ボクのポケットにあるから。
「次はタッカンマリで。タッカンマリはほんまに、タッカンマリはもう一生来んへんものやからあんまりなあ、そんな期待して注文したらあかん。難しいからあれは、タイミングが。ほんまに暇な時しか頼んだらあかん、あれは。うっふっふっふ、チキンとかの方がやっぱ、すぐ届く、たぶん。知らんけど」
「いつしかさゆりんと言えば、タッカンマリになったでござるな」あたるは思い耽りながら言った。
「あの放送からだな」夕は笑みを浮かべて呟いた。
「タッカンマリが来な~い……」磯野は下唇を突き出して、顔を歪めて松村沙友理のものまねをした。「あーれはな、かーわいかったよなあ?」
「乃木坂工事中でござる」あたるは微笑んで言った。
「去年のクリスマスに、まっちゅんさんとタッカンマリを食べました」駅前は上機嫌で微笑んで言った。
「タッカンマリ、あれきっかけで初めて食った人も多いんだろうな」夕はにこやかに言った。「俺と波平がそうだしな」
「おー食ったなあ!」磯野は上機嫌で言った。
「お! 今日写真集買って来たよーって、ありがとう、嬉しい~。あ、プロミス・シンデレラを見て頂けたみたいで、ありがと~ん。ありがと~、わかったかなあまちゅ~、てゆかねえ、ほんま、自分で見たらさぁ、自分が自分じゃないみたいで、凄い不思議やったんですけど、まちゅ出てるの見ました~?」
「写真集コンプリートしたぜ! まっちゅん!」磯野は笑顔で叫んだ。
「あんな、可愛すぎる中居さん、いたら、夢があるな」夕はそう呟いてから、渋く頷いた。
「通うね」稲見は無表情で言った。
「見てますよ、まっちゅんさん!」駅前は大きな声を上げた。
「玲奈さん凄い存在感の役だよな」夕は小さく笑った。
「写真集、まだまともに見れないでござる……」あたるは溜息をついた。
「からあげ姉妹な」磯野はにやけた。
「ポケモンの声優もやったんだもんなー」夕は感心する。
「可愛らしい声だった」稲見は小さく呟いた。
「矢久保ちゃんのブログ、読んだってさ」夕は誰にでもなく言った。「泣けるよな、矢久保ちゃん……」
「愛情を感じるね」稲見は夕に頷いた。
「握手会でさゆりんごパンチ、された奴多いだろうな~、あ~あ~、羨ましいぜえ」磯野は苦笑する。
「ファン同盟、全員行けた事ないからな」夕も苦笑する。
「アンパンマンのアンパンチとどっちが強いでござるかな」あたるが言った。
「宇宙を揺るがすんだぞ、さゆりんごパンチが本気だと」夕は笑みをこぼす。「最強の必殺技だって」
「おー、さゆりんごパンチされちった、ぐああ~!」磯野はイメージのダメージを負う。
「やられたでござる~!」あたるもそれに続いた。
「釣り堀、いくちゃんにプロデュースしたもんな」夕は思い出しながら言った。
稲見瓶は答える。「あれは秀逸だったね。まちゅは、プロデュースが上手だよ」
「さゆりんご軍団も、結局はまっちゅんのプロデュースだろ?」磯野はスクリーンを見上げたままで言った。「まっちゅんすげえよな、プロデュースしてもらおっかな、俺」
「えへへ~、て笑うよな、まちゅ」夕は笑みを浮かべて言った。
「よく笑う人だね。笑顔が似合うともいう」稲見が言った。
「この中に、写真集のロングインタビュー読んだ奴いる? ひよってる奴いる?」夕はふざけて言った。
「ひよってはないけどね、読んだ」稲見は夕に頷いた。「ひよってる、とは?」
「卒コンの衣装ヤバかったよなっ!」磯野は興奮していった。「あの、あのよ、前足が見えるやつなっ!」
「犬か……。前足ってお前……」夕は嫌そうに磯野を見る。
「たぶん、生涯で一番だね、可愛かった」稲見は少しだけ、赤面するのを気にした。
「ほんとにそうだな」夕は頷いて言った。
「お……、まっちゅんがしめのコメントに入るぞ」磯野は笑みを消した。
「人間としてはぁ、あまりよく出来た人間じゃないというか、色々と沢山周りの人にも、お世話になりながら? ……お世話になりながらぁ、この十年間ほんとに頑張って来れたんですけど、……。てかこんなぁ、…全然、自分には、何もない、私がぁ、今日この日、ほんとにぃ心からぁ、幸せでぇ、こんなに沢山の人に見守ってもらいながらぁ、最後の瞬間を迎えられるのってえ、……。ほんとに凄い事だなって思うしぃ」
「でもそうやってくれたのはぁ、沢山、今まで支えて下さったぁ、今もこれを見て下さってる皆さんだったりぃ、スタッフさんだったりぃ、ほんとに沢山の皆さんのおかげだと思うのでぇ、ほんとに私一人だったら全然、こんな事にはなってなかったと思うんで、……。乃木坂46に入ってぇ、沢山の、温かい人と出会えて、人間の、温かさに触れ、触れられてぇ、良かったなと思います」
「乃木坂46に入るまでは、私は、もう全然友達もいなかったし、どっちかっていうと一人で家でぇアニメを見たりとか、する方が好きだったけどぉ、乃木坂46に入ってぇ、沢山の人と会ってぇ、人と話すのも、ちょっと一緒に何かするのも大好きになったしぃ、ほんとに私の人生を変えてくれた存在だなって思います」
「沢山の人が、私とぉ出会えて良かったって言ってくれるけどぉ、私もほんとに心からそう思います。えへへへっへ……。嬉しい~。えー皆がねえ、沢山、乃木坂46に入ってくれてありがとうって言ってくれる数と同じだけ私は、私を、乃木坂46の一員として、こうやって、輝かせてくれてありがとうっていう気持ちでいっぱいです。んふふっふ……」
笑顔で涙する松村沙友理……。風秋夕も、稲見瓶も、磯野波平も、駅前木葉も、姫野あたるも、今は泣いていた……。
「そうかもう終わっちゃうんだなー……。終わっちゃいますねぇ……。んふふ……、寂しいー……。寂しいけど、あのぉほんと、皆さん、これから先ね、沢山、もしかしたら、大変な事、辛い事、あるかもしれないけどぉ、……。でもぉ、皆でぇ、これからも、支え合って生きていきましょ~う! へへへっえっへえっへ……。てへてへてへ……」
最後まで笑みを絶やさない松村沙友理は、どこか賢者のような凛々しさがあった。
「ああ~もうほんとに次皆さんと会う時は私乃木坂46じゃないんです~……。ふふふふふ~……あ~、もうほんと乃木坂46じゃあないんですけど、私は、いつまでも、乃木坂46の事ぉ、大好きで、応援したいなと、思います! ほんとに乃木坂46に入れて幸せでした! 皆さん、今まで本当にありがとうございました。でも今後とも、ただの松村沙友理、えへ頑張りますので、今後ともぜひ応援よろしくお願いしまぁす。ぜひ皆さん、また、会いましょうねえ~。ありがとう、皆大好き~、アイラビュ~、愛してる~。よし、えへへ、バイバ~イ」
乃木坂46としての、松村沙友理の最後のショールーム生配信が終了した。
風秋夕は、何も言わないが、ただただ、消えない笑みを浮かべ続けていた。
稲見瓶も微笑んでいる。磯野波平も、今は笑っている。駅前木葉は、少しだけ微笑んで、少しだけ、泣いていた。姫野あたるは、満面の笑みで言った。
「自慢の乃木坂46でござった……」
その言葉に、皆は黙ったままで、頷いていた。
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作品名:ボクのポケットにあるから。 作家名:タンポポ