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BUDDY 2

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 だが、切嗣が亡くなり、大河も大学生になれば、士郎に指南する時間が取れなくなり、いつの間にか大河に稽古をつけてもらうこともなくなっていた。それからの日々は、士郎が一人で自分自身を鍛える、我流だったと言える。
 そんな士郎が数日前から、他人(人ではないし、赤の他人とも言えないが)に師事するようなことになり、くたくたに疲れていたとしても、それは心地好い疲れというやつだ。
(不謹慎だけど……、俺、楽しいと思ってる……)
 聖杯戦争などという物騒なことが起こっているというのに、それに参加するためではなく、士郎を鍛えるためにアーチャーは士郎と契約を結ぶことを了承している。
 それが、とても贅沢なことだと士郎はわかっていた。
(だけど……)
 胸に巣食うモヤモヤが日毎に大きく膨らんでいる気がして、士郎は見つめた板間から膝の方へ目を逸らす。
 膝に置いた手を握りしめて、じっとアーチャーの診察が終わるのを待っていた。



「ぅぐう…………」
 身体がバラバラになったような状態のまま身動きが取れない。
 道場から自室へ放り込まれた士郎は、畳の上に寝転んだまま、いまだ動けずにいる。どうにかして楽な体勢になろうと思うのだが、アーチャーに投げ出された格好のまま指一本動かせず、布団すら敷くことができない。
 自分ではどうすることもできない、万事窮す、ということになっている……。
 魔術回路の診察を終えたアーチャーは、夕方になり、問題なさそうだと言い、夕食後の鍛錬の時間に、士郎の魔術回路を開いた。
 今まで、たった一本の魔術回路に僅かずつしか魔力を流していなかった状態から相応の魔力を流せるようになった士郎であったが、いきなり、すべての魔術回路を解放されて、しかも魔力を流してしまい、その反動に身体がついていけていない。
「あん…………の、やろ…………」
 悪態を畳にこぼすくらいしかできることのない士郎は、かれこれ二時間この状態である。身体の下側、畳にへばりついた箇所が痛みだしているが、動けないのでどうすることもできない。せめて敷布団、いや座布団くらいでも身体の下にあればマシなのだろうが、押入れから布団を出したり座布団を敷けるのなら、はじめからそうしている。
「なんだ、まだ動けないのか」
 呆れた声が聞こえるものの、振り返ることもできず、そちらに目だけを向けた。
「はぁ……。未熟者め」
 迷惑顔でため息を吐かれても、反論できない。
「まったく……」
 もう何度、呆れさせただろうか、と士郎は悔しさに唇を噛みしめた。
 理想を追う道が楽なものではないとわかっていたつもりだが、それに伴う実力が自身に全く備わっていないことをまざまざと見せつけられたのがこの数日だ。
 自分がどれほど甘ちゃんだったかと知り、恥ずかしさといたたまれなさに苛まれる日々だった。
 だからといって、理想を追うことをやめるという結論には向かわない。今まで続けてきた鍛錬を、さらに充実させることができている、と実感しているからだ。
 理想に近づいたとは言えないが、確実に一歩、踏み出せていると自負できる。それもこれも、突然現れたこの男のおかげで。
 手際良く布団を敷き、軽々と片腕で士郎を抱え、布団の上に落とす、この慇懃無礼な態度を憚らないサーヴァント。
 その実、士郎を鍛え、己と同じ徹を踏まないように導こうとしてくれる、おかしな優しさをもった、英霊となったエミヤシロウ。
「問題ないか?」
 布団に投げ出されたことを心配しているのではなく、アーチャーの心配は士郎の魔術回路のことだと重々承知している。それが使えなければ、万が一にも聖杯戦争に参加することになった場合、戦うこともできないのだから。けれども、一言くらい士郎自身を心配するような言葉が出てもいいのではないかと恨みがましく思ってしまう。
(嫌いなんだろうけどさ……)
 身動きのできない者を前にして、なんら労りの言葉もないというのは、人としてどうなのだ、と言ってやりたくなる。
(いや、人じゃないんだけど……)
 かつては人であった、英霊となったエミヤシロウは、士郎のことを厄介で未熟なマスターくらいにしか考えていない。だから、おざなりな扱いを受けるのだということもわかっていた。
「た…………ぶ、ん……」
 士郎には、魔術回路に問題があるのかないのかと訊かれてもわからないので、そう答えるしかない。
「……身体はどうだ」
(え……?)
 思ってもいなかったことを訊かれて、士郎は喉をつまらせながら、見ての通りだと、どうにか答える。
「まあ、魔術回路のことは、わからんだろうが……」
 わかっていたなら訊くな、と言いたいところだが、うまく呂律も回りそうにないので、士郎は黙って、こくり、と頷く。
「そのうちにわかるようになる。私でも自力でどうにかなったのだ。指導されているお前ならば、それほど時がかからずに魔術回路のことも魔力のことも理解できるようになり、使えるようにもなる」
 呆れたり、馬鹿にしたり、放置したり、そんな散々な扱いをするクセに、アーチャーは時折、こういう優しさを見せる。
 それを気恥ずかしさとともに、どこかうれしく思っている士郎は、どう反応すればいいか困ってしまう。
 感謝を述べればいいのか、いつもどおり意地を張って反発すればいいのか……。
 またモヤモヤとして考え込んでしまう士郎の身体は、急に、ごろん、と反転させられた。
「う?」
 なんだ、と訝しさを込めてアーチャーを見ると、
「供給だ」
 静かに言ったアーチャーは、士郎のシャツを許可も取らずに剥ぎ取り、腕を回して抱き込んでくる。
 体表面の接触を増やせば、より多くの魔力を流すことができる。本来ならば一糸纏わぬ方がより効果的ではあるのだが、男同士でそれはちょっと、と互いの意見が珍しく一致した。したがって、上半身だけ脱ぐ、というやり方でお互い納得することになっている。
 士郎の魔力は、微量ずつだがアーチャーに流れてはいる。が、詰りがちの魔力の流れで絶対量が足りないために、こうして日々、接触して魔力を供給しなければならない。
 ――――ちょっと、俺、そんな趣味ないんだけど……。
 ――――オレとてないわ、たわけ!
 という、やりとりは初日にやり尽くした。なので、今はもう、すんなりとこの状態になれる。慣れてしまったというわけではないが、必要以上に反応しては余計に恥ずかしくなったり、変な雰囲気になってしまう危険性があるというのが双方の結論だった。
 互いに衛宮士郎であるだけに、こういう思考加減はリンクしたように同じになる。それがいいか悪いかは別として、皆まで言うな、というお互いの着地点を見つけることに、そう苦労しなくていいというのは利点でもあった。
(あれ? そういえば、向きが……)
 アーチャーに背後から抱き込まれてからしばらく経って、士郎はふと気づく。
(身体の向き、変えてくれたのか)
 ずっと下敷きになっていた部分は痺れていたので、明日にはどこかしら痛むのではないかと思っていた。
(身体、痛かったから……、楽になった……)
 柔らかな布団に体を預けたことと背中からの温もりとで、士郎はウトウトしはじめる。思考が霧散していく中、アーチャーの気遣いに、
作品名:BUDDY 2 作家名:さやけ