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ポケットいっぱいの花束を。

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もう、そんな事、どうでも良い事だった。
ただ君が、僕の味方でいてくれたのだと、そう思うだけで、僕は何からでも心が救われたんだ……。
僕の、永遠のヒーロー。
大好きだとも。かけがえのない存在だとも。
だから、今度は僕が、一生を懸けて、未央奈ちゃんの味方でいるね。
未央奈ちゃん……。おめでとう。
僕の心のポケットには、入りきらないほどの大きな花束を、君に贈ります。
ありがとう――。
「未央奈ちゃん未央奈ちゃん! 未央奈ちゃーーーーーーんっ!」
 姫野あたるは泣いて、泣いて、泣いて、叫んだ。人生でこれ程にはないぐらいの、大きな笑みを浮かべながら。
 ステージの中央で、円陣を組む八人……。
 その手の平たちが、重ねられていく……。
 寄り添い合う、八人の戦士達。
 泣き崩れ、歌う。
 最後まで、それは、とても美しかった。
 楽曲が終わり、新内眞衣がMCとして、エンディング・トークを短くおこなった。
 深々と頭を下げ、一人、また一人と、ステージを後にする八人達……。
 最後には、空っぽのステージだけが映されていた。
「アンコールか、後は……」夕が言った。
「いやぁ、ちゃんとライブだね。配信でも」稲見は涙を拭きながら、言った。
「何泣いてんだよお前ら」磯野は、けらっと四人を見回して笑った。
「自分も泣いてたくせに」夕はぼそっと呟いた。
「感動という歯車の汽車が、小生の体中を駆け巡ったでござる……」あたるは、めそめそしながら言った。
「これで、最後なんですね……。わがままは言いません、神様、この瞬間に立ち会わせてくれて、ありがとうございます……」駅前は、鼻をすすりながら、そう誰にでもなく囁いた。
 巨大な画面上に、堀未央奈の初センター抜擢の瞬間の映像が流される――。
 インタビュー形式で、テレビのセットの中に座った堀未央奈が、質問に答えるようにして想いを語っている。
 若き日の、あの頃の堀未央奈を見つめる〈リリィ・アース〉の五人……。
 VTRの終了と同時に、純白のドレスに身を包んだ堀未央奈が、その頭上のティアラを輝かせながら、家族への募りに募った思いを語っていく……。

スペシャルサンクス・乃木坂46合同会社

 涙を見せながら、一所懸命に思いを語る堀未央奈。それは愛する偉大な母への言葉達。
 そして、愛する姉への言葉達。
 そして、実際に歩んだ己の歴史。己を導いてくれた、乃木坂46への言葉達。
 そして、尊敬する乃木坂46一期生達への言葉達。
 そして、可愛くて仕方のない、乃木坂46三、四期生達への言葉達。
 そして、二期生達への言葉達――。
 涙が零れ、言葉が詰まる。
 それでも、想いの詰められた言葉達は止まらない。

スペシャルサンクス・秋元康先生

 そして、最後に、ファンの皆への想いが込められた言葉達……。
 堀未央奈は、夢の連鎖を語る――。誰かの力になれているのかと。乃木坂46で経験したこの八年間を活かして、自分の路をしっかりと歩んでいきたいと思うと――。
 やり残した悔いも、赤裸々に語った。
 次の曲は、最初で最後のソロ曲だと語った。この曲で良かったと、彼女は迷いなくそう語った。
 堀未央奈ソロ曲で、『冷たい水の中』が始まる……。

スペシャルサンクス・今野義雄氏

 歌い声を詰まらせる堀未央奈。
いつの間にか、二期生達七人が、堀未央奈を囲んでいた――。続けて流れる楽曲は『バレッタ』であった。
堀未央奈、初のセンター楽曲である。
 二期生達のトークが行われる……。まだ実感がわかないという堀未央奈。そんな彼女に、一人一人、二期生達が、花束を手渡し、言葉を交わしていく。
 最初は、伊藤純奈。次は山崎怜奈。続いて寺田蘭世。そして、渡辺みり愛。そして、新内眞衣。そして、北野日奈子。そして、鈴木絢音が花束と想いを告げていった。
 鈴木絢音は、堀未央奈へのサプライズと言って、堀未央奈の母から預かってきた手紙を読み始めた。
 声をふるわせる鈴木絢音……。そして、耐え切れずに涙を見せる、堀未央奈。
 本当に本当に、次で最後の曲だと告げられる。
 風秋夕は、巨大画面に噛みつくかのように、美しい堀未央奈の姿を見つめる続ける。
 稲見瓶は、頬の涙を拭う。
 磯野波平は、嗚咽を吐きながら画面を睨みつける。
 駅前木葉は、真っ直ぐな瞳で、画面の八人を見つめる。
 姫野あたるは、唇を噛みしめながら、その楽曲を言い当てた……。
 その楽曲は、このライブのスタートを飾った曲、『アナスターシャ』だった。

スペシャルサンクス・乃木坂ってどこ?
          乃木坂工事中
          ナインス・イヤー・バースデイ・ライブ~2期生ライブ~

 寄り添い合い、歓喜し合う二期生達。その背後から……--。
 乃木坂46の全メンバーがステージに集結する――。
 たまらずに、堀未央奈へと言葉を捧げていく、一期生のメンバー達。
 その言葉にならぬ感動の渦は、楽曲が終わった後も続く――。
 四期生を代表して、賀喜遥香が、堀未央奈へと想いを伝える。
 続いて、三期生を代表として、梅澤美波が、その想いを堀未央奈へと伝えた。
 そして、一期生を代表として、最後に秋元真夏が、優し気に、堀未央奈へと想いを伝えた。
 卒業、おめでとう――。
 集合する、二期生達。
 その背後には、乃木坂46のメンバー達。
 本当に、今日はありがとうございました――。と、深々と頭を下げる乃木坂46のメンバー達。
 最後は、皆、笑顔であった。

脚本・執筆・原作・タンポポ

 春の日差しに顔を眩しそうに染めながら、庭の小径を歩いて、風秋夕は〈リリィ・アース〉の玄関をくぐった。
 エレベーターが地下二階に差し掛かると、巨大な空間が姿をあらわにした。
 風秋夕は、地下二階ホール、エントランス・メインフロアの東側にあるラウンジに到着する。通称、いつもの場所、である。
「遅いよ、夕君」未央奈は頬を膨らませて言った。「二分も遅刻してる、ありえない」
「すっごいごめん」
夕は苦笑して、未央奈の正面のソファ・ポジションに座った。
「朝っぱらからナンパでもしてたんだろ、どうっせ」
 磯野波平はしらけっつらで言った。
 堀未央奈が北側のソファに座り、風秋夕が南側のソファに座っている。稲見瓶は〈レストラン・エレベーター〉を背に東側のソファに座り、磯野波平は西側のソファにふんぞり返っていた。
 現在、フロアを彩っている楽曲は、乃木坂46の二十七枚目シングル、遠藤さくらセンター曲の『ごめんねフィンガーズクロスト』であった。
「夕君、罰ポイント~」未央奈は可愛らしく笑った。
「じゃあ、未央奈ちゃんのいう事、何でも聞いちゃう」夕は微笑む。
「けっ。お調子者が」
「何だよ機嫌わりいな、さっきから」夕はそちらを睨む。「何か文句でもあんのか?」
「まあまあ。あのね」稲見は無表情で説明する。「夕が遅刻する時間を賭けてたんだよ。俺と未央奈ちゃんが、五分以内に来る、で。波平が五分以上かかる、てね」
「で、罰ゲームは何だ?」夕は嬉しそうに言った。
「一か月間、ラジオ体操をやる、だよ」稲見は答えた。
「けっ、誰がやるか」
「あー、ダメだよ? 絶対やんなきゃ」未央奈は磯野を睨む。