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ボクのポケットにあるから。

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 続いて松村沙友理をセンターとした『フリー&イージー』が流れ始める。
 にこやかに、一生懸命踊る全員が輝いて見える。
 会場に手を振りながら走っていく乃木坂46の姿を見て、稲見瓶は、時を戻したかのような果てしなき哀愁に包まれ、涙した。
 続いて『ロマンスのスタート』の開始において、齋藤飛鳥がスティック・バルーンを叩いてくださいと、「よろしくお願いしまっちゅん」を用いて会場を煽(あお)った。

『皆さんこんにちは~、せ~の!』

『乃木坂46です!』

 秋元真夏のMCで、松村沙友理とのトークが始まる。歌のスタンバイに向かう乃木坂46のメンバー達をしり目に、齋藤飛鳥を交えたトークでは、思い出ではなく、これからを考えたいとの名言も出た。
 だがそれは髪型の事だった。しかし、意外にも髪型の話題は会場を巻き込んで大いに盛り上がった。
 ツインテールが人気だったが、齋藤飛鳥が松村沙友理に対して「二十九歳?」と問うと、松村沙友理は「私何もNGないんだけど、年齢だけはNGなんだよー」という笑える一面も垣間見れた。
 遠藤さくらがセンターの『ごめんねフィンガーズ・クロスト』が会場の空気をシリアスなものへと一瞬で変える――。
 ブイティアールがスクリーンに映し出される。松村沙友理が次の楽曲『でこぴん』について語っている。それは、白石麻衣が卒業するにあたって、一番に声を掛けてくれた後輩がおり、白石さんの分まで私が声を掛けます、と言ってくれたのが凄く嬉しかったというものだった。
 だから今回は、ぜひその子に、まいやんのポジションに入って欲しいなと、松村沙友理は語った。
 そのメンバーとは、向井葉月であった。『でこぴん』が始まる――。
 駅前木葉は『でこぴん』の歌詞を口ずさみながら、また新しい涙を落とす。
 四人も何万回も口ずさんだであろう楽曲をまた、口ずさむ。
 違うステージで待つ新内眞衣が映し出されると、『今、話したい誰かがいる』が流れはじめ、松村沙友理は新内眞衣との二人でこの楽曲を歌った。
 曲中、突然に泣き崩れた新内眞衣……。つられるように、松村沙友理も涙する……。歌声は、涙声の様であった。
 五人は爆発する感動の渦に、感涙する。抱き合って、二人は楽曲を終えた。
 ブイティアールでは、松村沙友理が生田絵梨花についてを語っていた。彼女は本当に凄いと。素敵であると語っている。
 からあげ姉妹である。
 風秋夕はスクリーンを眺めながら、思い耽る。
 まちゅはいつも笑っててくれた。本当に楽しいから笑う、そんな人だと思えた。
 泣いている時期もあった。支えたいと、どんなに心に思った事だろう……。
 今卒業していくまちゅは、笑っている。それを、何よりも誇らしく思う。
 メンバー皆に優しい人は嫌い。何度も言われたね。でも、家族って、一人じゃないじゃない? それと、同じかな。乃木坂にいたから、まちゅを見つけ出せたんだし。
 一生のお願いを、もしもここで使えるなら、使えるなら。使っておきたいな。
 願いは、そうだな……。
 まちゅが、最後まで笑顔で卒業できますように。だ……。
「まちゅーーーーー! まーーーちゅーーーーーーーーー!」
 風秋夕は大きく微笑んで、誇らしく思い出を蘇らせていく。小さく、涙しながら。
 『無表情』が始まる。何千何万回も聴いたであろう懐かしい楽曲に、稲見瓶は耐え切れずに、また静かに、声を殺すように泣き始めた。
 いまだに好きというこの感情が、いまいちわからない。好きだけでは成立しなさそうだ。
 方程式は、まちゅの笑顔かな。いっぱいの苦労を積み重ねてきた人の微笑みは、実に尊い。まちゅはそんな人だと思う。
 まちゅが乃木坂に選ばれてから、すぐに十年が経った。俺もいつの間にかに、大人になっていたよ。まちゅの卒業まで見送れるなんて、こんな幸福な事は他にない。
 好きだと、大好きだと胸を張るよ。
 その明るい笑顔が大好きなんだ。
 永久にとは言わないけど、笑っていて欲しい。得意分野ではないけどね、俺もたまには君を笑わせてみよう。
 共有したこの十年は、きっとそれを叶えるだろう。
「まちゅ、卒業、おめでとうございます……。まちゅーーーーー!」
 稲見瓶は大きく息を吸い込んで、大きな声でスクリーンに映る松村沙友理へと叫んだ。次から次へと溢れ出す涙も、今は気にもとめないで。
 『1・2・3』が流れる。磯野波平は可愛すぎるその二人の姿を眼の奥に焼き付けていく……。
 まっちゅん、まっちゅん、まっちゅん。
 まっちゅん、まっちゅん、まっちゅん、まっちゅん、まっちゅん……。
 思い出がいっぱいだぜ。すげえ事によう、思い出すのは楽しかった事ばっかりだぜ。
 いつもハートの口で笑ってたっけなあ……。
 いつの間にか、誰よりもいい女になりやがって……。引き止めらんねえじゃねえか……。
 こんなに、こんなに、俺を誘惑しておいて、何処に行くっていうんだよ……。
 行くんなら、ついてく。何処まで行けるだろうな。
 行こうぜ、まっちゅん。
 これからも一緒だぜ。
 ずうっとだ。
「まっちゅん! まっちゅん! まっちゅーーーーーーんっ!」
 磯野波平は、鼻水をすすり上げながらエールを送る。今はそうする事しかできないのではなく、今こそそうしたかったからだ。
 会場に『やさしさとは』が流れ出す。歌うのは、松村沙友理と生田絵梨花の二人だけだった。松村沙友理は泣いていた。いつからか、少しずつ歌うメンバーが減っていき、ついに二人きりになり、そして、楽曲を歌い終えた後で、生田絵梨花がこれからこの曲を一人で歌っていく事を決心した。
 からあげ姉妹で、語り合うかのようなトークが始まる。まるで慕い合う本当の姉妹の様であった。
 松村沙友理は、次の準備に向かった。代わりに久保史緒里がMCとしてその場を仕切ってみせた。
 続いての楽曲は『急斜面』。これを歌うのは松村沙友理一人であった。しかし、スポットライトは三人分照らし出されている。駅前木葉は、御三家と呼ばれたいつかの三人の姿を思い出していた……。
 最初は、橋本奈々未さんがいて、そして、白石麻衣さんがいて、松村沙友理さん、あなたがいました。私が最初に覚えたユニットです。御三家……。
 今はいない、ななみんのスポットライトがありました。
 今はいない、まいやんのスポットライトがありました。
 あなたに寄り添って、あの御三家が蘇ったかのようでした。それと同時に、時の経つ速さを呪いました。
 私はずっと、あなたを支えていきます。
 私はずっと、あなたを大好きでいる。
 私はずっと、あなたの話題で尽きない事でしょう。
 私はずっと、だから、幸せでいられるでしょう。
 まっちゅん、あなたの笑顔が大好きですよ。
 生涯忘れられない思い出が、沢山になりました。
 どうか、この十年間を誇って下さい。
 ありがとう。卒業、おめでとうございます。まっちゅん。
「さゆりぢゃーーーん、まっぢゅーーーん、まっぢゅーーーーん!」
 駅前木葉が泣きじゃくる姿は、まるで幼子のようであったが、その誇らしそうな笑みだけは、幼子では浮かべられないだろう。