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ボクのポケットにあるから。

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「でも、さゆりんでござろうな……」あたるは眼を尊そうに細めて言った。「小生がもしも、大金持ちで、ハンサムで、甲斐性もあって、単推しで、こんな根暗じゃなかったのなら、さゆりんごを迎えに行きたかったでござるよ。白馬に乗って」
「ダーリンはカッコイイと思うよ?」夏男は不思議そうに言った。「モテたんじゃないの? 学生時代とか」
「カッコイイという誉め言葉は、受け取っておくでござるが、街を歩けばスカウトの声が飛び交うあの四人とは、少々モテる世界が違い過ぎるでござるよ」
「自信持ちなって!」夏男は本気でそう言った。「ダーリンは素敵だよう。素直だし、正直だし、顔だってハンサムだよ?」
「小生の顔に騙(だま)されて告白してきた女子が何人かいたでござるが、わかってないでござるな。小生の基本的な闇を」あたるはにこやかに、夏男に言った。新しい煙草に火をつける。「小生は、女の子を守れる器(うつわ)じゃないんでござるよ。今も乃木坂に、さゆりんに、守られてるでござる……」
「乃木坂を全力で応援してるじゃない」夏男は眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せてあたるに言った。
「それは、はい……」
「乃木坂を輝かせている光の一部だよ、ファンだって」夏男は思った事を言った。「ダーリンは乃木坂の事で本気で落ち込んだり、本気で喜んだりできる人じゃない。それってすっごい素敵な事だと思うよ。誇りに思いなよ、乃木坂を」
「自分の一部、でもあるでござるから」あたるは笑みをほどほどにして言った。「叩かれれば痛いし、評価されれば嬉しい事極まりないでござる。いつからか、自分自身の存在を忘れ、乃木坂の事を自身の中心に置いてきたでござる……。誇りでござるよ」
「そっか。それで、さゆりんさんが卒業しちゃう事で、さゆりんさんがいなくなっちゃう事で、小さな存在だった自分が見えてきちゃうんだね。乃木坂という大きなベールで隠れていたものが、一人欠ける事で見えちゃうわけか」
「そんな、隠れみの、みたいに言わないで下され……」あたるは顔をしかめて言った。
「ごめんごめん。言い方ね、あは」夏男は旨そうに煙を吐き出して、短くなった煙草を灰皿にねじ込んだ。「でもダーリンは、これからも乃木坂を守っていかないとダメだよう? 感謝は形にしないとね」
「乃木坂なら守れるでござる」あたるは大きく眼を見開いて言った。
「え? そうなの?」
「乃木坂は小生にとって、神でござるゆえ、忠誠心があるでござるよ。全力で応援していく事で、何からでも守って守って、守り抜いていってみせるでござる!」
「さゆりんごさんの卒業ライブも、そんなふうにちゃんと見送れた?」夏男は笑顔だった。
「はい」あたるは大きく、頷いた。「史上最高に可愛いで溢れた卒業ライブでござった!」
「あと何日で、さゆりんごさんは卒業しちゃうの?」
「あと、八日間、でござる」あたるは顔を毅然としたものに変えた。「七月十三日のショールームが、小生としては、さゆりんの乃木坂としての生の顔を見れる最後の日でござる」
 次の瞬間、突然に〈センター〉の出入り口が開いたのであった。施錠はしてあったはずである。
「誰か、来た?」夏男はキッチンテーブルの椅子から立ち上がる。「熊じゃ、ないよね……」
「この声は……」あたるも席を立ち上がった。
 二人は沈黙し、キッチンのドアに注目する……。
「おー。どうも、夏男さん。元気してるか、ダーリン」
 キッチンのドアから姿を現したのは、登山服に身を包んだ風秋夕(ふあきゆう)であった。
「夕君じゃん!」夏男は喜ぶ。「久しぶりだね~、どうしたのう?」
「夕殿……」あたるは夕を見つめてフリーズする。
「迎えに来たんだよ」夕はテーブル席に着席して、煙草を一本抜き取って、それを口に咥えてライターで火をつけた。「十三日に、ショールームでまちゅのラスト放送やるだろ、それ五人でちゃんと見届けようぜ」
「その為に、わざわざ……」あたるは驚愕している。
「ラインすれば良かったんじゃない?」夏男は夕に言った。
「既読ついてないから、このサムライさんは……」夕は呆れ口調でそう言って、旨そうに煙草の煙を天井に向けて吐いた。「いつ既読つくかわっかんねえし、夏男さん電話線、繋がってないし、来るしかなかったんですよ」
「あらあ!」夏男は表情を大きくして驚いた。
「そうでござったか!」あたるも驚いて、恐縮した。「かたじけないでござる!」
「フー……。センターかあ、懐かしいなあー」夕は部屋を見回して言った。「ここが歴代に語り継がれる、ヲタの聖地、てわけだ……」
「今俺の家だけどね」夏男はふふっと笑った。
「夕殿、小生、あと一日どこか近くのガードマンでバイトせねば、帰りチンが無いのでござるよ」
「そんなん出すから、ちゃんとファン同盟に顔出せ」夕はあたるを指差して言った。
「今度は、東京で、さゆりんごに会えるんでござるな!」あたるは満面の笑みだった。
「夏男さん、今日は泊まらせて頂いて、明日の朝出ますので……」夕は丁寧に夏男に言った。「御迷惑おかけします」
「いいっていいって、親友の息子なんだから、この夏男おじさんに何でも言ってよう!」夏男はそう笑顔で言った後で、笑顔を苦笑させて、夕に言う。「あのう……、煙草、あります?」
「お土産に五カートン買ってきましたよ」夕は背負っていた大型のナップサックを見せた。
「いやー、さすがだね、夕君。ウパの息子なわけだ!」夏男は喜ぶ。「わーい!」
「ダーリンも、リリィにいればまちゅと会える回数だって増えるだろうに」夕は眉を顰めてあたるに言った。
「小生にも、心の事情があるでござるよ。さあ! 明日にはリリィ・アースでござぁる! さゆりんと会えたとしても、ちゃんと笑顔でいるだけの心の栄養分は摂取したでござるよ! かかってこいリリィ・アース! 草!」
「夏男さん、今晩は飲みましょう」夕はにこやかに夏男に言った。「酒もつまみも持ってきたんで」
「うわあ重たかったでしょう!」夏男は満面の笑みである。「うっひょー!」
「さ、ダーリンも吞んで、明日までぐっすり眠るぞ」
「はて? 夕殿は、どこで生ドルを観たでござるか?」あたるはふと湧いた疑問を口に出した。
「空港」夕は完全防水の大型のナップサックから、食料と飲料を出してテーブルに並べていく。
「おおお!」あたるは声を漏らした。
「大宴会だねえ!」夏男ははしゃいだ。「え、写真撮ろうよ三人で!」
 夜も更けてゆく中、野鳥たちの鳴き声が聞こえていた。昆虫の合唱団。セミのオーケストラ。強く吹き抜けていく一陣の風の轟轟とした音。
 そのどれもが山のBGMとなって、三人は晩くまで松村沙友理の話に耽っていった。

       7

 駅前木葉はその光景に微笑んだ。巨大地下建造物〈リリィ・アース〉の地下二階エントランスのメインフロア、その東側のラウンジに通りがかると、そのソファ・スペースに乃木坂46一期生の高山一実と乃木坂46卒業生の西野七瀬と、乃木坂46一期生の齋藤飛鳥と同じく乃木坂46一期生の星野みなみが、珍しい組み合わせで談笑していたのである。
 駅前木葉は携帯電話を取り出して、稲見瓶と磯野波平に素早くラインを送った。内容はその場の光景を言葉に表したものである。