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ボクのポケットにあるから。

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「あー、木葉ちゃんじゃーん」
 駅前木葉の姿を確認して、高山一実が声を掛けた。駅前木葉はこの際だと、遠慮なく四人の座るソファ・スペースへと赴(おもむ)く。
「お疲れ様です、皆さん」
「木葉ちゃん、なかなか会わないねえ」一実は屈託のない笑みで駅前に言った。「あー座んなよー。あ、じゃどうしよ、あ、じゃー、なぁちゃん、私の隣においでよ」
「はぁい」七瀬は一実の隣に移動する。「木葉ちゃん、そこ、座って」
「ああ、ありがとうございます」駅前は恐縮して、もともと七瀬が座っていたソファに腰を落ち着けた。「皆さん、珍しいメンバーでお話しているんですね」
「あー、ねー、そうかも」一実は微笑んだ。「なぁちゃんと私はさっきここ来たんだけど、あすとみなみちゃんが最初にここいたんだよね?」
「偶然会って、ね」飛鳥は通常通りの抑えめのテンションでみなみに言った。みなみも頷いている。
「木葉ちゃん、今日はー、仕事? 晩くない?」一実は駅前に驚いた表情で言った。
「ええ、希望残業で」駅前はにこり、と微笑む。「無我夢中でいる事が、今は一番落ち着きますから……」
「……あー、なるほど」一実は納得する。
「何?」みなみは不思議そうに一実にきいた。
「いやほら、乃木坂がね、沢山卒業しちゃうから」一実はみなみに説明して、駅前を一瞥して言う。「この時期、一番寂しいんだよね、木葉ちゃんたちは」
「はい」駅前は上品に頷いた。
「あ、ねえ夕君は?」みなみは駅前に言った。「いなくなぁい? てか夕君がいないって、ありえなくない?」
「あー、いっつもいるからね、奴は」飛鳥は納得する。
「秋田県に、ダーリンを迎えに行ったそうです」駅前は皆に説明する。「この卒業ラッシュで、ダーリンが山奥に引きこもってしまって、それを、迎えに行ったみたいですね」
「またか」飛鳥は小さく笑った。「いっつも行くじゃん、秋田」
「あれダーリンって、秋田県出身だっけ?」一実は皆を見回す。「北海道じゃなかったっけ?」
「新潟じゃない?」飛鳥は素っ気なく言った。
「新潟ってきいた」七瀬は飛鳥を一瞥して、一実に言った。
「あ新潟かー、新潟だー」一実は大袈裟に納得する。
「ダーリンは確か、新潟の長岡出身ですね」駅前は思い出しながら言った。「雪国の生活は、冬は大変そうでした。本人はスノーダンプでの雪かきが苦手だったと、確かきいた記憶がありますね」
「スノーダンプ、て何?」みなみは駅前にそう言ってから、皆を見回して微笑む。「え、知らないのみなみだけ?」
「雪かきの、スコップやシャベルよりも大きな、ちりとりみたいな形の道具なんです」駅前はみなみに説明した。
「へ~」みなみは感心する。
 駅前木葉は納得している星野みなみの顔が可愛すぎて、緊張しながら己の長い髪の毛を手ぐしで整えた。
「木葉ちゃんって、髪、綺麗だよね」一実は駅前に言った。
「いえいえ、皆さんほどではありませんし、ただ染めない分、ダメージが少ないだけです」駅前はそう言ってから、飛鳥を見る。「飛鳥さんは、お染めにならないんですか?」
「んー、あー、染めないねえ」飛鳥は思い返すような表情で言った。「乃木坂に入ってから染めた事ないなぁ」
「今後も?」一実は飛鳥にきく。
「今後ぉ?」飛鳥は一実を一瞥して、小首を傾げる。「どうかな……」
「なぁちゃんとみなみは、よく髪染めてるよね」一実はにこやかに言った。
「染めたり、戻したり、暗くしたり」みなみは微笑んで答える。「ほんと気分」
「それって、事務所の方とかに報告しないで、自発的に髪を染める事は許されているのですか?」駅前は興味深そうに、皆の顔を見回した。
「あー、大幅にー、変える時は? 確かに報告とかするけど」一実は考えながら言った。「ちょっとの変化だったら、言わなくていいよね?」
「言わなーい」みなみが言った。
「言わない、かな」七瀬も続く。
「私ね、一回だけ、夏休みに、ブリーチした事あるよ」一実は髪を整えながら皆に面白がって言った。「あのね、夏休み終わる時には、上からカラー暗く入れたんだけど、でもかなり、その時は明るかったかな、色的には」
「あ、なんか来た」七瀬は微笑んで言った。
 地下二階エントランスのメインフロア、その正面にあたる北側の三つある巨大な扉のうち、一番右手側にある巨大な扉から、稲見瓶と磯野波平が現れたのであった。
「おーおー、何だこのメンツは」磯野は面白がって言った。「すげえな、戦闘力五十三万越えのメンバーが集まってんな」
「確かに、フリーザより強そうだね」稲見は駅前の隣に着席した。「ここに座ってもいいかな? もう座ってるけどね」
「いやー、眠れねえ眠れねえ」磯野も稲見の隣にどかん、と座った。「まっちゅんが卒業すっと思うと、ねっむれねえのなんの」
「いつも何時に寝てるの?」飛鳥は磯野にきいた。
「三時ぐれえかなー」磯野は顔をしかめて答えた。「飛鳥ちゃんは?」
「まあまあ、その日その日で」飛鳥はうんうんと小さく小刻みに頷いた。
「イナッチはあ?」一実は稲見に笑顔を向ける。「いっつも何時に寝てるぅ?」
「四時ぐらいかな」稲見はそう答えてから、付け足す。「もう朝方だね。早い時は二時ぐらいに寝るけどね。乃木坂にもなると、スケジュールで、睡眠時間も大きく変化するんだろうね」
「あー」一実は頷いた。「そーだねー」
「うん」みなみも頷いた。それから、磯野の異常な視線に気づく。「何、なに……、何で見てるの?」
「見てるんじゃねえから、口説いてっから」磯野は爽やかなつもりの笑顔でみなみに言った。「すっげえ、口説いてっから」
「はぁ。波平、やめろ」稲見は溜息をついて、磯野に言う。「夕がいないと、俺が突っ込みか……。波平は常にボケなんだな」
「誰がボケじゃい!」そう言った後で、磯野は顔をしかめる。「あ?」
 駅前木葉が、稲見瓶の前に手を通して、磯野波平の肩をどついたのであった。
「下品な言動は乃木坂の応援団に相応しくなくてよ!」駅前は大きな声を上げて磯野に言った。
「お、おお……」磯野はしゅん、とする。
「ん、どっかで聞いた事ある……」七瀬は呟いた。
「うん」稲見は説明する。「初森ベマーズの、ポラリスのキレイちゃん、つまりまいやんの名台詞だね」
「木葉ちゃんつよーい」みなみはにこっと笑った。
 駅前木葉はぐい、と顎(あご)をしゃくらせる。
「それは下品じゃねえのかよ!」磯野は駅前の顔を指差して言った。「普通しねえだろんーな顔っ!」
「まあまあ」稲見は二人の仲裁に入った。実際に、体勢的に真ん中にいる。「見苦しいケンカはやめよう。みんなの前だよ、落ち着いて」
 笑い声が響く中、齋藤飛鳥が発言した。
「あの人達って、いつ帰ってくんの?」
「飛鳥ちゃーん、どうでもいいじゃんよー、あいつらなんてー」磯野は寂しそうな顔で飛鳥に言った。「特にあのいばってる方なんてー」
「波平君じゃない? いばってるのって」一実は楽しそうな笑顔で言った。
「俺はいばってんじゃねーの」磯野は堂々と言う。「いくちゃんと一緒よ、それこそ。俺はジャイアンなの。だボスだわな、つまり、言っちゃうと」
「夕君じゃないの? ボスって」みなみはそう言ってから微笑む。「ボスって、何か変だよね……」