう言ってから、笑う。「でもなぜか赤いサイリュウムで会場がいっぽいになる。青のサイリュウムをちらほら見かけると、私のファンの方かな?ってなる!」
「それは俺だ」夕が言った。
「俺もだね」稲見が続く。
「俺だっつうのに」と磯野。
「愛情いっぱいじゃねえか、お前ら」磯野かつおは面白がって言った。「昔の夏男みてえだな」
「あれ、夏男(なつお)と仲良い奴って、お前らん中にいるのか?」風秋遊は三人の顔を見回しながら言った。
「それは、ダーリンだな。姫野だよ」夕はそう言ってから、落ち着いてミルクティーを一口だけ飲んだ。「夏男さんとたまーにつるんでる。親子みたいだよ、あの二人は」
「ダーリンはハンサムだけどね」稲見は眼鏡の位置を少し上げて言った。「夏男さんは、だいぶユニークな顔をしてる」
「顔の事は言うな、瓶」稲見恵は稲見を一瞥して言った。「あと、彼をゾンビと呼ぶのも禁止だ」
「今頃、秋田の山んとこにいんだろ、ダーリンは」磯野はそう言って、携帯電話をいじり始める。「調べてみっか?」
 堀未央奈と北野日奈子は別の話題に夢中になっている。鈴木絢音だけは男性達の話に耳を傾けていた。
「秋田の山って、今、夏男が住んでるぞ……」磯野かつおは顔を驚かせて言った。「何だよ、そのダーリンってのも、山に住むのか?」
「あいつは乃木坂の誰かが卒業する時、秋田のセンターに行くんですよ」夕は磯野かつおに思いやられたような顔で言った。「去年の夏に、すっかり夏男さんを尊敬するようになったみたいで……」
「卒業すると、センターに行くって……」風秋遊は言う。「まんま、夏男だな」
「未央奈ちゃんの卒業ライブまでには帰ってきますよ」夕はそう言って、溜息を呑み込んで、微笑んだ。「ねえ、絢音ちゃん達、何か注文しない? 夜はこれからだよ」

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