その先へ・・・7
(2)
「あなたの同志だと言う男が現れた時、ぼくはガリーナに言われて奥の部屋に隠れていた。何があっても絶対に出てこない様にって。慣れているから大丈夫って……。ガリーナはぼくを一生懸命守ろうとしてくれたんだ」
「……」
ズボフスキーにも、ガリーナにも世話になってばかりいる。ましてやガリーナは女の身でしかも身重だ。
自分の身を第一に守るべきなのに、かりそめの預かり人であるユリウスを守ろうとするなんて。万が一の事があったらズボフスキーに申し訳が立たない。アレクセイは今更ながらに自分の身勝手さを呪った。
「ぼくはドアの向こう側の様子を伺っていて……あの男がガリーナににじり寄った時、同じ様な事が前にもあったような……そんな気持ちになって落ち着かなくなったんだ。……こんな事を知っている。こんな風に……ドアのすき間から恐ろしい様子を垣間見た事が……って」
言葉を探りながら話すユリウスの顔色は、ランプの明かりに照らされていても青白いのが分かった。
「ルウィと名乗ったあの男とガリーナの様子を見ている筈なのに、二人の姿は別の誰かの姿に変わって……。心が騒いで体の震えが止まらなくなった。でもっ!ガリーナを助けなくちゃ……って、ぼくは急いで部屋を飛び出しあの男を突き飛ばしたんだ」
ユリウスは机の上に置かれた両手をしっかりと握り合わせていた。見上げると、ほっそりとした肩が微かに震えている。
「ガリーナとあの男がいる筈なのに、ぼくの目の前には……恐ろしい悪魔がいた……。ぼくはこれが現実なのか、いつもの悪夢なのか、よくわからなくなってしまって‥‥」
「悪魔?」
ユリウスは両手で顔を覆い肩を震わせながら小さくうなずいた。
「吹雪の晩や……、ぼくが過去を思い出そうとすると現れる……悪魔だった」