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ポケットいっぱいの花束を。

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 〈ブリーフィング・ルーム〉の卓上には、豪勢な幾つもの料理と、堀未央奈ちゃん卒業おめでとうと描かれた大きなケーキが幾つかあった。
「未央奈ちゃん、ようこそ」夕はとびっきりの笑顔で言った。「未央奈ちゃん明日っから忙しそうだから、逆に今日にしちゃった。えへ」
「えー何、お祝いしてくれるの?」未央奈はさくらの近くに着席した。
「もちろん」稲見は笑顔だった。「さくちゃんもゲストでね、呼んだんだ」
「えーさくちゃん、ありがとう」未央奈は嬉しそうな表情で、さくらに言った。
「いえ、私も、何も知らないで……」さくらは戸惑いを隠せない。
「未央奈っち! そっつぎょう、おっめでとーーー!」
 磯野波平の発声と共に、盛大にクラッカーが鳴らされた。
 火薬の匂いと共に、辺りに虹のような紙吹雪の光景が飛び交った。
『ご卒業、おめでとうございます。未央奈様』
「ありがとうイーサン」未央奈は笑った。「えイーサン、生きてるみたいじゃん」
「さあ、乃木坂の光と、乃木坂のこれからの希望に、乾杯しよう!」夕はゲストの二人にメニュー表を差し出した。「お酒は二杯まで。明日大本番だからね。さくちゃんは、ソフト・ドリンクにしてね」
「はい」
「さくちゃんと未央奈ちゃんは、乃木坂の象徴だと思うんだ」夕は言った。「同じく一期生じゃなく、センターを任された二人は、同じ重みを知ってるだろうから」
「来てくれて本当にありがとう」稲見は未央奈に言い、さくらにそう言った。
「何か変な感じ」未央奈はメニュー表を閉じて、苦笑した。「さくちゃん、来てくれて、ありがとう」
「いいえ、そんな」さくらは慌てるように首を横に振った。「ご卒業、おめでとうございます」
「ありがとう」
「明日まで、私は泣かないわ」駅前は誰にでもなく言った。
「小生も、この今日の日を、胸に刻み込むでござる」
「未央奈ちゃん何呑む?」夕が言った。
「私、フルーティなカクテルがいいなー」
「OK」夕は続いてさくらを見る。「さーくちゃん、何飲む?」
「あ、お水で……」
「OK。うちのは美味しいよ」夕はとびっきりの笑顔で言った。
 それぞれが堀未央奈についての歴戦のエピソードを語り合った。夕が語った堀未央奈の「欲しい物があったら言ってください。家とか車とかキリンとかじゃなかったらたぶん買えるので」というエピソードでは皆が爆笑し、戦い抜いた八年間を語ると、皆が涙腺を弱めた。
「じゃあ、おやすみなさい、未央奈ちゃん、さくちゃん」
 風秋夕を始めとして、皆が堀未央奈と遠藤さくらに「おやすみ」の言葉を送った。
「じゃあねー、明日がんばる」
「俺達も気合入れるよ」夕は笑顔で言った。
「終わったら抱きしめっからな、未央奈っち!」磯野は大きな笑顔で言った。
「捕まるぞ、お前」夕は顔をしかめる。
「さくちゃんも未央奈ちゃんも、良い夢を」稲見は紳士的な笑みで言った。「タクシーはもうリリィの玄関前に、二台停まってるから」
「ありがとー」
「ありがとうございます」
「私も、精一杯見送ります、未央奈ちゃん」駅前は悲しそうな声を出した。
「ありがとう、木葉ちゃん」未央奈は微笑む。
「さあ、玄関まで見送るでござるよ」あたるは席を立ち上がった。「何だか……、もう既に今から、別れとは、寂しいものでござるな……」
「これからも応援してえ」未央奈はふふっと笑う。
 七人は〈ブリーフィング・ルーム〉を出て、地上一階の玄関まで向かった。
 そこで、しばしの別れを言い合い、堀未央奈と遠藤さくらは帰って行った。
 その日、五人共が眠れぬ夜を過ごした事は、言うまでもない。



       12

 二千二十一年三月二十八日。ついにこの日が訪れたと、重い瞼を開けて、風秋夕は一足先に地下六階に存在する〈映写室〉に到着した。
 じきに、磯野波平と姫野あたるが二人で現れ、稲見瓶が到着し、最後に、駅前木葉が〈映写室〉に到着した。
 それからの一時間は、あっという間に過ぎて行った。
 堀未央奈の生配信乃木坂46卒業ライブが、事静かに幕を開ける……。
 これまでに見た事のない衣装で二期生達が登場する。水色がかった紫のくすみカラーを基調としたチェック柄の制服だった。スカート丈の長いメンバーと短いメンバーがいる。
 ステージに堀未央奈が登場する。
最初の楽曲は『アナスターシャ』だった。
 募りに募った思いが爆発し始める……。
 風秋夕は、肺胞の奥いっぱいに、息を吸い込んだ。
 稲見瓶は、その眼を放さない。
 磯野波平は、感動で鳥肌を立てていた。
 駅前木葉は、ようやく、自分にその涙を許した。
 姫野あたるは、歯を食いしばる。
 見つめる先に、堀未央奈の姿があった――。
 続いて『ライブ神』がフラッシュライトの明滅と共に流れ始める。
 激しく明滅を打つフラッシュライト。踊る二期生達。
 風秋夕はその眼を奪われる――。
 次々にと、新たな楽曲が流れては歌い踊る二期生達。そのどれもがなれしたんだ名曲である。稲見瓶は、噛みしめるように、それらの一曲一曲を脳裏に焼き付けていく。
 八人を画面越しに見つめる磯野波平。彼の瞼に、大きな粒の液体が零れ落ちていった。
 二期生達のトークが始まる。
「二期生ライブ、ついに実現したな」夕は画面を見つめたままで、誰にでもなく言った。
 二期生達八人は、ハッピーバースデイを口ずさむ。
「最初で、最後かもしれない」稲見は抑揚無く言った。
「見逃せねえ、一瞬たりとも」磯野が言った。
 明るいムードで思い出を語り合う二期生達を見つめながら、駅前木葉はくすくすと笑い声をあげた。画面の八人も笑っていた。
 VTRが映される。
「ここまで、ここまで、涙が流れるものでござるか」あたるは号泣しながら囁いた。
 努力、笑顔、感謝をスローガンに、メンバー達八人が、一人ずつ務めるセンター曲への想いを語っていく……。
 最初の一人は、北野日奈子だった。
その楽曲は『日常』である。
「この一時を、乃木坂の二期生と共に、共有しているのね、今私達は……」駅前は少し大きめの口調でそう言った。「一生残る記憶の一ページを、今書き込んでいる……」
 二曲目の全員センター曲は、『君の名は希望』で、山崎怜奈だった。
 三曲目のセンターは、伊藤みり愛で、『ゴルゴンゾーラ』である。
 四番目のセンターは伊藤純奈で、楽曲は『サヨナラの意味』であった。
 五曲目のセンター楽曲は『ここじゃない何処か』で、センターを務めるのは鈴木絢音である。
 六曲目の楽曲は『太陽ノック』で、センターは新内眞衣である。
 会場にはいないオーディエンスをいじる演出を見せる新内眞衣――。それに応えるように、〈リリィ・アース〉の五人は巨大な声援を送った……。
七曲目のセンター楽曲は『ボーダー』だった。
センターは寺田蘭世である。
全員センター企画のラストを飾る楽曲は『別れ際、もっと好きになる』で、センターを務めるのは堀未央奈だった。
髪を乱れさせて踊る八人の姿が、恐ろしいほどに美しかった。
トークを開始する堀未央奈。彼女は、選抜やアンダーであった頃の胸の内を語った。涙する堀未央奈。
突然に始まる『嫉妬の権利』。