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BUDDY 1

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 士郎は身支度を整えてから、アーチャーは朝食の準備を整えてから、毎夜魔力供給のために同衾してはいるが、それぞれやることを済ませてから、今朝も士郎とアーチャーは道場に集合している。
「あ、あのぅ……、へ、変なこと言って、悪い……」
 アーチャーの顔つきで、ようやく可笑しなことを言ったのだと理解したらしい士郎は、即座に謝ってきた。
「わかればいい」
 前の質問を聞かなかったことにしたアーチャーは小声で詠唱し、夫婦剣を投影する。柄を握る手に馴染んだ感覚は、マスターが誰であろうと、魔力量が少なかろうと変わらない。
「お前も出せ」
 その様子を呆けた顔で見ていた士郎は、はっとしてうろたえた。
「は? え? そ、そんなの、やったことな――」
「なくてもできる。魔術回路のすべてが開いているのだ、あとはお前の力でなんとでもなるだろう」
「で、でも、」
「つべこべ言うな。敵は待ってくれない。いくぞ!」
 床板を蹴ったアーチャーは、右手の剣を振りかざした。
「わ、わわわっ、ちょ、ちょっと、待っ、」
 いまだ剣すら投影できていない士郎は慌てて後退る。
「イメージしろ!」
「うあ、はっ、はい!」
 士郎があまりにも素直に返事をしたので、アーチャーは思わず剣を振り下ろす途中で動きを止めてしまった。
「う? え? な、なに? も、もしかして、ドッキリとか、か?」
「…………なわけがない」
 止めたところから振り下ろした剣は、さほどの威力を持っておらず、士郎がどうにか投影した、アーチャーと同じ夫婦剣に受け止められてしまう。
「む」
「うわ、できた」
 いきなりで、それも初めてで、投影魔術などという技を使えたことに純粋に驚いている士郎の脇腹をアーチャーは軽く蹴りつける。
「あぐっ!」
 軽く、と言ってもサーヴァントの蹴りだ、人間のそれとは違う。横に吹っ飛んで壁に当たった士郎は息ができないようで、脇腹を押さえて蹲り、呼吸をしようと喘いでいる。
「油断をするな」
「っ、っ――――、ぅ、う……」
 ようやく呼吸を戻し、どうにか身体を起こした士郎は、涙目で睨みつけてくる。悔し涙もあるだろうが、脇腹へ喰らった衝撃からの生理的な涙が主だろう。
「ハッ! いい面だな」
「うぐぅ、アンタっ、めっちゃくちゃ性格悪いな!」
「フン。貴様が未熟なだけだ」
「アンタみたいなのが俺とおんなじ派生だとか、ほんっとに嫌気がさす!」
 ようやく呼吸を戻した士郎は、すぐさま言い返してきた。
「奇遇だな。私もお前と元を同じにしていると考えると、寒気がする」
「ぐう……、絶対、負かす!」
「やってみろ未熟者」
 元来の負けん気を前面に出してきた士郎を軽くいなすアーチャーは、これでは鍛錬というよりも、ただの喧嘩だ、と中空を見上げつつ思っていた。



 凛とセイバーが転がり込んできて三日。聖杯戦争は中休みなのかと疑いたくなるほど動きがない。
(おそらく柳洞寺に拠点を移して着々と準備を進めているのだろうが……。何も起こらないというのは、不気味なものだな……)
 深刻な顔に似合わないほど手際よく洗濯物を干すアーチャーは、どんよりした厚い雲を見上げる。
「乾き、悪そうだな、今日は」
 不意にかけられた声に振り向けば、手伝いに出てきたらしい士郎がアーチャーの側に置かれた洗濯カゴからバスタオルを取り上げている。
「寝ていなくていいのか?」
「うん。もう平気」
「そうか」
 昨夜、就寝前の鍛錬で少々無理をしてしまい、士郎は動けなくなった。何しろ、士郎の魔術回路は開いているが、十全に機能しているわけではない。聖杯戦争に合わせて急ピッチで魔術回路と身体を整えている途中である。
 無理をしているのはわかっていたが、何ぶん、士郎を主としたアーチャーではギルガメッシュを相手にどこまで戦えるかわからない。魔力の増強はそう簡単にできるものではないために、士郎も一戦力として頭数に入れなければならなくなった。
 互いに気負っていたことは否めない。だからといって、来たる決戦の日に動けません、では済まされないというのに、やりすぎてしまった。
(焦っていたわけではないのだが……)
 凛とセイバーには万全の準備をしてもらわなければ一分の勝利も見出せなくなるので、彼女たちにおんぶに抱っこというわけにはいかない。自分たちの身は自分たちで守り、尚且つ、彼女たちが勝利をおさめられるようサポートする。
 であれば、そこに向けた鍛錬に熱が籠もってしまうのは仕方のない話だ。アーチャーだけではなく士郎自身もそういう考えであるため、厄介なことに止める者がいない。
 案の定、昨夜は少しやりすぎた。士郎の魔術回路の未熟さを考慮しなければならないというのにそれを怠った。士郎の方も、無理だ、できない、とは安易に言わない性分であるため、やはり歯止めを失っていた。
「……いや、やはり、寝ていろ」
 アーチャーは手にしていたシャツをカゴに戻して士郎に向き合う。
「大丈夫だって」
 士郎はこちらを見ることもなく、アーチャーが戻したシャツを取り、ハンガーにかけて竿に干している。
「今夜になるかもしれない。そうなれば――」
「身体も、もう普通に動く。それに、なんとなくだけど、大丈夫そうな気がする」
「気がする、というだけで万事がうまくいくと思うな未熟者」
「本当だって。足を引っ張ったりしないから」
「そういう話ではない。…………いや、引っ張らなくとも、お前が命を懸けてしまっては元も子もない」
「……え?」
 目を瞠った士郎がアーチャーを振り向いた。
「自分の命を、勘定に入れていないだろう」
「え…………っと、あ、ぅ……」
 図星だったようだ。士郎は口を開けずに視線を落とす。
「まったく……」
 ぽす、と士郎の頭に片手をのせて、アーチャーはため息をこぼした。
「それでは私が軌道修正している意味がない。お前は、聖杯戦争の後に現界する意味を私に与えてくれるのだろう?」
「あ…………」
「強敵を前に覚悟する、という心意気は認めよう。だが、自身の命を投げ打つのは少し違う。お前の命はお前のものであると同時に、周囲にいる人々のものでもあることを忘れるな」
「周囲の、人……?」
「確かにお前の人生だ。その身をどう扱おうと、その命をどうしようと勝手ではある。だが、お前は独りでここまで生きてこられたわけではないだろう?」
「そう……だけど」
「命を投げ出すのは簡単だ。そして、投げ出した本人は満足だろう。誰かのためにその身を投じていると思える状況であればなおさらな。しかし、その結果、お前の周りにいた人々がどうなるのか、想像してみたことはあるか?」
「どう…………、なる……か?」
「思い浮かべたこともないのか……。まったく、重症だな」
「あ、アンタだって……、っていうか、アンタは、そうしてきたから英霊なんてものになって――」
「だからだ」
 くしゃり、と赤銅色の髪を手荒く撫でる。
「こんなものになるな」
「え……? こ、こんな……?」
作品名:BUDDY 1 作家名:さやけ