ポケットの中の夏。
「賭けに負けてさえいなけりゃ、こんな格好してないわ」飛鳥はくすっと笑った。
「ブラックジャックの王様だからね、俺は」夕は上機嫌だった。「ちゃんと説明したルール通りにやったよ。ああ、しかし、なんて綺麗なんだ、飛鳥ちゃん。惚れ直すよ……」
「ありがとう……言ってろ」飛鳥は苦笑した。
「飛鳥~」
齋藤飛鳥は振り返る。声の主は白石麻衣であった。彼女は情熱的な赤い色のドレスに身を包んでいた。ティアラもしている。
「飛鳥おめでと~」麻衣は満面の笑みを浮かべて飛鳥に言った。
「おめでとう、まいやん」飛鳥も微笑んだ。「久しぶり」
「久しぶりだねえ!」麻衣は嬉しそうに言った。「あ、夕君も久しぶり~」
「まいやん久しぶり」夕は微笑んだ。「綺麗だ、まいやん」
「ありがと~」麻衣は微笑み返す。
「観てるよ」飛鳥はにやけながら麻衣に言った。「ユーチューブ。マイチャンネル」
「えーありがとう!」麻衣は満面の笑みを浮かべる。「飛鳥も観てるよ。歌番組とかで」
「ども」飛鳥はぺこ、と頭を下げた。
「おめでとう~」
齋藤飛鳥と白石麻衣はその声に反応する。声の主は秋元真夏であった。彼女も白石麻衣とはデザインが違うものの、同じく情熱的な赤い色のドレスを身に纏(まと)っていた。ティアラも輝いている。
「けっこう本格的なパーティーだね」真夏は微笑んで、短く笑った。「リリィに入った時に、イーサンのアナウンスで、個人部屋にドレスの用意がされてるからって言われて」
「言われた言われた」麻衣も笑った。「おんなじ色じゃーん、赤!」
「そうなの~。あれじゃない? 双子だからじゃない?」真夏は笑顔で言った。
「ん~」麻衣は真顔で下唇を噛んだ。
「飛鳥ちゃん何杯目?」夕は飛鳥に言った。「ワイン? それ」
「シャンパン」飛鳥は上目遣いで答える。身長差の為、自然とそうなるのである。「一杯目……」
「よし、お腹に何か入れよう」夕は飛鳥にそう言ってから、麻衣と真夏にも言う。「ねえねえ、まいやんまなったん、お腹に何か入れようぜ。取りに行かない?」
「ああ行くー」と笑顔で麻衣。
「行こう行こう」と真夏。
「飛鳥ちゃん、手、繋いでく?」夕は飛鳥に微笑む。
「はいはい繋ぎません」飛鳥は先に歩き出した。「はぁ……」
矢久保美緒はようやく見つけた松村沙友里に声を掛けた。矢久保美緒は黄色主体のドレスに身を包んでいる。松村沙友理はピンク色のドレスに身を包んでいた。二人ともがティアラをしているが、そばにいる新内眞衣はドレスは着ているが、ティアラはしていなかった。
どうやら、生誕祭の本日の主役だけが、ティアラを使用していている様子であった。
「わあ矢久保ちゃーん」沙友理は美緒に微笑んだ。「久しぶり~」
「お久しぶりです」美緒は緊張気味に挨拶を済ました。「今日も、すっごい可愛いです! もう、存在そのものが可愛いです!」
「ありがとー、えへへへへ」沙友理は満面の笑みを浮かべる。
「私は?」眞衣は冗談で言った。
「あ……、可愛いです」と美緒。
「嘘嘘と」笑って眞衣。
賀喜遥香は青いドレスを着ている。頭にはティアラがあった。清宮レイは緑色のドレス姿だった。清宮レイもティアラをしている。早川聖来は青い水玉模様のドレス姿だった。ティアラをしている。北川悠理は水色の空と雲がモチーフのドレスを着ていた。ティアラを身に着けている。
この四人と一緒に雑談に花を咲かせている、遠藤さくらと筒井あやめと田村真佑は華やかなドレスこそ着ているが、やはりティアラはしていなかった。
「そーめん、めっちゃ美味しかった!」遥香は聖来に言った。「いやほんと、食べて食べて。すっごい、価値観変わるから」
「パーティーにそーめんあるん?」聖来は笑った。「パーティーにそーめんて、なんのこっちゃ」
「お蕎麦、美味しかった~」レイは満面の笑みで言った。「いっぱい食べちゃった」
「あー、美味しかったー!」あやめも微笑んで言った。「お蕎麦食べたのー」
「あれこそ、さくちゃんの実家から届いたお蕎麦でござるよ」あたるはにこやかに説明した。「天下一のお蕎麦でござる! 小生も、ちと、食べ過ぎたでござるよ。もう売り切れるでござるよ」
「え、本当ですか?」さくらは不思議そうにあたるに言った。「うちの?」
「でござるよ」あたるはにこやかに頷く。「食べるなら、急いだほうがいいでござるよ」
「ううん、大丈夫です」さくらは僅(わず)かに微笑んで言った。
「トマト、新鮮で美味しかったですよ」悠理は桃子に言った。
大園桃子は顔を驚かせて言う。
「えトマトなんてあった?」
「はい」と悠理。
「どこに?」と桃子。
「あ、」さくらが言った。桃子が振り返る。「フルーツとかのコーナーに一緒にあります。デザートのコーナーの近くの……」
「桃子ちょっと行ってくるね」
大園桃子は両手でドレスの裾を持ちあげて、すたすたと歩いて行った。
「あれー? 桃子どこ行ったのう?」蓮加が後ろを振り返って言った。「どっか行っちゃった」
「自由人だから」葉月は微笑んで言った。
向井葉月は黄色のドレスを着ていた。頭にティアラをしている。
「それよりここのフライドチキン、ちょ~う、美味しかったんですけど」葉月はシリアスな表情で皆に言った。
「フライドチキン?」祐希はきく。「ケンタッキーとどっちが美味しかった?」
「んんー、味の種類がそもそも違う!」葉月は顔を歪ませて答えた。
「ケンタッキーフライドチキンより美味しいフライドチキンはありませんよ」駅前は微笑んで言った。「皮が美味しくて、中身がジューシーで……」
「あ、なんかケンタッキー食べたくなってきた」祐希は口元を手で隠して笑った。
大園桃子は皿にトマトを綺麗に載せていく。その綺麗な大園桃子の横顔を、気が付いてもらえるまで、磯野波平はずっと人知れずに眺めていた。
「わ! びっくりしたあ~」桃子は磯野の存在に気が付いて驚愕(きょうがく)した。「んもう、やめてよ~。びっくりするじゃん!」
「桃ちゃん、ドレス似合ってるぜ」磯野は桃子に微笑んだ。「それな、レイちゃんの田舎(いなか)から送ってもらったトマトなんだよ。うんめえぞ」
「あー、へ~」桃子は感心して、一口食べてみる。「おううん、うんふう」
「桃ちゃん何も吞まねえの?」磯野は眉を上げて言った。
「……まだ、呑んでない」桃子は大急ぎでトマトを飲み込んで答えた。「お酒、ちょこっとだけ吞もうかな……」
「行こうぜ、桃ちゃん」
「はい」
大園桃子と磯野波平が移動してきたドリンク・コーナーには、ティアラを装着したターコイズ・ブルーのドレスに身を包んだ佐藤璃果と、ドレス姿の掛橋沙耶香と林瑠奈の姿があった。
「璃果ちゃん吞んでっか?」磯野は満面の笑みで璃果に言った。
「その顔やめて下さい」璃果は少しだけ本気で言った。
「きつい!」磯野は上を向く。「俺にきついの何で? 璃果ちゃん!」
「何呑んでるの?」桃子は皆にきく。「お酒は、まだダメでしょう?」
「はい」沙耶香が答えた。「ジュースです」
「桃子何にしようかな~……」桃子は〈レストラン・エレベーター〉の前で迷う。
「おーい波平」
振り返ると、風秋夕と齋藤飛鳥、白石麻衣と秋元真夏の姿があった。