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BUDDY 1

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 約束というようなものではなかったが、アーチャーから持っていくと言った手前、用意しないわけにはいかない。
「さっさと寝ておけ。バテても知らんぞ」
「わ、わかったよ」
 まだ何か言いたげな士郎だったが、結局、居間を出て行った。不貞腐れているのもあるだろうし、腑に落ちないと思ってもいるのだろう。
 遠ざかっていく士郎の足音を確認し、完全に気配が察知できなくなった頃、アーチャーは大きなため息をこぼした。
「いったい、何の因果か…………」
 ため息は、ますます深くなっていく。
(まさか、衛宮士郎がマスターになるとは、思ってもみなかった……)
 思わず額を押さえて項垂れてしまう。
「どうするのだ、これから……」
 とりあえず、聖杯戦争には参加しないと決めた。
 これは、士郎をマスターにしたアーチャーにとって、生き残るための必須条件だ。
 何しろ、現界させるだけで精一杯の、ほとんど魔力を提供できないマスターではサーヴァントを駆使できはしない。しかも今、現界できていることですら、アーチャーには納得のいく理由が見出せないのだ。なぜ、己が現界できているのかと、いくら考えても不思議だということしかわからない。
 同じ派生の存在であるということがなんらかの影響を与えているのだろうということは、ほぼ間違いないだろう。そして、宝具の展開さえしなければ、この世界に存在できるくらいには、微々たる魔力が補えている。
(生き残れるのだろうか……?)
 勝ち残るのではなく生き残る、もしくは士郎だけでも生き残らせる。士郎を鍛えることを名目に理想を追うことを諦めさせ、英霊になどならない衛宮士郎にごくごく普通の人生を歩ませる。それがアーチャーの目的だ。
 だが、こちらに戦う意思がないとしても、向こうはそうとは限らない。おそらく、この聖杯戦争で争われる聖杯も壊れていて、まともな聖杯戦争(聖杯戦争自体がまともとは言えないが)になることはない。したがって、最終的にセイバーが聖杯を破壊するという結末に落ち着くのではないかという、漠然とした予感がある。
 しかし、それは、アーチャーだけが知り得る経験である。本当に聖杯が壊れているという確証はなく、他のマスターとサーヴァントには聖杯戦争は殺し合うものだという認識しかないのも事実。
 だとすれば、このような最弱とも言えるマスターとサーヴァントなど、まず最初に消されてもおかしくはない。
 そうならないために、喫緊の案件として士郎の能力強化が目指される。
「これは、チャンスと捉えればいいのか、それとも、罰ゲームか……」
 おにぎりを握りながら宙を見上げ、アーチャーは途方に暮れてしまった。



 凛とセイバーは、心から、というわけではないが、アーチャーの言を信じることにしたようだ。
「勝手にやってくれ」
 吐き捨てるように言ったアーチャーに凛は肩を竦め、
「わかったわ。そのかわり、夜にあんたたちを見かけたら、容赦しないわよ?」
「もちろんだ」
「じゃあね、アーチャー。朝食、美味しかったわ。ごちそうさま」
 凛とセイバーを見送り玄関戸に鍵をかけたところで、鞄を持った制服姿の士郎が現れた。
「俺も、学校行ってく――」
 皆まで言わせず、士郎を、びたん、と床に押さえつける。アーチャーの手が、その頭をがっしりと掴んだ。
「ってぇな! 何しやがる!」
「馬鹿か、貴様! お前はしばらく謹慎だ!」
 前頭部を押さえつけ、じたばたと暴れる士郎に怒鳴れば、即座に反発してくる。何もかもを把握していないから当たり前なのだろうが、アーチャーはこめかみにうっすら青筋を立て、状況判断のできない己がマスターに、ここぞとばかりのため息を吐き出す。
「謹慎? なんでだ! 俺は現役高校生だぞ! 学校行かなきゃ――」
「そんなことはわかっている!」
「え? サーヴァントって、そんなこともわかるのか?」
 アーチャーがどこぞの英霊だということをなんとなく知っていても、まさか現代のことに詳しいと思っていなかったのか、士郎は前の勢いを引っ込めて訊ねてきた。
「当たり前だ! いいから来い!」
 アーチャーは士郎の頭から首根っこに掴みどころを変えて引きずっていく。
「ちょ、おい! 離せよ!」
 なんだかんだと喚く士郎を無視し、居間へと入ったアーチャーは士郎を畳に放り投げ、障子をピシャリと閉めた。
「な、なんだよ……、そ、そんな怖い顔したって、お、俺は、」
「理由《ワケ》を話す。おとなしく座れ」
 静かに言うアーチャーの有無を言わせない圧に押され、士郎は渋々といった感じで座卓の前に胡座をかいた。
 それを確認して正面に座ったアーチャーが姿勢を正したものだから、士郎もつられて正座に座り直す。
「昨夜、凛とセイバーには言わなかったことがある」
「え? どういう――」
「口を挟むな。黙って聞け」
「う……、わ、わかったよ」
「私は三度、この冬木の聖杯戦争を経験している」
 淡々と語られる内容に、士郎は口を挟むこともなく、驚いた顔を戻せないまま黙って聞いていた。
 聖杯戦争の事細かな内容は省いたが、アーチャーが何者で、いったいどういう英霊なのかという話を抑揚なく語っていく。
「それって、まさか…………、アンタ……」
「ああ、そうだ」
 士郎の言葉にならないその先を頷きで肯定すれば、士郎は呆然とし、そうして、ぽつり、とこぼした。
「……アンタ、俺……なのか…………?」
 その問いに、アーチャーは苦笑をもらす。
「正確に言えば違うモノなのだろう。私は遠坂凛に命を救われ、聖杯戦争を経験し、やがて理想の果てまで突き詰めたエミヤシロウであったモノ、というだけだ。衛宮士郎であったときの記憶はすでに薄れ、記録としてただこの身……いや、この魂と言うべきか、そのどこかに残っているだけで、お前と私が同一のモノということではない。したがって、お前は私ではないのだ」
「し……んじ、られ、ないけど…………」
「物的証拠などない。ただ、お前と私の魔術回路はそっくりどころか、同様のものという事実があるのみ」
「だから、俺を鍛える、って?」
「ああ。何しろ、魔術師であることすらズブの素人であるお前をマスターにしているのだ、正真正銘、最弱のサーヴァントだろう。したがって、この聖杯戦争を生き残るためには必要だ」
「だから、参加しないって?」
「ああ」
「じゃ、じゃあ、鍛えることなんて、」
「聖杯戦争はマスターとサーヴァントの殺し合いだ。参加しないと言いつつサーヴァントを所持していれば、それは口先だけのことだと思われてもおかしくはない」
「で、でも、遠坂はわかってくれたじゃないか」
「彼女は、相当理解があるというだけだ。まあ、セイバーをサーヴァントにしているという余裕もあるのだろう。そして、彼女は少し未熟なところがある、ということだ。わかってくれた、というのではなく、我々は今のところ脅威にはならないと判断しただけだろう。今後、こちらがなんらかの行動を起こせば、彼女たちはすぐに我々を潰しにかかる……」
 言葉もなく視線を落とした士郎に、アーチャーは、ふぅ、と息を吐く。
「お前を鍛えるのは、万が一のため。そして、お前が私にならないため、でもある」
「え? アンタに? どういう意味だ?」
作品名:BUDDY 1 作家名:さやけ