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ポケットの中の夏。

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 電脳執事のイーサンは「おりません」と答えた。
 風秋夕は溜息をつく。「毎回配信ってわけにもいかないのかなぁ?」
「どうだろうね」稲見は首を傾げた。「やってないんだから、それなりの理由があるんだと思うけどね」
「配信もちゃんとライブだけどよぉ、会場にも行きてえよな! やっぱ!」磯野は頭の後ろに後ろ手を組んで明るく言った。「それこそコロナが終わったらよぉ、叫べるしな!」
「今は、配信だと声を出せるという、とくてんがありますものね」駅前は想像しながら言った。「それこそ、会場なら、コールに必死で、汗だくだったわ……」
「俺は祈るんだ、たまーに」夕は笑顔だった。「乃木坂と、そのまわり全ての人の幸せと、ライブができますように……てさ」
「そうですね、次のお題は、ライブで好きな曲、がいいですね」
 何個目かのお題が決定した。お題は「ライブで好きな楽曲」である。
「裸足でラバーだ!」磯野は興奮して言った。
「サマーな」夕は嫌そうに訂正する。
「だ裸足でサマーだ!」磯野は興奮して言った。
「イナッチは?」
「うん……、意外と、制服を脱いでサヨナラを…とか、やさしさとは、とかね」
「名曲と可愛い系な」夕は楽しそうに言った。
「ファンタスティック3色パンとね、スリー・フォールド・チョイスも好きだね」稲見は更に続ける。「ロマンティックいか焼きも好きなんだ、実は……」
「アーリエス・トーラス・ジェーミニ・キャーンサー、だろぉ?」磯野は歌った。
「何それ……」夕は眼を見開いて驚く。「まさか、あらかじめ語られるロマンスだったの?」
「しらじらしい、うっせえほっとけ!」
「あれですね、ライブだと、他の星から、凄く好きですね」駅前が言った。
「小生は日常、好きでござるな~」あたるは笑顔で言った。
「夕は?」稲見がきいた。
「ありがちな恋愛、ひと夏の長さより…、泣いたっていいじゃないか、隙間」夕は思い出しながら言った。「シンクロニシティ、インフルエンサー、逃げ水」
「あー逃げ水な! あれ最っ高な!」磯野ははしゃいで言った。
「アナスターシャもいいでござる」あたるは眼を閉じて言った。「ライブで聴くアナスターシャは格別でござる……」
「なぁちゃんさんのソロ曲も、大好きですよ。全部」駅前は微笑んで言った。
「ガルルと、せっかちなカタツムリな」磯野は笑顔で言った。「あと、世界で一番孤独なラバーな!」
「僕は僕を好きになるもいい」稲見は眼鏡の位置を修正しながら言った。「帰り道は遠回りしたくなる。もいいし、ごめんねフィンガーズ・クロストもいい」
「きっかけを忘れてるでござるよ!」あたるが言った。
「アンダーもいいですね」駅前は両手を合わせて嬉しそうに言った。
「錆びたコンパスもいい」稲見は駅前を一瞥して言った。
「何度目の青空か、最高な!」磯野はにやけて言った。
「アゲインスト!」夕は思い出したかのように言った。「アイシー!」
「四番目の光!」あたるは笑みを浮かべて言った。
「三番目の風な!」磯野は笑顔で言った。
「サヨナラの意味もいいですよね」駅前は誰にでもなく言った。
「ハルジオンが咲く頃もいいんだよ」夕は微笑んだ。「あと、白米様と、さゆりんご募集中な!」
「気づいたら片想いもいいだろ!」磯野が慌てるように言った。「無表情姉妹の1・2・3に、僕だけの光!」
「からあげ姉妹な……」夕は嫌そうに磯野を一瞥した。
「トキトキメキメキ! 私のために、誰かのために、名曲でござる!」あたるは興奮気味に言った。
「私起きる、も、初恋の人を今でも、もいいんですよ」駅前も興奮気味に言った。
「強がる蕾(つぼみ)」夕は笑顔で言った。「全部 夢のまま。ハウス。ジコチュー。シング・アウト。ルート246。あなたのために弾きたい。君の名は希望」
「空扉!」あたるは興奮して言った。「僕は咄嗟(とっさ)に嘘をついた!」
「きりがないね」稲見は短く笑った。「硬い殻のように抱きしめたいを忘れちゃいけない」
「あれ、それ最初に言わなかったっけ?」夕はそう言った後で、考える。「言い忘れたか……」
「忘れんな、つったら、みなみちゃんの、お願いマイハートな!」磯野はにやけて言った。
「本当にきりがないな」夕は笑った。「二百曲以上あるんだもんな……」
「光陰矢(こういんや)の如(ごと)し」稲見はしみじみと言った。「時が経つのは光の矢の如しだ」
「そういや、そろそろ純奈ちゃんとみり愛ちゃんの、ラストショールームだな」磯野は儚そうに呟いた。
「明々後日(しあさって)か」夕は溜息を吐いた。「はえーなー……。時の流れ、誰か止めろよ」
「時は止まらぬでござる」あたるは深く、呟いた。
「それこそ、光の速さの中ならね、条件的に、時間は静止するけど」稲見は真顔で夕に言う。「速いよ」
「そうね」夕は嫌そうに稲見に言った。
「集まりましょう」駅前はこちらを振り返った四人に言う。「八月十八日、みり愛さんと純奈さんのラスト猫舌ショールーム。〈映写室〉に、集まりましょうよ」
「そうだな」と夕。
「ファン同盟でござるもんね!」とあたる。
「それがいいな」と磯野。
「当日は、二時間くらいあるから、ゆっくり堪能しよう」と稲見。
「じゃあ、当日。今日は解散」夕はあくびをして、言った。「誰もいない日は寝るに限る……」
「俺も爆睡しよ」
「小生の夢はきっと乃木坂の夢でござるよ」
「寝れるかな……」
「あら、寝れないんですか? 私はすぐに寝れますよ」
「じゃあな、皆」
 風秋夕は〈ブリーフィング・ルーム〉から退出していった。

       7

 少しだけ時を遡(さかのぼ)る事数日、二千二十一年八月十日の夜の事である。〈リリィ・アース〉では現在、地下六階の〈無人レストラン〉二号店にて、一期生の齋藤飛鳥、秋元真夏、三期生の向井葉月、四期生の清宮レイ、賀喜遥香、北川悠理、佐藤璃果、矢久保美緒、早川聖来、卒業生の白石麻衣、松村沙友里の生誕祭パーティーが行われていた。
 出席者は生誕者本人達と、乃木坂46と元乃木坂46と、乃木坂46ファン同盟の五人である。尚、スケジュールの為、欠席者も何名かいる。
 会場と化した〈無人レストラン〉二号店は、高い天井に、隅々にまで飾られた美しい装飾、広い空間、澄んだ空気、敷き詰められた青い幾何学模様の絨毯に、巨大な円卓のテーブル席、用意されたビュッフェ形式の御馳走、などが際立っている。
 皆が、基本的に立食(りっしょく)していた。
 齋藤飛鳥はふと、こちらを見つめる視線に気が付いた。それは風秋夕からの視線であった。
 カクテルを片手に持ったはるやまのスーツ姿の風秋夕は、少し離れた場所から、笑顔で齋藤飛鳥へと歩を進めた。
「飛鳥ちゃん、おめでとう」夕はとびっきりの笑顔で飛鳥に言った。「宇宙一めでたい日をありがとう。飛鳥ちゃんに乾杯」
「ちょっとやりすぎじゃない?」
 そういった齋藤飛鳥は、謎めいた漆黒のドレスに身を包んでいた。頭には輝くティアラが載っている。
「ドレスコードまであるなんて」飛鳥はそう囁いて、ちびり、とシャンパンを一口飲んだ。
「パーティーってそういうもんだよ」夕は微笑んだ。「お似合いですよ、お姫様」
作品名:ポケットの中の夏。 作家名:タンポポ