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ポケットいっぱいの花束を。

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「ぶったね、親父にもぶたれた事ないのに!」磯野はアムロ・レイのものまねをしながら移動する。「アフロ、行きまーす!」
「ダメだ聞こえてねえ……」夕はソファを立ち上がる。「波平に力づくで、通用すっかな」
「暴れない約束だよ」稲見は鋭い視線で夕を見上げた。「クリスマスに。しかも、今日は俺の誕生日でもあるからね。暴力は反対だ」
 磯野波平は与田祐希の座る席の背後に到着した。
「大丈夫、へっへ。肩もみだろ?」磯野は爽やかに皆に言う。「ガキん頃から得意なんだ。よくオカンにやったなー……」
 与田祐希は少しだけ怯えた様子で、後ろに立つ磯野波平を見上げている。皆が見守る中、何故だか大園桃子が当の与田祐希よりもおびただしく怯えていた。
「じゃあ、手、置くぜ……」磯野はそっと、なるべく優しく、祐希の両肩に両の手を乗せた。「ほいよ」
「嫌!」祐希は叫んだ。
「何しやがった!」夕はソファを立ち上がる。
「何もしてねえだろ!」磯野は大慌てで祐希の顔を覗き込む。「与田ちゃんそりゃねえぜ~、手ぇ置いただけじゃねえかぁ~……」
「ごめんなさい……」祐希は肩をすぼめて、震える声で言った。「あったかかったから、つい……」
「揉みます」磯野は真顔で揉み始める。
 フロアに与田祐希の悲鳴が響き渡った……。
 王様ゲームの第五回戦がとり行われる。
 じゃんけんで王様に選ばれたのは、稲見瓶であった。
「八番と五番が、おススメの選曲をする」稲見は皆に言った。
 現在巨大なフロアを彩っている楽曲は、ダニー・ハサウェイの『ディス・クリスマス』だった。
「八番……だけど、えおススメの曲?」桃子は幼子の様ににやけて言った。「何でもいいの?」
「もちろん」稲見は頷いた。
「五番、え蓮加も?」蓮加は割り箸を見せながら稲見に言った。稲見は声を出して頷いている。「思い出の曲?」
「あ、いいね。思い出の曲」稲見はにこやかに二人に言う。「じゃあそれを、選曲してもらおう。イーサンに頼めば、ここにかかるからね」
 イーサンとは〈リリィ・アース〉を総括するスーパーコンピューターであり、音声で対応してくれる便利な電脳執事の事である。
「はぁい、じゃ桃子ね。あの、仰げば尊しっていう歌、あるじゃん」桃子は皆に話し始めた。「何かその歌をね、保育園生の、卒業式かなぁ、に歌ったのを、凄く思い出に残ってる」
「あるよね」蓮加は相槌を打った。「卒業式に歌った歌って、なんか凄いよね」
「何かさ先生がピアノ弾いてくれるじゃん?」桃子は笑顔で皆に言う。「でさぁ、その先生がぁ、何か泣きながら、弾いてるのとかがぁ、思い出です。はい。次、ある人~?」
「はぁい……」蓮加が会話に続いた。皆は食事を取りながら有意義に聞いている。「三月九日でぇす……」
「好き好き」桃子が言った。
「うん」葉月も頷いた。その口の中には神戸牛が入っている。
「レミオロメンの人?」夕は皆に尋ねる。「あ~あ、あの人の歌か」
「じゃあ、仰げば尊しを聴いてから、三月九日だね」稲見は高い天井を見上げる。「イーサン、仰げば尊しをこの曲の次にかけて下さい。その後に、三月九日をかけて下さい。よろしく」
「てっきりクリスマス・ソングかと思いきや、仰げば尊しとはね」夕はくすくすと笑い声を上げた。「桃ちゃん、やっぱり可愛すぎる」
「三月九日もクリスマスじゃねえなー」磯野もげらっと笑い声を上げた。「れんたんも独特だぜえ~。クリスマスって、乃木坂的にゃ特別じゃねえのかな?」
「いや!」美月は顕在的に大きな瞳を一斉に見開いて言った。「クリスマス、特別だよう」
「街が綺麗よね」史緒里は料理から視線を上げて、美しく微笑んで正面の蓮加と桃子に言った。「なんか、テンション上がらない?」
「上がる~」蓮加は笑顔で言った。
「プレゼントとか、選びたくなる」可愛らしい訛り言葉で桃子が言った。「誰かにあげたくなる。貰うのも嬉しいし」
「このクリスマス・シーズン、乃木坂は多忙だけど、一応、クリスマスもスペシャルなわけだ」夕は納得した様子であった。「あ、そだ。まだ言ってなかったね。皆、メリー・クリスマス」
 その次の瞬間、磯野波平の「俺言ったよメリクリ~!」という声を除いて、そこ一帯の空間が「メリー・クリスマス」に溢れた。世界中が幸せで溢れますように――。風秋夕はそう祈りを込めた。

       4

 同日、二千二十年十二月二十四日、クリスマス・イヴ。〈リリィ・アース〉地下二階メイン・フロア西側のラウンジのソファ・スペースにて、今宵の聖夜を過ごしているのは、乃木坂46一期生齋藤飛鳥と、同じく一期生星野みなみと、乃木坂46ファン同盟の姫野あたるであった。
 メイン・フロアの東側のラウンジには風秋夕達九人が集まり、何やらを騒いでいた。
 齋藤飛鳥は遠目でそれらを見つめる。
 星野みなみも振り返って、そちらを見つめた。「クリスマス、って感じだよねぇ」
「ね。元っ気いいなぁおい」飛鳥は苦笑する。「姫野氏はあっち行かないの?」
「しょ、小生(しょうせい)だけ仲間外れにする気でござるか!」あたるは赤面して言う。
「いやいや、そうじゃないでしょ」飛鳥はあたるに普通に言った。「だって、あっち楽しそうじゃん」
「ねー」みなみは相槌を打った。「盛り上がってるよ~?」
「小生は、あしゅみなの、ファンでござるゆえ……」あたるは赤面し、言葉を濁した。
「ま、いいなら、いいけどさ」飛鳥は炙りチキンをナイフで器用に切り分けていく。「ねー、ここにさぁ、全員の個人部屋があるじゃん?」

「んーある」みなみは優雅にプリンを食べている。「あそこって、泊ってる子、結構いるんだよね?」
「なーんかねー」飛鳥はあたるを見る。あたるはびくり、と過剰に反応した。「姫野氏、知ってる? 個人部屋のこと」
「も、もちろん。小生の部屋もあるでござる」
「あれって、皆、内装おんなじなの?」飛鳥はきょとん、とした顔であたるにきいた。
 星野みなみもプリンを一時止め、姫野あたるを見つめる。
「内装は全部違うみたいでござるよ。ここのフロアの正面の、北側の壁に、大きな扉が三つござろう?」あたるは見つめられている事を実感しながら、冷静を装って説明する。「あの扉、一つの奥の通路に、五部屋、個人部屋があるでござるよ。扉は三つゆえに、このエントランス・メイン・フロアの正面には、十五部屋、個人部屋が存在する事になるでござるな」
「私の部屋もそこにある」飛鳥はみなみを見ながら言った。「え、みなみちゃんは?」
「みなみも、正面のドアの、一番右のドアの廊下に部屋があるよ。五号室まであって、三号室」
「私真ん中のドアの通路だ」飛鳥は思い出しながら言う。「確か、七号室、だったかな……」
「エントランスの西側、つまり今小生達三人がいる、そこの大きな扉の奥にも、五部屋、存在するでござる」
 齋藤飛鳥と星野みなみは関心の声を示しながら、そちらを見つめた。
「今、夕君達がいる東側のラウンジにも、大きな扉があるでござろう?」あたるは二人の女子に返事を貰うと、続ける。「あの奥にも、五部屋、住居があるでござるよ。地下五階まで、計百部屋、存在するでござる。ちなみに、小生は地下五階の、百号室でござるよ」