その先へ・・・7
それなのに、どうしてこんな風になってしまうんだろう。
あんなに待ちわびたアレクセイがようやく目の前に現れ、こんなに近くにいるというのに今は彼の手のひらの熱さが苦しい。
ユリウスの胸は彼女を不安に陥れるどす黒い不穏な影に縛られて、アレクセイへの気持ちを口にすることばかりか彼を見つめる事すら出来ないでいた。
「ユリウス……」
アレクセイは両手でユリウスの頬を包み、優しく上を向かせた。
「ここはロシアだ。ドイツじゃない。おれたちはドイツで……お互い偽りの姿で出会った。あの頃はまだ若く、背負うものが大きくて正直な気持ちを伝えられなかったが、もう正体を偽る必要もないし、何も恐れることは無いんだ」
「……恐れることは……ない……?」
「ああ。おれは自分の気持ち以外はおまえに洗いざらいしゃべっちまったんだぜ。だがおまえは何もおれに打ち明けてはくれなかった。まぁ、おれに向けられた気持ちだけは話さなくてもあからさまだったがな。ヒヤヒヤもんだったんだぜ」
ニヤリと笑いユリウスの頬を軽くつまんで見せた。うっすらとユリウスの頬も染まり、表情も僅かに柔らかくなった。
「そっ、そう……なの?」
「ああ。おまえが何を秘めていたのか今となってはわからんが、そんな事はもうどうでもいいんだ。おれは今のおまえの心を知りたい。今のおまえの心に巣食う闇を振り払ってやりたい。……苦しいなら言っちまえ!今なら、おれも……」
まっすぐ向けられるアレクセイの瞳が眩しい。
彼の言葉には嘘や澱みはまったく無く、ユリウスの心に染みわたっていった。
頬から伝わる手のぬくもりは、アレクセイの気持ちの表している様だった。
「あたたかい……。きみはこうしてぼくに安らぎをくれる。今も、昔も……。それはわかるよ」
ユリウスは頬を包んでくれているアレクセイの手に自分の手を重ね、少し頷いて見せた。
「ありがとうアレクセイ。‥‥聞いてくれる?」
「ああ‥‥」
ユリウスはアレクセイにウオッカをもう少し貰える様頼んだ。
グラスに注がれた液体を 今度はほんの少しだけ口に含んだ。
そして時折止まりながら、ルウィが現れてからの事をゆっくりと話しだした。