再見 五 その二
「折角、連れ出してやったのに!、お前と来たら!!。私に何の恨みが!!。粋で格好の良い、私の評判が崩れただろ!。」
『私は何もしていない。皆勝手に言っただけだろ?。』
そんな風に小首を傾げ、可愛らしく見せてみる。
《、、、、まぁ、、確かに、、こいつは歩いていただけだ。私が?白ザルを追いかけて?、剣を渋ったせいだと??。そんな馬鹿な、、。》
白ザルが困る藺晨を見て、くすくす笑っているのが分かる。
『まぁまぁ。
大の漢が細かい事を、あれこれうるさいと、女子に嫌われるぞ。』
「全く、、、、何て性悪な奴だ!。見誤っていた。連れてくるんじゃなかった。」
『ふふふ、、、そう言うな。』
白ザルは藺晨の持つ剣を、ひょいと取り上げ、、
「、、あっ、、、コラッ、。」
いとも簡単に、藺晨は奪われてしまった。
『あはははは、、油断大敵だぞ。この剣は私の物だ。』
「クwwww。」
白ザルは、何事も無かったように、女子のように両手で剣を抱え、さっさと歩いて行く。
《なんとも、、何処で覚えたのか、、傍から見ればまるで女子だ。、、、、まぁ、女子にしては、ちょっと大きいが、、。、、、ちょっとじゃないか。》
楽しげにノリノリな白ザルを見ていて、悔しい事は悔しいが、何処か爽快で、これ以上、白ザルをどうにかしようとは思わない。
《まさに天真爛漫、、この世の中に、お前のような奴がいようとは、、。》
心の奥で沸き起こる、わくわくとする気持ちを、藺晨は抑えられない。
剣の包みを抱えて歩く白ザルは、とても得意げな。
横で白ザルを見ている藺晨は、剣を仕上げる手伝いをしてやろうとすら、思えてしまう。
「おい、馴染みの皮職人がいる。連れて行こうか?。その剣は、鞘が要るだろう?。」
白ザルはうんうんと頷き、笠が上下に動く。
「あはははは。」
白ザルのあっけらかんとした素直さに、笑わずにはいられなかった。
《なんて奴を友にしてしまったのか、、、この頃楽しく過ごせるのは、白ザルのお陰なのだな。
毎日が同じ繰り返しで、琅琊閣を訪ねて来る、名士やら学士と父親の話を聞いていてもつまらない。
妓女を連れた、とびきりのお祭り騒ぎも飽きた。
白ザルと過ごしている刻の、心の充足には及ばない。
それは、私が、白ザルに、何かしてやりたい、喜ばせたいと思うからなのだ。》
一時は藺晨に怒鳴られその場から散った街人が、こっそり顛末を見ていた。
「若閣主が女子の言いなりに、、、。」
人々の噂は尾鰭(おひれ)を持ち、勝手に泳いでゆく。
皮職人の店では、白ザルが、あれこれと図を描いて、大雑把に店主に指示をしていた。
剣に興味のある女、を、店主は怪訝に思っていた。
ましてや、藺晨が連れて来た女なのだ。
気まぐれで、我儘な何処ぞの令嬢が、訳も分からず剣の装飾に口を出して、無理難題を吹っかけられるのではないかと、警戒せずにはいられない。
藺晨は横から、伝わらない部分を補足した。
白ザルが皮を選ぶ。
皮は、丈夫で軽量な材質を選んでいた。黒水牛の皮だと。
店の棚に巻かれて置いてある皮材の中から、白ザルは一目(いちもく)でこれを選び出した。とびきりの上等な皮で、初め、店主も使うのを渋っていた。
藺晨は白ザルを、ただの武芸馬鹿かと思っていたが、こういった、善し悪しが分かり、一流品の何たるかを知っているのだと思った。
だが藺晨はこの剣を、白い皮で鞘を作り、宝石を鏤(ちりぱ)め、美しい剣に仕上げようと思っていたのだ。
「は?、何故、それを選ぶのだ。そこはコレだろう?。」
『剛鉄なこの剣には、こっちが正解だろ。”柔”にしてどうする。まぁ見てろ、この剣に相応しい鞘にする。』
白ザルは皮を選ぶと、細かな指示を更に紙に書き、店主もそれを理解した。
店主は、何も分からない世間知らずな令嬢では無いと、少なくても剣の装飾は知っていると、そう白ザルを理解した。
店で一番の職人に作らせると、店主が約束してくれた。店主も仕上がりを楽しみにしている様だ。
何より、白ザルが一番楽しみにしている。
藺晨とは好みが違い、白ザルにあれやこれや口を出したが、結局、白ザルの思う通りに、、、。
長らく楽しみにしていた剣は、白ザルに奪われ、、打ち上がった剣の鞘を、こうしようああしようとずっと考えていたのに、、真逆の仕上がりになりそうだった。
ただ、白ザルが喜んでいる。
それが藺晨には嬉しかった。
「さて、喉が渇いたな。茶でも飲んで行くか。」
白ザルもまた、喉が乾いていたらしく、こくりと頷いた。
二人は茶坊に入る。
「若閣主、ようこそ。」
店主が出迎え、恭しく辞儀をする。
藺晨は店を贔屓にしているのか、丁重に扱われている。
だが、店主は鈍いのか、、、。
「若閣主、今日はこちらの姑娘をお連れで、、。」
『お前は、そんなに取っかえ引っ変え、女子を連れてくるのか?。』
藺晨は、眉をひそめた白ザルの視線に気が付く。
藺晨が、余計な事を言うな!、と、店主を睨みつけると、店主は漸く察した様子で。
「あ〜、、イヤイヤ、、風雅な若閣主にお似合いな、上品な姑娘でいらっしゃる。お二人はお似合いですよ。」
《店主は勘違いしている。白ザルの事を、私の許嫁か想い人だとでも思っているのか?。》
女子連れで、連れが違うのを指摘され、睨まれたとなれば、当然の勘違いなのだが、、。
「笠を被っていても、姑娘の気品が漂いますよ。さぞや富貴な身分のご令嬢なのでしょう。さすがは若閣主。」
「違う!!!、この者とはそういった関係ではない。
、、そう、この者は友人だ、、、、たっ、、ただの友人!!。」
、、、、苦しいな若閣主、、いつも冷静な若閣主でも、女子の事で、この様に苦しそうな姿を見せるとは、、いやぁ、、お若いお若い、、、。
そう思えると、店主は何故か、己の若い頃を思い出し、ニヤついて、くすくすと笑いが込み上げ、藺晨に聞こえない様、隠すのに必死だ。
「www。」
藺晨が苦々しく思っていると、藺晨の左腕にふわりと巻き付く手の感触。
「、、ん?。」
なんと白ザルが女子の様に、藺晨の左腕をぎゅっと抱きしめて、、、。
「ほぉぉ、、、やっぱり、、、。」
店主、ニヤニヤ、、。
「おいっ!!、やめろっ!、離れろ!!。」
「ぅん、、、。」
藺晨が白ザルを引き剥がすと、白ザルは甘ったるい声を出す。『もう、、若閣主ったら、照れ屋さん』と言った感じだ。
《お前はwww、、後で覚えてろよ、、、。》
藺晨は睨みつけるが、白ザルはもじもじとした仕草で、、、。『嫌だわ、、私ったら、人前で藺晨様に触れたりしてハシタナイ、、恥ずかしい、、。』そんな乙女の恥じらいを見せた。
これには店主もキュンとしてしまい、、。
「若閣主、店先では何ですので、、、二階の個室に、ご案内したしますので、、お二人でうふふふふふ、、、。
ささ、、こちらへ、、。」
少しお節介な店主だった。
「要らん気を回すな!!。下の茶房で十分だ!。
いつもの茶を!。」
「おやおや、、、遠慮なさらずとも、、。」
藺晨は、店主が言い終わる前に、さっさと客が居る、座席の方へと歩いて行く。