二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

BUDDY 1

INDEX|2ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

 そんな士郎に助け舟を出す気はさらさらないが、アーチャーは静かに口を開いた。
「我々は、聖杯戦争には関与しない。やるなら好きにやってくれ」
「はあ? なに言ってるのよ! だったら、今すぐに消すわよ! セイバー」
 凛がすぐ後ろに立っているセイバーに声をかけると、金の髪を揺らし、セイバーは即、見えない何かを両手で握り、明らかに武器を構えている。銀の鎧が照明を反射して鈍く光った。
「待て。話を最後まで聞いてくれ」
「な、何よ?」
「凛、やるのですか、やらないのですか?」
 生真面目に、それでいて有無を言わせない勢いで聞くセイバーは、今にも武器を振り回しそうだ。
「う……、えっと……、セイバー、ちょ、ちょっと待って、一応、話を聞きましょ」
 すぐにでも座卓を跳び越え、アーチャーに斬りかからんばかりの金髪の少女を凛は制止した。興味本位なのかもしれないが、凛は話のわかる魔術師だとアーチャーは熟知している。そこが彼女の甘さであり、また良いところである。
「ありがとう。では、茶でも淹れよう。腹は減らないか? 簡単なものであればすぐに用意しよう」
「え? お、おい、ちょっと待て! なんで、お前が勝手に仕切ってるんだ!」
 凛に礼を言って、台所へと入っていくアーチャーに追いすがってきた士郎をアーチャーは軽くあしらう。その背後では、
「セイバー、座って待ちましょ」
 いまだ構えた姿勢を崩していないセイバーに声をかけた凛は、台所でのやりとりを見ながら、何やら引き締めていた気が抜けてきてしまっていた。
「なんなのかしら……、あいつら……」
 拍子抜けのような気もしつつ、少しだけほっとしていることをしかめ面で紛らわせた凛は、座卓に頬杖をついてお茶を待つことにした。



「改めて礼を言う、助かった。あのままではランサーに消されてもおかしくはない状況だった」
「べつにいいわよ。私たちも仕留め損ねたランサーを追っていたんだし。まあ、逃げられちゃったけどね」
「いや、正直、このマスターの魔力では、ランサーを退けることすら難しい状態だった。我々が命拾いしたのは事実だ」
「そ、そう……、えっと、それで、話を戻しましょうか」
 凛は殊勝に話すアーチャーに調子を崩されながらだが、果敢に話を先へ進めようとしている。
「先ほども言った通り、我々は、聖杯戦争には参加しない」
「…………」
 湯呑みを啜った凛は、半眼でじっとりとアーチャーを眺める。
「……本気なの?」
「私には他の目的がある」
「目的? 聖杯じゃなくて?」
 疑念をどうにか抑え込んで、凛はアーチャーの話を腰を落ち着けて訊こうとしてくれている。それをありがたいと思い、誤魔化すことなくアーチャーは正直に話すことに努める。
「君は知らないだろうが、このマスターは、とんでもなく馬鹿なのでな。少々鍛え直そうと思っている」
「はあ? なんだと、てめえ!」
 横に座って聞いていた士郎がアーチャーに噛みつくも、
「やかましい。黙っていろ」
 ぴしゃり、と士郎を一蹴したアーチャーは再度凛に向き合う。
「この未熟者を真っ当な道につかせる。それが私の目的だ」
「…………な、なんなのよぅ、意味がわからないわよぅ……」
 とうとう思考力が限界を迎えたようで、凛は頭を抱えてしまった。
「まあ、とりあえず今夜は休もう。君たちは離れの洋間を使うといい」
「うー……、なんだかわからないけど、お言葉に甘えるわぁ」
「り、凛? 正気ですか! か、彼らに謀られているかもしれないのですよ? 寝首をかかれでもしたら――」
「では、セイバーが寝ずの番をしていればいい。あとで夜食でも持って行こう」
「はい? や、やしょ……、な、なんなのですか、貴方は! 戦う気がないというのは――」
「言っただろう、セイバー。聖杯戦争はしない。こいつを鍛え直すのだと」
「う……、で、ですが……」
「まあ、一晩で証明になるかはわからないが、存分に確かめてくれたまえ」
 アーチャーはそう言って、凛とセイバーを離れへと案内するため立ち上がった。



「なあ、俺は放置なのか?」
 居間へ戻ると、不機嫌な顔の士郎がアーチャーを待っていた。
「お前に意見する資格などない」
「て、てめえ…………」
「悔しかったら、私がまともに戦えるくらいの魔力を流してみろ、未熟者」
「うぅ……」
 士郎は何も言い返せず、肩を落とした。だが、気を取り直したように、アーチャーを見上げてくる。その顔には、もう不機嫌さなどは窺えない。
「あのさ、一つ……、訊いてもいいか?」
 気を遣われていると明らかにわかるような態度を取られては無下にもできない。
「なんだ」
 仕方なくアーチャーは、士郎の質問に答えることにした。
「さっき、十年前にも聖杯戦争があったって……言ってたよな? もしかして、その……、十年前にあった火災って……、何か、関係が、ある……のか?」
 アーチャーは僅かにだが、目を瞠る。十年前に聖杯戦争があったという話は出ていたが、それが大火災をもたらしたというような話にまではならなかった。おそらく、凛はあの火災が聖杯戦争によるものと認識していないのだろう。だとすれば、居間にいた四名の中でその真実を知っているのは、アーチャーと当事者であったセイバーくらいだ。
 だが、セイバーは敵か味方かわからない者たちに手の内を明かすほど軽率ではない。したがって前回の聖杯戦争について彼女は何も言わなかったのだ。だというのに、士郎は十年前の火災と聖杯戦争を結びつけて考えている。
(この衛宮士郎は、どのときとも違うのかもしれない……)
 アーチャーが経験した今までの聖杯戦争で、同じ結果があった試しなどない。ならば、その主要な人物である衛宮士郎の為人に、多少の誤差が生じている可能性もある。
「…………やけに察しがいいじゃないか」
「え…………」
「その通りだ」
 自分で予想を立てていたクセに、士郎は驚いている。いや、驚いているというよりも、どこか辛そうな表情を浮かべた。
「だったら、もし、また、あんなことが起きたら、また……」
 ああ、そうか、とアーチャーは合点がいく。士郎は起きもしない火災を想像して胸を痛めている。誰も泣かない世界を望み、愚かな理想を貫こうとした片鱗が垣間見える気がして、アーチャーはゾッとした。だから、はっきりと否定する。
「起きはしない」
 そんな未来は絶対に来ないと、士郎にわからせるために語気強く、迷いなく。
「な……、なんで、そんなことがわかるんだよ?」
「凛は魔術師として優秀だ。そして、セイバーのクラスはサーヴァントの中では最強と言われる。その二人がタッグを組んでいるのだ、負ける確率など、万に一つもないだろう」
「なんだか、見てきたような口ぶりだな?」
「……お前では彼女たちの足元にも及ばない、ということだ」
「な、なんだと!」
「明日から鍛えるぞ。今夜はしっかり寝ておけ」
「え? ほ、ほんとに? 鍛えるって、……本気?」
「嘘などつくか、たわけ」
 アーチャーは台所に入り、勝手知ったる動きで冷蔵庫から冷やご飯を取り出し、温めている。
「おい、勝手に何して、」
「寝ずの番をしているセイバーに夜食を作る。先ほど約束したのでな」
作品名:BUDDY 1 作家名:さやけ